第46話:トリプル
「シ、シルラ……なのか?」
「シルラ……なのよね?」
「…………」
シルラはすぐに返事をしようと思ったが、声が出せなかった。ここでようやく竜を咥えていた事を思い出し、ペッと放り投げた。
「わふ」
シルラは大きな尻尾をブンブンと振り回し、二人の元へと向かった。
「よーしよしよし」
「アタシにも撫でさせて〜」
「わっふ」
たとえスキルに覚醒しようとも、巨大化しようとも、撫でてもらった時の心地良さは変わらないのである。
「それにしてもデカくなったなぁ」
「スキルの影響かしら」
と二人が言うと、シルラの身体はみるみる縮んでいき、いつもの大きさに戻った。
「おぉ、いつものシルラだ」
「さっきのシルラも可愛いけど、こっちのシルラも最高ねぇ」
「器用なもんだ」
実は"破狼"はスキルに覚醒すると身体の成長が止まる、という特性を持っている。ちなみに現在シルラは小型犬と中型犬の中間ほどの大きさだ。このサイズであれば街中で目立つことがない上、ルーク等と共に宿屋に泊まれるので、覚醒するにはかなりベストなタイミングであった。
「今更になってしまうが、助けてくれてありがとな。正直シルラが竜を仕留めてくれなかったら、俺は今頃死んでいた」
「アタシからもありがとうね」
「わふ」
気にするなと言わんばかりに、ルークの顔を舐めまわした。
「魔物が集まってきたら面倒だ。早めに素材を回収して退散しよう」
「了解〜」「ワン」
そもそもここは未開の森と呼ばれる危険地帯の中心部なのだ。例の
まずはゴブリン達の耳を削ぐ。これをギルドに提出すれば常時依頼として報酬が貰える。またランクアップのためのポイントもかなり貯まることだろう。次はナイフで胸を裂き、魔石を回収する。これはシルラのオヤツである。最後に翼竜を解体し、部位を全てマジックバッグに入れれば、素材回収完了だ。
余談だが、竜種は捨てるところがないことで有名だ。爪、牙、骨、皮、魔石は武器や道具の素材として、肉は高級食材として価値がある。そして血や内臓は研究者や錬金術師に高く売れる。
肉と魔石はルーク達が消費するので一旦置いておき、上記のそれ以外をギルドでまとめ売りすれば口座に大金が振り込まれることだろう。これでしばらくは贅沢三昧ができる。まぁ普段していないかと言われれば、若干怪しいが……。
「じゃあそろそろ移動を開始するか」
「早く森を抜けて、皆んなで首都を散策しましょ」
「ワン」
シルラが再び巨大化し、うつ伏せになった。
「乗せてくれるのか?」
「わふ」
「いいの?アタシはともかくルークは重いわよ?」
「わふわふ」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない」
「乗り心地最高だ」
「モフモフしてて気持ちいい……」
シルラは出発した。
大木と大木の間を器用にすり抜けながら進む。背に乗っている二人に負担をかけないように、そこそこの速さで駆ける。
「全然揺れないな。さすがシルラ」
「気を遣ってくれてありがとねぇ」
「わっふ」
「ところで、あの戦いの時、シルラが巨大化以外のスキルを使っていたように思えたのだが、もしやダブルか?」
「えっ、シルラダブルなの!?すごいじゃないの!!!」
以前説明したが、魔物は人と違い、稀に二つのスキルに覚醒する個体が現れる。その魔物をダブルと呼び、また一つの場合はシングルと呼ぶ。
そう問われたので、シルラは一度スピードを緩め、まずは風魔法を使ってみせる。前足を振るい風の斬撃を放ち、木々を真っ二つに切断した。
「「おぉー」」パチパチパチ
「風魔法か?」
「ワン」
「良い魔法ねぇ。巨大化だけでも凄いのに……なんだか感動しちゃうわ、シルラの成長に」
次は魔物の臭いがする方へ向かう。
一分もしないうちに猪型魔物を発見した。
「あれはDランクのビッグボアだ」
「シルラと比べたらおチビちゃんね」
そして三つ目のスキルを披露する。
群青の魔眼で睨むと、ビッグボアは泡を吹き失神した。
「「!?!?!?」」
「ま、まさか……」
「トリプルなの!?」
「わふ」
二人の思考は停止した。
そもそもダブルの魔物でさえ超希少なのだ。人生で一度見るか見ないか、というレベルだろう。それなのにシルラはトリプルとかいう、言葉では説明がつかない存在なのだ。人の前に姿を現せば、必ず伝説に残るような魔物なのだ。
「トリプルで黒い狼の魔物……」
「もうアレしかいないわよね。前にルークが言っていた」
二人は口を合わせて言った。
「「破狼」」
「やはりシルラは破狼だったのか」
「まぁ可愛いから何でも良いんだけどね」
「やばい。めっちゃ自慢したい」
「ダメよ。変な連中に目をつけられちゃうでしょ?うちのシルラが」
「わふわふ」
シルラはビッグボアを前足で指差した。
「ああ、悪い悪い。すぐに回収しよう」
「ここでご飯にしない?」
「それもアリだな。シルラもそれでいいか?」
「ワン!!!」
ルークは簡易結界を張り、調理用魔導具とワイバーン肉を取り出した。
「今日の飯はワイバーンステーキだぞ〜」
「やったー!」「ワン!!!」
ルークがどんどん焼いていくので、オーロラとシルラは冷める前にどんどん食べていく。
二人は豪快にステーキにかぶりついた。
ガツンとした肉の旨味が口の中いっぱいに広がる。噛めば噛むほどジューシーな肉汁が溢れ出し、舌を包み込む。繊細で蕩けるような甘味と、竜独特の癖になる風味が脳を刺激する。
「こんな美味しいお肉初めて食べたかも……」
「わふ……」
気がつけばペロリと平らげていた。
「まだまだ焼いていくぞ〜」
「はーい」
「ちゃんと野菜も食うんだぞ、とくにシルラ」
「わっふ」
そんなこんなで三人は、二日後の昼前には森を抜けることができた。シルラさまさまである。
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