第52話:接触

 エルレイズ共和国の首都ガガン、三日目。

今日はCランクタグを受け取るためにギルド本部へ赴く日だ。


ルーク達のガガンでの主な目的は、旧世紀の魔導具の性能を調べることと、六星の一角であるSランク冒険者をひと目見ることだ。昨晩相談した結果、今回は前者を最優先とし、後者は諦めることとなった。なぜなら魔導具に関しては今後の旅にかなり影響する可能性が高いが、Sランク冒険者を見れなかったところで特に問題は無いからである。


ちなみに六星を直に見てみたいと言い出したのはルークである。これは彼が密かに世界最強という夢を抱えていることに起因する。


ルーク達は朝食を取り、すぐさま宿屋を出た。

「今日も朝から賑わってるな」

「王国に虐げられていた頃の反発かも知れないわね」

「ワン」


王国の属国だった時代は、稼げば稼ぐほど、派遣された役人に目を付けられ搾り取られてしまうという社会構造だった。旅商人にはあまり響かないが、地元の商人にとっては死活問題であろう。しかし今は何も気にせずに商売ができる。それどころか、帝国→公国→共和国という新たな物流ラインが開通したことで、旅商人達の動きが活発になっており、今またとない稼ぎ時なのである。


「そういえば、腕が良いかつ信頼できる錬金術師さんは見つかった?」

「魔導具狂いで癖の強いマッドサイエンティストなら一人知っているのだが……」

ルークは頭にアレクサンドラを思い浮かべた。


「あー、翼竜の件の?」

「ああ」

「もう一度訪ねてみるのも有りっちゃ有りよね。最悪彼女自信でなくとも、知り合いを紹介してもらえばいいわけだし」

「確かに。じゃあCランクタグを受け取った後、もう一度アイツん家に行ってみよう」


ということで、今日の大まかな予定が決定した。


ギルドに到着後、前回と同じ受付嬢が担当しているカウンターに並んだ。シルラをモフりながら待つこと数十分、ようやく番が回ってきた。


「今日はどのようなご用件で……あ!あなた方は二日前の!」

「よく覚えてたな。冒険者は何千人もいるのに」

「黒いワンちゃんを連れている冒険者はあなた方だけですので」

「なるほど」


(イケメン×美女エルフ×可愛い犬とかいうビジュアル増し増しパーティを忘れるわけないのよね……)


「ご確認ですが、Cランクタグを受け取りにいらっしゃったんですよね?」

「おう」

「承知致しました。少々お待ちください」

受付嬢は引き出しの中から純金製のタグを二つ取り出した。


「お名前はルーク様とオーロラ様でよろしかったでしょうか」

「ああ」「そうよ」

「ではこちらになります」


二人は金色の輝きを放つそれを受け取った。

「「おぉ~」」

「これでお二人は正式にCランクに昇格となります!おめでとうございます!」


その祝言は周りの冒険者達の耳にも届いた。

「おい、今の聞いたか?」

「ああ。何やらCランクに昇格したらしいな」

「まだ若いのにやるわねぇ」

「あの犬かわいい」


受付嬢は続ける。

「Bランク以上に上がる際は昇格試験を合格しなければなりませんので、重々お忘れなく」

「わかった」

「他に質問はございますか?」


「今回は金のタグだったけど、これは上がるごとに豪華になるの?」

「はい。F~Dはアイアンで統一されていますが、Cはゴールド、Bは白金プラチナ、Aは金剛石ダイヤ、Sはミスリル。そして……」


「SSランクはオリハルコンとなっております。しかしこのランクに上がった冒険者は過去数百年間存在しませんので、ご参考程度にしていただければ幸いです」


その後ルーク達は受付嬢に礼を言い、カウンターから去った。

雑談をしつつ、ギルドの入り口へ向かう。


「SSランクか。噂で聞いたことはあったが、本当に実在するんだな」

「アタシはまったく知らなかったわ。というか、なんで噂を耳にした事があるのに今まで受付嬢に聞かなかったのよ」


「万が一無かった場合、『え?そんなランク存在しませんけど笑』とか言われたら恥ずかしいじゃないか」

「馬鹿みたい……」

「わふ……」


「まぁ何はともあれ、旅の目的がひとつ増えたな」

「SSランクを目指すってこと?」


「ああ、その通りだ。……嫌か?」

「逆よ。せっかくならやってやろうじゃないの」

「くっくっく。さすがはオーロラだ」


「シルラも付き合ってくれるか?」

「ワン!!!」

「そうか。ありがとな」


とその時。

「そこの君達。少し待ちたまえ」

「ん?」


近くのテーブルに座っていた冒険者パーティが立ち上がり、道を塞いだ。数は四人で、全員紫色の装備で身を固めている。そして胸部分には黒翼のマークが刻み込まれていた。


「お前ら一体何者だ?」

「私達はクラン堕天のメンバーだ」

「ああ、そういえば堕天はガガンに拠点を構えているんだったな。すっかり忘れていた」


オーロラはルークに耳打ちをした。

「ねぇ、堕天って何?」

「大陸で上から四番目の大規模クランだ」

「へぇ〜」


ルークは堕天のメンバーに視線を戻し、ハッキリと言った。

「すまんが後にしてくれ。今忙しいんだ」

「……君は黙っていなさい。私達が用があるのは、そちらの美しい女性の方なんだ」


冒険者パーティのリーダーらしき男はニコリと微笑む。

「我らのクランマスターが貴方様をお呼びです。ご案内させていただきますので、共にクランハウスへ向かいましょう」

といい、片手を差し伸べた。


「アンタ達のマスターとやらについて一つ質問があるんだけど、いいかしら」

「はい。なんでもお答えさせていただきますよ」

「その人、もしかして紫髪だったりしないわよね?」

「「「「!?!?!?」」」」


リーダーは動揺しながら呟く。

「な、なぜブランディッシュ様の事を……」


ルークの耳はその言葉を聞き逃さなかった。

(ブランディッシュ……?)


複数の単語が脳内を駆け巡る。

不審人物。堕天。クランマスター。六星。Sランク冒険者。紫髪。ブランディッシュ。


そして不揃いだった歯車がガチャリと噛み合わさり、全てを理解した。


「なるほど、そういうことか」





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