第49話:マッドサイエンティスト

 ルーク達は無事共和国の首都ガガンに到着し、その足でギルド本部へと向かった。そこでゴブリンの耳を大量売却し、見事Cランクに昇格した。Dランクに昇格した際、"共和国最速"と言われた事から推測するに、おそらくCランク冒険者になったのも最速であろう。受付嬢は気がついていなかったが……。


その日は宿屋を確保し少し休憩した後、三人で街に繰り出した。首都ともなれば夜間も明るく賑やかなので、レストランや酒場をハシゴして共和国グルメを堪能した。


余談だが、夜の街は常に露出度の高い服を着た女性達が徘徊しており、ルークは何度も言い寄られた。そういう店の客引きなのか、それとも普通に声をかけてきたのかはわからないが、その都度オーロラが鬼の形相で追っ払った。別にルーク自体は悪く無いのだが、なぜか叱られ、ついでにたんこぶもできた。


翌朝、宿屋の食堂でモーニングを楽しんだ後、今日の予定を考えるべく再び自室に帰ってきた。


「まずは早いうちに依頼者の元へ、翼竜の素材を届けなければ」

「噂のSランク冒険者にも会ってみたいわよね」

「わふ」


ここでオーロラが珍しい提案をした。

「たまには別行動をしてみない?」

「ん、どうしてだ?」

「アタシ達って常にくっ付いて行動してるでしょ?それが当たり前になるのはダメだと思うのよね」

「なるほど。然るべき時にバラバラで行動できるよう今から慣らしておこう、というわけか」

「そうゆうこと」


何か事件が起き、互いに離れ離れになってしまった際に冷静に対処できるように、また何かの作戦を別々で行う際に各々焦らず進められるように、今から慣らしておくことになった。


「どっちが翼竜係で、どっちがSランク冒険者係を担当する?」

「オーロラが好きな方を選んでくれ」

「じゃあアタシはSランク冒険者係で」

「わかった」


そして二人は、腹を膨らませベッドの上で気持ち良さそうに仰向けになっているシルラに視線を移した。


「問題はどちらがシルラを連れて行くかだよな」

「そうね」

怪しい笑みを浮かべながら、シルラに近づく。


「「もちろん俺(アタシ)だよな(ね)??」」

「わ、わふ……」


シルラが決断しきれなかったため、ジャンケンで決めることになり、結果オーロラが勝利を収めた。

「やったー!!!シルラゲット!!!」

「シルラを取られてしまった……」

「わっふ」


三人は宿屋を出て、オーロラとシルラはギルド本部の方へ、ルークは依頼者の家がある方へと向かった。

「昼間だから大丈夫だとは思うけど、くれぐれも変な女性にうつつを抜かしちゃダメよ〜」

「ワン」

「そっちも変な男には気をつけろよ。最悪殺してもいい」



ルークは受付嬢から渡された依頼書を広げた。

依頼書には『まずはガガンの西端にある噴水公園へ向かうべし』という文字と共に、依頼者が描いた簡易地図が載っている。


三十分も歩けば、早速お目当ての公園が見えてきた。公園では子供達が楽しそうに遊んでいる。


「ここが噴水公園だから、あそこの道を右に曲がった行き当たりの家に依頼者が住んでいるのか」


ルークは地図をチラチラと確認しながら歩みを進め、ついに目的地に到着。

「なんというか……中々風情のある古民家だな……」


依頼者が住んでいるであろう古民家は所々が崩れており、また至る所に蔦が巻きついていた。長らく手入れされていないのだろう。

とりあえず戸を叩いてみることに。


コンコン。

(あれ、いないのか?)


コンコン、コンコン、コンコン。

(…………出直すか)


ルークが踵を返そうとした、その時。

「はぁ〜い、ちょっと待ってね〜」

ガチャ。


ドアが開き、比較的若い女性が顔を出した。

その女性は白衣を着ており、目の下に隈をつくっている。一見するとマッドサイエンティストである。


「ごめんね〜、研究に熱中してて気が付かなかったよ〜、入って入って〜、ワイバーン依頼を受けてくれた人でしょ〜?」

「ああ。ではお邪魔させてもらう」


部屋の中には怪しい魔導具や本が散乱しており、テーブルの上には謎の液体が入った試験管やフラスコが置かれていた。


「汚くてごめんね〜、嫌でしょ〜?」

「そんなに嫌ではないから安心してくれ。むしろ生粋の研究者臭が漂っていて良いと思うぞ」

「ありがと〜、君良い子だね〜」


ルークは椅子に座り、女性は積み上げた本の上に座った。そして目を合わせるやいなや、女性の表情が変わった。

「じゃあ早速素材を見せてくれるかな。そのマジックバッグの中に入ってるんでしょ?」


(研究の事になると性格が変わるタイプの人間か。これを一目でマジックバッグだと見破ったのもすごい。こいつ頭の回転が相当早いな。さすが研究者といったところか)


マジックバッグは普段表に出回るような魔導具ではないのにもかかわらず、当たり前のように見破った。このことから、かなり魔導具に精通していることがわかる。


「まずは互いに自己紹介くらいしないか?」

「そうだね。またせっかちな部分が出てしまったよ。悪い癖だ。私の名はアレクサンドラ。しがない錬金術師さ。専門は薬草学と魔導具学だ。よろしくね」


「俺はルーク、Cランク冒険者だ。よろしく頼む」

「その刀や外套、指輪なんかも気になるけど……とりあえずワイバーンの素材を見せてくれるかな?話はそれからだよね」


(魔銃リボルバーをマジックバッグにしまっておいて良かった……。もし腰に装着したままだったら、今日は帰らせてもらえなかっただろうな)

と、心の中でほっと息を吐いた。


ある意味変な女性に捕まってしまったルークであった。





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