第39話:首都へ
ルーク達はアランの心添えのおかげで、帝国からこの大都市に部隊が送り込まれていることを知った。そのため、今日の昼にはゼイクロードを脱出し次の目的地へと向かうべく、現在宿屋にて大急ぎで身支度を整えていた。
その頃、帝国城の書斎では。
「ノア陛下。そろそろ彼等が元王子に接触した頃かと」
「何者かの手が介入していなければな」
「入っていた場合、ほぼ確実に取り逃がしてしまうのでは?」
「それはそれで良い」
宰相はコテンと首を傾け、頭上にハテナを浮かべた。
「その理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「余が奴を欲している、という事が間接的に伝わればよいのだ」
「なるほど。しかし陛下。お言葉ですが、普通に『帝国はいつでも元王子を受け入れるためのポストを用意している』と記した書簡を届けさせれば警戒されずに済んだのでは?」
「……」
「……」
「その発想は無かった」
「次からは私に相談して頂いても大丈夫ですので」
「すまない」
「いえいえ。ふふふ」
(久々に皇帝陛下のツンデレが発動しましたね。相変わらずお可愛い御方です)
「……この部屋で陛下と彼という二人の傑物が談笑をする時は来るのでしょうか」
「必ず来る。余と奴は相反している様に見え、実は同類。紆余曲折があろうとも最後は同じ点に収束する。世界はそういう風に創られているのだ」
(……最終的に余のモノになればよい。ゆるりと待っているからな、ルークよ)
賢龍帝はテーブルに世界地図を広げた。
「そろそろ次の作戦会議を始める。各省の大臣と軍の幹部を呼べ」
「承知いたしました」
戦争の事後処理を終えた帝国は、新たなる野望に向けて再発進した。
その日の昼時。
「本当に良いのか?」
「ああ。リリララと支部長には後で伝えておいてくれ」
「了解した」
「じゃあな」
「またね~」
「ワン!」
「おう!また来いよ!」
ルーク達はアランに見送られ、ゼイクロードの大門を潜った。
ゼイクロードの北側には小麦畑が広がっており、一面黄金色に染まっていた。
爽やかな風が吹き、穂が左右に揺れる。
「綺麗ねぇ。地平線の彼方まで続いているわ」
「麦の一大産地なだけはあるな」
「わっふ」
三人は麦の匂いを楽しみながら、街道をゆく。
その道には農夫や冒険者、商人など様々な人間が歩いており、ルーク達も彼等の一部として溶け込んでいる。一応帝国の部隊を警戒してフードを深々と被っているのだが、その格好は冒険者の中では割とポピュラーなので、特に怪しまれるようなことは無い。どちらかと言えば大衆の目は、二人の足元でスキップしているシルラに向いている。
(なんかスキップしてる……)
(嬉しそうなワンちゃんねぇ)
(やばい、私も従魔欲しくなってきた)
「~♪」
「うちの子は可愛いわねぇ」
「少し大きくなってないか?シルラ」
「言われてみれば、確かに……」
「さすがは魔物と言ったところか」
「そうね」
シルラはルーク達に拾われる前、その小さな身体で狩りなどできるはずもなく、常に栄養不足だった。虫や雑草、腐った果実。生きるために何でも口に放り込んだ。
しかしルークとオーロラという家族ができてからというもの、毎日存分に甘やかされ、胃の休む暇がないほど食べさせてもらった。ゼイクロードの美食を喰らい尽くし、二人がマジックバッグに溜めておいた高級食材や魔石も、その小さな身体で見事平らげた。本来自然下では決して出会えない食の数々を前に、シルラの食欲は爆発した。そして冒険者である二人に連れまわされ、沢山走り回り、疲れたら抱っこしてもらい、夢の世界へと飛び立つ。
以上が、シルラがこの短期間で急激な成長を見せている主な理由である。
逆にこれで成長するなと言う方が無理である。
彼がスキルを獲得する日も近いのかも知れない……。
ちなみに三人の次なる目的地はエルレイズ共和国の首都だ。
「歩きでどのくらい掛かるの?」
「馬車で最短二週間程度と言われているから、徒歩であれば大体一ヵ月くらいだな」
「一ヵ月歩くのはちょっと……ねぇ、シルラ?」
「ワン」
「じゃあちょっと地図で確認してみるか」
「賛成~」「わふ」
三人は人目のない場所まで移動し世界地図を広げた。世界地図とは本来、国の上層部でしか取り扱われないもの。なぜなら自国の地形を公にするという行為にはデメリットしか存在しないからである。
そのため大陸の国々はそれぞれ自分達で密偵を派遣し、独自の世界地図を作製する。ルークの持っている地図は、もちろん王城からくすねたものである。
グレイス王国は腐っても、元々大陸に君臨していた五強のうちの一国なので、地図の精度は高い。
ルークは首都を指さした。
「首都とゼイクロードの間に”未開の森”と呼ばれる大森林がある。本当はこれを大きく迂回しなければならんのだが、この森を突っ切れば、歩きでも最短十日ほどで首都に行けるな」
「ふ~ん。じゃあ森コースで」
「ワン!!!」
「森の中なら人目を気にせず、例の魔導具の性能を調べられるな」
「魔物の目は気にしなきゃだけどね」
「ワン」
三人の旅はここから始まる。
「ふむ!帝国料理も中々美味ですねぇ!」
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