第51話:クラン
ここでもう一度クランについて説明させてもらう。まずクランとは簡単に言えば冒険者の集まりである。一番偉いのがクランマスターで、その次が副クランマスター、その下に冒険者達がいる。パーティーでクランに所属している者もいれば、ソロで所属している者もいる。
所属している冒険者達は定期的に上納金を納めなければならない。その代わり、他のメンバーと合同で依頼を受けられたり、機密情報を共有してもらえたりする。クランによっては新人を育成するプログラムを組んでいたりもする。要するに所属するメリットは大きいというわけだ。
ちなみにクランの元締めは冒険者ギルドだ。またギルドはクランの競争力を高める目的で、それぞれの実績や規模を参考に序列づけを行なっている。このバルク大陸には数多のクランが存在するのだが、実は大陸第四位の有名クランが、ここ共和国の首都ガガンに拠点を構えているのだ。
その名もクラン"堕天"。ここら一帯では知らぬ者無しの、泣く子も黙る猛者クランである。
とは言ったものの、堕天はかなりの謎に包まれている。誰がマスターを務めているのかすら、未だに公表されていない。もちろんギルドは全てを知っているが……。
ルーク達が別行動をした日の夕方、堕天のクランハウスに一人の男が現れた。所属メンバー達はそれに気がつき、頭を下げる。
「……」
男は無言のまま片手で制し、フラフラとした歩みで書斎に入った。そしてソファーにどさりと腰を下ろし、深く息を吐いた。
すると、後を追うように副クランマスターが入室した。
「ため息なんて珍しいですね。何か嫌な事でもあったんですか?」
「逆です」
「あー。昨日言っていた"女神"さんとやらに無事会えたんですね。どうでした、彼女は?」
「また心を……いや、魂を揺さぶられました。正直徒歩で帰るのすらひと苦労でしたよ」
「それはまた……」
「でもここに連れてこなかったという事は、誘いを断られたってことですよね?」
「その通りです」
「軽い提案ですが、いっそのこと目の前でスキルを発動し、実力を魅せてしまえばいいのでは?言い方は悪くなりますが、スキルを使っていない時の貴方はただの優し気な男性ですし。もっと言えば冴えないオジサンです」
「なるほど。そうすれば目を覚ましてくれるかもしれませんね」
「目を覚ます……?もしや、すでに彼氏か夫がいるので?」
「はい。諦めろと言うつもりですか」
「いえいえ、逆ですよ。実力で強引に奪い取ってしまえばいいんです。それがウチのモットーでしょう。正直な話、私を含め、メンバー達はずっと貴方が独り身な事を心配してたんですよ」
「あの子達が最近よく女性の話を持ちかけてくるのは、それが原因だったんですね」
副マスは満を辞して言った。
「貴方には堕天のクランマスターとして、また共和国の守護者として、そして大陸を代表する六星の一人として、そろそろ身を固めてもらえると助かります。"悪魔のブランデッシュ"さん」
彼の名はブランデッシュ。六星の一角として名を馳せている、Sランク冒険者である。
その夜、宿屋に併設された酒場にて。
「今日はどうだった?」
「無事翼竜の素材依頼を達成することができたぞ。依頼者の癖が強いもんで色々と苦労はしたものの、最後には結構融通してもらえた」
「融通って?」
「魔石をシルラに与えたことをすっかりと忘れていてな。少し詰められたのだが、結局破狼牙や外套、アクセサリー型魔導具を見せるのと引き換えにチャラにしてもらえた」
「なるほどね。でもアクセサリーが古代のものってバレなかったの?」
「何か聞かれたら上手く誤魔化そうと思っていたんだが、特に何も言われなかったんだよな。アイツが気付いた上であえてスルーしたのか、それとも普通に気がつかなかったのか、どちらかわからん」
「ふーん」
「とりあえず達成できて一安心ってところかしら」
「だな。で、そっちはどうだった?」
「えーっと、長くなるんだけど……」
オーロラはギルドでの聞き込みから、東の公園で不審な男に声をかけられた事まで丁寧に説明した。ちなみに、シルラは彼女の膝の上でぐっすり眠っている。
ルークは眉をひそめ、問う。
「ほーう。触られたのか?」
「いや、シルラが魔眼で阻止してくれたから大丈夫よ」
「ナイスだ、シルラ。ナイシルだ」
「わふ」
シルラは寝ぼけながら空返事をした。
「もうこの都市で別行動はしない方が良さそうだな」
「アタシだって子供じゃないんだから……そんな気を使わなくても……。ほら、相手はそんな強そうじゃなかったし」
「ダメだ。それだけは譲れん」
「もう……」
オーロラは過剰に心配してくれるルークに対し、少し照れくさい気持ちになった。
その後、三人は会計を済ませ部屋に戻った。
「zzz」
「オーロラ、シルラが爆睡してるぞ」
「そんなの見ればわかるわよ」
「要するに……」
「要するに……?」
「確定演出ということだ」
「あ///」
久々に熱い夜を過ごした二人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます