第43話:魔物の巣
未開の森、四日目。
昨日一日をざっくりと説明すると、魔導具の性能を調べつつ、歩みを進めつつ、たまに魔物を撃退しつつ、と言った感じだった。ルークは普段右腰に破狼牙を下げているわけだが、今日は左腰に
シルラの体表は、宵闇のような美しい漆黒色の毛で覆われているので、アクセサリーがまぁ目立つ。しかし本人というか本狼は、そんなことを気にせずにルンルンで歩いている。
「~♪」
「なんというか……成金貴族の飼っている成金犬って感じだな……」
「わふ?」
「今はまだ身体が小さいから、身の丈に合っていない感じもするけど、大きくなればピッタリ似合うようになると思うわ」
「まぁこれはこれで街ゆく女子達から人気を博しそうだがな」
「可愛いことには変わりが無いからね」
「だな」
なんて会話を交えながら順調に移動する。
「進むごとに少しずつ木が大きくなってないか?」
「昨日や一昨日と比べて確実に背も高いし幹も太くなってるわ」
「魔力の濃度も徐々に高くなっているし、日光も届きにくくなっている」
「なんか薄暗くて不気味ね……シルラあまり離れちゃダメよ?」
「ワン」
森の中心部に近付いている証拠である。一般人であれば、とうに方向感覚が狂い、右も左も分からず彷徨い始めるところだが、この三人は心配ない。
「一応、森の賢者と言われているエルフもここにいるから大丈夫だろう。昨日高笑いをしながらリボルバーを撃ちまくり森を破壊していたが、一応エルフだもんな。さすが森の守護者」
「アンタ馬鹿にしてるでしょ」
「いえ、まったく」
オーロラは無言で杖を掲げた。
「……」
ゴツンっ。
本番前に頭に大きなたんこぶを作るルークであった。
「シルラはこういう馬鹿になっちゃダメよ?」
「わふ」
辺りを警戒しながら進むこと約二時間。
三人は複数の気配を感じ取った。
「二人とも」
「うん」「ワン」
一度木の裏に隠れ、物音を立てぬよう顔を出して確かめると……。
「ゲギャギャギャ」
「ゲギャッ、ゲギャッ」
「ゲギャァ」
「ゴブリンの集落か」
「いえ、普通のゴブリンじゃないわ。ホブゴブリンの集落よ」
「ふむ。よく見れば通常のものと比べ背も高いし、筋肉の付き方も違う。だが待てよ、ソルジャーやメイジもいる」
「ってことは……ジェネラルもいるのかしら?」
「まぁ奴等がいるって事は、それを指揮する将軍もほぼ確実にいる」
「どうする?」
「どうするって、そんなの殲滅するに決まっているだろう。ゴブリン系は常時依頼だから、耳を剥いで持って行けば金にもなるし、昇格ポイントも溜まる」
「周りを気にせずに戦えるのなんて久しぶりね!」
ホブゴブリンは単体Dランクで、兵士や魔法使いはCランク。そして将軍はBランクである。これらを統率の取れた一つの群れ……いや、軍と換算するのであれば、そのランクは(B+)~(A-)と言ったところだろう。
ルークは破狼牙を抜刀し、オーロラも杖に魔力を込め始めた。
「シルラは待っててくれ。子供にはまだ危険だからな」
「一応簡易結界を張っておくけど、何かあったら大声で鳴いて呼ぶのよ?すぐに飛んで助けに来るからね」
「わふ……」
シルラは耳を垂れ下げ、地面にうつ伏せになった。
戦えない事への申し訳なさと、頼りない自分に対して悔しさを感じているのだ。
ルークとオーロラはそんなシルラを見て優しく微笑み、頭を撫でる。
「まぁ気にするな。どうせ将来は一緒に暴れ回ることになるんだ。今は戦いを見て学んでくれ」
「そうそう。今くらい私達にシルラを守らせてちょうだい」
「わっふ……」
「じゃあそろそろ行くか」
「うん」
ルークとオーロラは堂々と集落に足を踏み込んだ。
ホブゴブリン達はすぐ二人に気が付いてワラワラと集まり、一瞬で取り囲む。
「ゲギャギャ!」
「ゲギャ!」
「ギャッギャ」
後ろには大剣を背負った、筋骨隆々な将軍もいる。
ゴブリンたちはこの時点で多勢に無勢だと思い込み、勝利を確信して薄ら笑いを浮かべた。それは相手が一般の冒険者であれば間違っていないだろう。しかし……。
「鏖殺だ」
「ごめんね。アタシ達の糧になってちょうだい」
こちらも薄ら笑いを浮かべていた。
そして二人vs数百体の小さな戦争が始まった。
だが一体の魔物が漁夫の利を狙い、巨木の上から赤い目を光らせていた。
「………………」
まだこの場にいる誰も気が付いていない。
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