第48話:昇格
ルークとオーロラ、シルラの三人はそれぞれ冒険者ギルドのタグと従魔の証を持ってるため、スムーズに門を潜ることができた。
「「おぉ〜」」
「わっふ〜」
そこには色鮮やかな街並みが広がっていた。共和国の首都ガガンの面積は要塞都市以上、王都以下といったところ。それだけでかなり規模が大きいことがわかるが、目を見張るべき点はそこではない。建造物一つ一つの形や色が、他では見られないようなものとなっている。共和国内で独自に形成された文化の全てがここに詰まっているのだろう。
「共和国の王族は良い趣味をしている。金と欲に塗れたグレイスと違って」
「街並みにを見るためだけに寄っていく人も沢山いるでしょうね」
「とりあえず冒険者ギルドに行くか」
「そうね。マジックバッグの中にずっとゴブ耳を入れておくのも嫌だし」
「わふ」
マジックバッグの中は少々特殊な空間になっており、ゴブリンの耳を入れたからといって、決して他の物に血がついたり臭いが移ったりするわけではない。ただゴブリンはいろいろな理由で女性冒険者達から嫌われており、オーロラもその例外では無いだけだろう。なぜ嫌われているのかははっきりとは言わないが、理由はゴブリンにメスの個体が存在しない事から連想してみて欲しい。
人と馬車を避けつつ大通りを進めば、一時間もしないうちに剣と剣を交差させた紋章を発見することができた。あれが冒険者ギルド本部である。
「まぁここもゼイクロードと同じで、冒険者の母数が大きいから特に絡まれるなんてことはないと思うが、十分に注意してくれ」
「自分で言うのも何だけど、アタシたちって少し目立つものね」
「その通りだ」
「わっふ」
それを肝に命じ、三人はギルド本部の中に入った。ちなみにシルラはオーロラが抱っこしている。
実はここはガガン内で王城の次に面積が大きい建物なので、外の見た目からは想像できないほど奥に広かった。
「広すぎて奥が見えん」
「同じ服を着ている冒険者が沢山いるわ」
「クランの連中だな」
「あんな感じなのね、クラン」
クランとはいくつもの冒険者パーティーが合わさり形成されたチームである。クラン内のルールに関してはそれぞれ違うので、また機会があれば随時説明する。余談だがクランの多くはクランハウスと呼ばれる建物を持っている場合が多い。
そのまま進み、受付の列に並んだ。
「これがギルド本部か……。規模も冒険者の実力も他とは大違いだな」
「王都の本部には行ったことがなかったの?」
「ああ。幼少期から冒険者という職業に憧れてはいたものの、まさか本当になるとは思っていなかったからな。あとシンプルに忙しくて行く暇がなかった」
「あー」
ルークは第三王子時代、巷で次期王と囁かれていたほど、その地位は確固たるものであった。しかし半ば伝説レベルの最下級スキルを授かり、今まで積み上げてきたものが全て崩れ落ちた。こんなこと誰が予想できようか。かの賢龍帝でも難しいだろう。
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
(あら、可愛いワンチャン)
「ホブゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンジェネラルの耳、あとワイバーンの素材を売りたい」
受付嬢は数秒間フリーズした。
「えっ」
(確か将軍と翼竜はBランクよね?翼竜に関してはほぼBランク上位だし……)
「は、はい。まずゴブリンの方は常時依頼として受け取らせていただきます。ポイントも付きますのでご安心を」
「では頼む」
ルークは耳が大量に入った袋を、懐に隠してあるマジックバッグから取り出し渡した。
「お、重い……」
「手伝おうか?」
「いえ、ご心配なく」
テキパキと中身を確認していく。
(うわ、すごい量ね……)
「冒険者タグを拝見させていただいても?」
「わかった」「忘れてたわ」
ルークとオーロラはタグを渡した。
そして受付嬢は本日二度目のフリーズに突入した。
「えっ」
(Dランク?えぇ?ディ、Dランク!?)
動揺しながらも口を開いた。
「こ、これにて依頼達成となります」
受付嬢は続ける。
「ワイバーンの方ですが、実は半年前から素材依頼が張り出されておりまして」
「内容が内容だから、放置状態になっていると」
「はい、その通りです。依頼者の方に直接届けて
いただければ、素材報酬とプラスして、依頼報酬とポイントまで付与させていただきますが、どういたしますか?」
「せっかくなら依頼の方にしちゃえば?届けに行くのもそこまで面倒じゃないし」
「だな」「わっふ」
軽く相談した結果、依頼報酬とポイントもいただくことになった。
「じゃあ依頼の方で」
「承知致しました〜」
受付嬢は慣れた手つきで書類に記入し始めた。
「今回の依頼達成で、お二人ともCランクに昇格致しました!おめでとうございます!」
「嬉しいには嬉しいんだが……なんか早くないか?」
「確かに。だってアタシ達この前Dに上がったばかりよね?」
「あの〜おそらく、ゼイクロードでかなりポイントが多く付与されているので、それが原因かと……。何か心当たりはございませんか?」
「「あぁ〜」」
「新種見つけたからか」ボソボソ
「たぶんギルドへの貢献度が高いからポイントもその分多いんでしょうね。納得だわ」ボソボソ
なんやかんやで依頼を達成し、二人のランクもアップした。
「最後に何か質問はございませんか?」
「大した質問ではないのだが、俺たちはまだDランクだったのに、疑うそぶりすら見せなかったことが少し気になる」
受付嬢は苦笑いをしつつ言った。
「言い方は悪くなってしまうのですが、実は逆ランク詐欺の方って結構いらっしゃるんですよね。単純に考えてみれば、どんな強い方でも始まりはFランクですから。特にお二人は堂々となさっていたので、本当に討伐したのかなどは、正直お聞きするまでもなかったです」
「なるほど。感謝する」
「ありがと〜」
「いえいえ」
その後三人は報酬金をもらい、踵を返した。
「またのお越しをお待ちしております!」
「いやぁ、スムーズに進んでよかった」
「さすがは本部の受付嬢さんね。完璧だったわ。ね?シルラ」
「わっふ」
ちなみにCランクタグを作るのには少々時間がかかるらしいので、また後日受け取ることとなった。
三人は上機嫌で入り口に向かう。
しかし、ギルドの端に立っている一人の男がオーロラに目を奪われていた。
「な、なんと美しい……」
(芸術品のような麗しい顔に、蒼天のごとく煌めく空色の髪……まるで女神が大地に降臨したかのようだ……)
「これは運命に違いありません。彼女をあの銀髪男の呪縛から解放するべく、早急に動かなければ」
男は爪を齧りながら人混みの中へ消えた。
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