第47話:森を抜けて

 ルーク達は予定より数日早く森を抜けることができた。その一番の理由は紛れもなくシルラの覚醒であろう。当たり前の話だが、魔物蔓延る危険地帯を三人で歩くより、巨大化したシルラの背に乗り風のように駆け抜けるのとでは、速さも危険度も全く異なる。


シルラの〈巨大化〉には、自身の身体だけでなく、身に付けている物体の大きさも変える能力がある。そのため、普段装着しているアクセサリーが壊れてしまうなんて事はないので安心してほしい。また従魔の証である腕輪は元から伸縮機能が付いているので、これに関しても問題はないだろう。


森を抜ける直前にシルラから降り、元の大きさに戻ってもらう。シルラは休憩がてらルークの頭にだらりと乗っかった。


「ありがとな」

「シルラのおかげで旅が捗るわ〜」

「わっふ」


未開の森から出ると、大きな川が流れていた。ルークは地図を見る。

「この川を渡り、北に数キロ移動すれば首都が見えてくるはず」

「とりあえず渡りましょ」


と言い、オーロラが氷の橋をかけた。


「やっぱ氷魔法は万能だよな。逆にできないことを探す方が難しい」

「別に褒めても何も出ないわよ」


途中で西から延びる街道に合流し、そのまま首都へ向かう。首都に繋がる道とだけあって、人々や馬車の往来がかなり激しい。


「久々に俺たち以外の人間を見た気がする」

「言われてみれば確かにそうね」

「わっふ」


ここで首都での目的をいくつか挙げる。

一つ目は信頼できる錬金術師を探すこと。先日手に入れた古代の魔導具の中に、チラホラと用途不明のものがあるので、プロに聞いてみようという結論に至ったわけである。宝の持ち腐れが一番ダメなのだ。もちろん、どこで手に入れたのかは明かさない。


二つ目は冒険者本部に寄ること。基本的に冒険者支部を総括する本部は、その国の首都に構えている。これは共和国も例外ではない。


旧グレイス王国の王都にもギルド本部が存在し、実はこの前の戦争にも本部所属の冒険者達が参戦していた。今も一応形だけは残っているが、すでに衰退しており、以前までの勢いはない。


三つ目は共和国の首都に所属しているSランク冒険者をひと目見ること。その冒険者は反乱戦争には参加せず、国の守護に務めていたため、まだ対面したことはない。今回共和国が物怖じせず大軍を投入できたのも、その冒険者が懐刀として首都に鎮座していたからである。


余談だがこのバルク大陸には騎士や魔法士、冒険者を含め数多の猛者がいるが、その中でも他とは一線を画する、選ばれし六名の実力者が存在する。また頂点の六人は、人々にこう呼ばれている……"六星"と。何を隠そう、共和国首都に所属するSランク冒険者はそのうちの一人なのである。


ちなみに元王国騎士団長ランスロットはグレイス王国最強の名を冠していたはいたものの、六星には名を連ねたことはない。それにはきちんとした理由がある。


「ねぇねぇ。今更なんだけど、アンタと親友だったランスロットさんって、なんで六星には入ってなかったんだっけ?」

「ん?ああ、それは……」


ルークはシルラを撫でながら言った。

「剣術自体は世界最高峰なのだが、純粋な戦闘力は件の六名に及ばなかったからだ。まぁ俺としては、奴の指揮能力や人望を総合すれば、六星なんかより全然価値があると考えているがな」


実際ランスロットが王国騎士団を率いるのと、率いないのとでは、一組織として雲泥の差がある。それは王国のルークや、帝国の賢龍帝と同じように。


「ふ〜ん。惜しい人を無くしたわね……」

「今まで話題に挙がる度に誤魔化していたが、ランスロットはたぶん生きてるぞ。昔からゴキブリよりもしぶといからな、あいつ」


「えっ、マジ?」

「マジ」

「あのねぇ、そういうことはもっと早く言いなさいよ……この馬鹿!まぬけ!ハゲ!」


ゴツンっ、ゴツンっ、ゴツンっ!


「わふ……」


「で、今彼はどこにいるの?」

「ランスロットには家族がいないし、部下も全員死んでしまっただろうから、すぐに国を出たんじゃないか?要塞都市はともかく、王都には苦い思い出しかないだろうし」


「あんなに頑張って戦っていたのに?」

「王国騎士団長としての責務を全うしただけだろうな。王国が滅亡した今、あの立場から解放されて、逆にはっちゃけてると思うぞ。普通にグルメ旅とかしてるんじゃないか?」


オーロラは深く溜め息を吐いた。

「アンタと仲が良い理由が、何となく理解できる気がするわ」

「……照れる」

「褒めてないわよ!!!」


雑談をしつつ歩みを進めていると、ようやくエルレイズ共和国の首都『ガガン』が視界に入った。


「おぉ、あれがガガンか」

「目算ゼイクロードの三倍はあるわね」

「大きさも規模も段違いだな」

「わふ」


正門の手前にはゼイクロードのように、順番待ちの商人や冒険者をターゲットにした屋台がズラリと並んでいた。


「共和国は本当に屋台飯が好きだよな」

「まぁアタシ達にとってはありがたいんだけどね」

「ワン!!!」


男性が営む場合はオーロラの美貌でサービスしてもらい、女性の場合はルークの端正な顔とシルラの愛嬌によりサービスをしてもらえる。


ガガンに入る前に屋台無双し、腹いっぱい食べた三人であった。







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