第38話:報告と警告

 翌朝、ルーク達はゼイクロードの冒険者ギルド支部を訪れていた。

本当は遺跡内での出来事を自分達だけの秘密にし、今すぐに手に入れた宝物の性能を調べに行きたい。だがその思いを抑え、わざわざここへ来た。

なぜなら彼等が危険地帯へ挑んだことを、リリとララがギルドに報告しているかも知れないからだ。彼女達は何も意地悪がしたくてギルドに伝えた訳では無い。万が一帰って来なければ、すぐに捜索隊を出して貰えるように手配してくれている可能性が高いという話である。まぁ本当に出してもらえるかは別として。


そう考えた時、ルーク達がギルドに何も言わなかった方がいろいろと怪しまれそうなので、せめて討伐した新種魔物くらいは売りに行った方が良いのではないか、という結論に至った訳である。


朝は割と混んでいるため、ルーク達はボーっとしながら受付の列に並んでいた。シルラに関しては、今もオーロラの腕の中で涎を垂らしながら眠っている。


すると、後ろから聞き覚えのある声が。

「「ルーク(さん)!」」

振り返ると、そこには双子獣人の姿が。

「おお。リリとララか」


「無事に帰って来たんだね!!!よかったぁ」

「あのあと一応ギルドに報告しといた。今となっては結局お節介だったけど」

リリとララはほっと胸を撫でおろした。


「だと思い、念のため朝からギルドに来たんだ。安否を伝えるために」

「なるほど!それで……何か成果はあった?」

「気になる」


ここで双子獣人の相手をオーロラにバトンタッチした。

「残念ながら遺跡にあった階段は崩壊してたけど、帰る最中に新種の魔物を討伐したわよ」

「「し、新種!?」」

「そうそう。新種」


「このあと報告がてらギルドの解体場に行くけど、付いてくる?」

「え、いいの!?じゃあ是非!」

「もちろん同伴させてもらう」


リリとララは目をキラキラと輝かせながら、両手を天に掲げた。


と、そこでまたまた聞き覚えのある声が。

「ほほーう。新種だって?」

「ああ、アランか。この前はありがとな」

「礼には及ばねえよ。それより、俺にも見せてくれないか?」

「アランならいいぞ」

「よっしゃあ!」


アランはスキンヘッドを輝かせながら、片手を天に掲げた。


「ちとお前達に用事があるんだが、このあと少し付き合ってもらえないか?」

とアランは一瞬だけ神妙な顔をし二人に問いかけた。

それを聞いたルークとオーロラは顔を合わせた後、コクリと頷いた。


その後、受付嬢に安否と成果を報告したところ、若干ギルド内で騒ぎになった。結局ギルド支部長オリヴィアの耳にも届き、大人数の前で新種の魔物をお披露目することとなった。


ギルドの解体場にて。

ルークはリリララ、アラン、オリヴィア、受付嬢、解体師等の目の前に新種の巨大蛇を出した。


「コイツが危険地帯に生息している蛇系魔物だ」

「「「「「「おぉ~!」」」」」」

魔石を取るために少しだけ解体が施されているが、原型はほとんど残ったままである。


オリヴィアが死体に顔を近づけ、言った。

「目が退化している上に、舌が複数に枝分かれしているわね。もしかして熱感知に特化しているのかしら」

「ああ。砂嵐という特殊環境に適した進化を遂げたのだろうな」


「この後、ギルド本部へ調査報告を届けなければいけないのだけれど、その際ルーク君達には魔物の名付け権利と、発見者として己の名前を記載する権利があるのよね。どうする?」


「申し訳ないが、両方辞退させてもらう。生憎名声というものに興味が無いのでな」

「「「「「「えっ」」」」」」

予想外の言葉に、この場にいる者全員が目を丸くし、素っ頓狂な声を上げた。


「ってなわけで、あとよろしく」

「素材は全部まとめ売りするから、ギルドの口座に入金しといてね~」

そのままルーク達は何事も無かったかのように解体場を後にした。

またアランだけは彼等の背中を追った。



数分後、とあるカフェにて。

ルーク達は朝食をとっていた。

「うんま」

「ここのモーニングは絶品ね~」

「わふ」


「あの……一度食べるのを止めてもらっていいか?」

(相変わらず呑気な奴等だな)

そのテーブルにはアランも同席しており、困り顔で彼等に突っ込みを入れていた。


「とまぁ冗談はさておき、早速話を聞かせてくれ」

ルークとオーロラはフォークを置いた。


「まずは詳しい自己紹介をさせてもらおう。俺はAランク冒険者のアランという。今はニーベル公爵家お抱えの筆頭冒険者として活動している」


ルークとオーロラは心の中で驚いた。

(へぇ、Aランク冒険者だったのか)

(へぇ、Aランク冒険者だったのね)


そしてすぐに自己紹介をした。

「Dランクのルークだ」

「Dランクのオーロラよ。で、この子がシルラ」

「ワン」


「あまり声を大にしては言えない話だから、周りを警戒しながら聞いてくれ」

「わかった」

「まずは確認させて欲しいことがある。坊主は今は亡きグレイス王国の元第三王子、ルーク・アン・グレイスで間違いないな?」

「「!?!?」」


ルークは一瞬身構えたが、アランが敵だった場合、わざわざそれを伝える意味が無いので、すぐに気を取り直した。


無言で頷き、続きを聞くことに。

「続けてくれ」

「実は昨日公爵家に、帝国の少数部隊が訪ねて来た」

「俺達を……いや、この俺を暗殺しに?」

「恐らく違う。連中は坊主を”帝国に連れ帰る”と言っていたからな。何があったのかは知らんが、かの賢龍帝がお前を欲している可能性が高い」

「あー……」


ルークはまだ王子だった時、裏で帝国の目論見を潰し続けていたことを思い出した。以前説明したが、ルークと皇帝は長年水面下で殴り合っていた良きライバルなのである。


(アイツはかなり効率重視だから、俺を捕らえて自らの手で殺したい、なんてことは絶対に考えない。ただ俺に会いたい、ってこともまぁ無い。以上の事から推測するに、アランの言う通り、たぶんシンプルに俺を仕官させたいんだろうな。アイツの事だ、どうせ”元第三王子を配下に加えれば、余の悲願である大陸制覇に一歩近づく……くくく……”とか考えてそうだよな)


「衛兵からの報告によると、連中は昨晩からゼイクロードをしらみつぶしに探し回っているらしい」

「じゃあアタシ達が見つかるのも時間の問題ね」

「そういう事だ」


「要するにアランは俺達に”なるべく早くここを出た方がいい”と言いたいわけだな」

「……ああ。話が早くて助かる」


満を持してルークは問う。

「単純な疑問なのだが、なぜそんな貴重な情報を俺達に教えてくれたんだ?放っておけば逆に帝国に恩を売れたわけだろ?」

「ああ~、なんて言うか、ほら……」


アランは頭をポリポリと掻き、若干頬を紅潮させながら言った。

「一人のおっさん冒険者として、まだ鼻垂れたガキ冒険者共を放っておけねえんだ。これがもし公爵様の耳に入ったら、懲罰もんだな!はっはっは!」


ルーク達はさすがに苦笑いをするしかなかった。

「ったく……」

「ここの冒険者はお節介な人ばかりなんだから……」

「わふわふ」


しかし、どこか優し気な顔をしていた。




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