第44話:油断は大敵

 ルークは単体でゴブリンの群れに突っ込み、オーロラは空から氷剣の雨を降らす。普通剣士と魔法使いが共闘する場合、広範囲魔法は使わない。その理由は簡単で、万が一味方の剣士に被弾すれば一大事だからである。


しかしオーロラはそんな事をまったく気にせずにバンバン魔法を放っている。なぜなら〈アクセル〉で思考を加速させている状態のルークであれば、それらを躱しながら敵を斬り刻む事など造作もないからだ。


これはもちろんルークが事前に『俺を気にせずに魔法を撃ちまくってくれ。そっちの方が効率が良いし、俺も助かる』と頼んだ上で実現した作戦である。


オーロラの最上級スキルを腐らせるなど以ての外なので、ルークの言う通り、これが二人にとっての最適解であろう。


ボブゴブリンも兵士ソルジャー魔法使メイジいも、彼女の前では塵芥に等しい。


(俺が敵を屠る前に、魔法で次々とゴブ共が沈んでいく。俺が道を斬り開くまでもない。さすがはオーロラだ)

と心の中で呟き、ニヤリと笑った。


死屍累々の混戦の中で、一瞬だけルークと将軍ジェネラルの間に、偶然一本道ができあがった。集中力を研ぎ澄ませたルークが、このチャンスを見逃すはずもなく。


強く地を蹴り、地面すれすれを低空飛行しながら将軍に接近する。敵もそれに気がついており、タイミングを合わせて大剣を振りかざした。ルークを豪快に叩き斬るつもりなのだろう。Bランクの名に恥じない動体視力である。


しかしルークは大剣があたる直前で停止し、身を捻り上手く避ける。そして大地に頭を向けた状態で……"銃口"を向けた。


(俺が斬撃以外の攻撃手段を持っていないと考えているのだろうが、それは大間違いだ)


魔銃リボルバーを二発撃ち、将軍の両目を潰した。

「グガァァァ!!!」


敵は予想外の事態に焦り、またこれ以上ない痛みに襲われ、反射で大剣を手放してしまった。


その隙にルークは将軍の首を斬り落とした。

ザシュッ。ポトリ。


後ろを振り返ると、すでにゴブリン軍は殲滅されており、オーロラが笑顔でこちらにピースを向けていた。これにて戦闘終了である。


ルークも微笑み、ほっと息を吐いた。

〈アクセル〉を解除し、破狼牙と魔銃を腰に戻しながら一歩踏み出そうとした瞬間。


「ルーク!!!!!避けてぇぇぇぇぇ!!!!!」

「?」


不意に風切り音が耳を掠めた。

顔を上げると、空から大きな何か"が己目掛けて落ちてきていること気がついた。ルークに陰ができるほど、大きな何か。


その物体の正体は、ワイバーンと呼ばれるBランク上位の翼竜である。大きな飛膜を畳み、スピードを上げ、まるで隕石のように落下している。その巨躯でルークを叩き潰そうと企んでいるのだ。


ルークは戦いに勝利した直後、要するに一番油断している隙をまんまと突かれたわけである。

その証拠にスキルも武器も解除してしまい、挙句の果てには気まで緩んでいた。


咄嗟に思考加速だけは強引に起動することができた。

(くそっ、漁夫の利を狙われていたのか……!思考だけは何とか加速できたが、肝心の身体がピクリとも動かん……。戦闘の余韻で筋肉が緩んでしまい、全く力が入らない。俺はこのままゆっくりと死を迎えるのか?こんな場所で?ようやく全てが終わり、守るべき家族までできたのに?どうする……どうすればいい!!!)


ルークが死の橋を渡りかけた、その時。

オーロラの背後からワイバーンよりも巨大な魔物が飛び出した。その黒い魔物は強靭な四本の足でジャンプし、落下中の翼竜の首を噛み砕いた。


「グルルルル!!!!!!」

「ギャアァァァ!!!!!!」


二体は勢いのままゴブリンの住居に激突し、派手な破壊音を未開の森に轟かせた。集落全体が砂埃に包まれ、一時的に視界が塞がれる。


ルークとオーロラは何が起きたのか理解が追いつかず、言葉を出せなかった。

「「…………」」


数十秒後、砂埃が晴れた。

そこにはワイバーンの死骸を咥えた黒い魔物が、青い目を光らせ、堂々と佇んでいた。


その魔物の名は"破狼"。

かつて大陸全土を恐怖に陥れた伝説の魔物である。ランクは……測定不能。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る