第3章
第40話:未開の森
ルーク達は帝国から部隊が派遣されている事を知らされ、直ちにゼイクロードを出立した。彼等は麦畑という名の黄金の海原を抜け、日が暮れる前に目的地である森に到着した。
「共和国の危険地帯トップスリーに入る場所だから、油断せずに気を引き締めて行こう」
「了解」「わっふ」
ここは”未開の森”と呼ばれており、首都と大都市のちょうど中間に位置している。そんな場所にあれば真っ先に調査や開拓が行われそうなものだが、あまり……いや、まったくされていない。
なぜならこの森にはC~Bランクの魔物がうじゃうじゃ生息しているからだ。あの時シルラを襲っていたグリムガンや、砂漠ダンジョンの中で討伐した蛇がCランクなので、それと同等又はそれ以上の化け物が当たり前のように闊歩しているということ。
しかしルーク達は”夕暮れ時に”突入した。普段森を住処にしているような魔物は夜行性のものが多い。特に高ランクの魔物などは五感が優れているので、真っ暗な森の中でもハッキリと目が見えている。今はまだ薄暗い不気味な森という印象だが、時間が経てばすぐに魔境へと変貌を遂げるだろう。
余談だがシルラは昼でも夜でも、特に見る能力が衰えたりはしない。昼はまあいいとして、人間よりも瞳孔を大きく開くことが可能なため、夜でも僅かな光を効率よく網膜に吸収することができるのだ。
ではなぜルーク達はこんなにも余裕を見せているのか。
その理由がコレだ。
「古代のお宝その一、簡易結界」
「古代のお宝その二、マジックテント~」
「わっふ~」
実はダンジョンから帰還した日の夜、宿屋で我慢できずにいくつか安全そうな魔導具を取り出し、イジってしまったのである。その際に発見したのがこの二つ。
ルークはある程度開けた場所の地面に、白いキューブを置いた。
すると直径十二メートルの結界が張られた。
「「おぉ~」」
「わふ」
次はオーロラが隣に小さめのテントを張った。
入口から中を覗くと、その見た目からは想像ができないような広々としたスペースがそこに。
「「おぉ~」」
「わふ」
まず簡易結界とはその名の通り、簡単に結界が張れる魔導具だ。”簡易”という言葉はそこから取られている。またその名前とは裏腹に、Sランクの龍ですら突破できないほどの防御力を持つ。また空気や温度の調節機能まで兼ね備えた素晴らしい代物である。
次はマジックテントだ。これはシンプルに非常に高度な空間拡張が施されており、中には照明器具やベッド、テーブルやソファはもちろんのこと、キッチンやシャワー、トイレなどの水回りまでしっかりとした設備が整えられている。まごうことなき一級品である。
「正直、王城のどの部屋よりも豪華だ」
「実はアタシ、こんな部屋に住むのが夢だったのよね」
「わふぅ」
まずはベッド選びから始まり、ルークとオーロラは普通のベッド、そしてなぜかシルラは一番大きなベッドで寝ることが決定した。今はまだ身体が小さいが、そのうち大きくなるだろうという適当な理由で、シルラは大きなベッドで寝る権利を獲得したのだ。
「そろそろ飯にするか」
「どっちが作る?」
「今日は記念パーティーだから、俺が作ろう」
ルークは袖を捲った。
「なんの記念?」
「旧世紀遺跡のお宝窃盗成功祝いだ」
「わっふ」
とか変な事を言いつつ、マジックバッグから巨大な肉塊を取り出し、調理に入った。
「じゃあアタシ”達”はシャワーを浴びてくるわね」
「おう」
「!?」
その言葉を聞き、シャワー嫌いのシルラは逃亡した。
「こら!待ちなさい!」
数分後、シルラはオーロラの脇に抱えられ、耳を垂れ下げたままシャワー室へと連行された。ドナドナである。
ルークは皿に料理を盛りつけ、ワインと共にテーブルに並べた。
肉以外にもパンやサラダ、スープなどいくつもの料理がある。
(あのキッチン、マジで使いやすかったな)
肉が焼けた香ばしい匂いがテントの中に立ち込めている。
きっとテントの外も同じ匂いに包まれていることだろう。
着席して待機していると、シャワー室から声が聞こえた。
「こら!ちゃんと洗わないとばっちぃでしょ!?」
「ワン!!!」
(なんか盛り上がってるな)
ルークは少し幸せな気持ちになった。
王城から追放された時は、こんなにも愉快な仲間ができるとは思いもしなかった。すべてに裏切られ、笑われ、蔑まれた。しかしその時、なぜか怒りは湧いてこなかった。理由は今でもわからない。
だが今、これだけは言える。
(オーロラとシルラの為なら本気で怒れる。本気で戦える)
王族とかいう仮初の家族ではなく、真の家族。
心の底から愛し、また信頼できる彼女等はすでに自分よりも大切な存在なのだ。
「……暇だし外の空気でも吸ってくるか」
テントの入口から外に出ると、肉の匂いに誘われ寄って来た魔物達が、赤い目を光らせ闇の中からこちらを凝視していた。
「今良い気分なんだ。邪魔しないでもらえるか?」
ルークは睨み返した。強敵と戦っている時のように、魔力や闘気を解放したわけでもない。魔法を使ったわけでもない。大きな声を出したわけでもない。ただただ静かに睨み返しただけ。
しかし……。
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
魔物達は心の臓をギュッと掴まれた感覚に陥り、森の奥へと逃げ戻った。
「何かあったの?」
「いや、何でもない」
「わふわふ」
ルークはワインの入ったグラスを掲げた。
「じゃあそろそろ……」
「「乾杯!!!」」
「わふ!!!」
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