第37話:崩壊

 ルークの予想通り、王の寝室には隠し部屋への道が存在した。

まずはルークが先行しトラップの有無を調べた。その結果、トラップは仕掛けられていなかったものの、部屋の手前に強力な結界が張られていた。強引に突破すれば何が起こるかわからないので、〈アクセル〉の能力で機能を停止させた。


そして部屋の扉を開いた。

「マジか」

「ちょっと、外とは比べ物にならないわね」

「わふ」


部屋全体が宝物庫になっていた。

そこには魔導具や宝石はもちろん、剣や杖、鉱石なども眠っていた。他にも本や絵画が保存されている。


「明らかに一つ一つのレベルが、先ほど手に入れた物とは違うな」

「当時(旧世紀)でも超貴重だった宝がここに集められているんでしょうね」

「わふわふ」


「ま、まぁとりあえず盗むか」

「そ、そうね」

動揺しながらも、しっかりとやることはやる二人であった。


「で、問題はあれだよな」

「うん」「ワン」


ルーク達の視線の先には小さな祭壇があり、虹色に光る水晶が祀られていた。というより浮かんでいた。まさに古代の叡智すべてを詰め込んでいるような雰囲気を感じさせる。


そんな不思議な魔力を放つ水晶を、ルーク達は目を輝かせながら見つめる。まるで吸い込まれるような錯覚に陥るほどの魅力を持っている。


「これを手に取ったら、城が崩壊しそうだよな」

「そうね。でもここまで来たら、盗まないわけにはいかないわよね」

「わっふ」


悩んでいても仕方がないので、結局これも盗むことになった。


「じゃあ二人とも念の為退避の準備をしてくれ」

「了解」「ワン」

オーロラはシルラを抱きしめた。


「……」

ルークは無言で水晶に手を伸ばす。

そして、ついに手に取った。

すると……。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


「「「!?」」」

二人がバランスを崩すほどの地震が起きた。


「これはまさか……!」

「城じゃなくて、都市全体が崩壊するのかも!」

「逃げよう」

「ワン!」


ルーク達は急いで寝室の外まで出た。

周りなど警戒せず廊下に出てしまったので、騎士ゴーレム達に見つかってしまった。

前後から挟まれる形で何体ものゴーレムが走ってきた。


「マズイわ!!!どうする!?」

「こうする」

ルークはオーロラを姫様抱っこした。

ちなみにシルラは彼女に抱かれたままである。


そのまま窓に向かって走る。

「ちょ、ちょっとま」

バリン!!!

窓を強引に突き破って外に脱出した。

もちろん三人は宙に投げ出され、落下することになる。


「ひゃあああああ!!!」

「ワンンンン!!!」


二人が絶叫している中、ルークは思考を加速させ、冷静に分析していた。

(本当に都市全体で崩壊が始まっているようだな。正直普通に走って出口に向かっても間に合わん)


地面にぶつかる直前で三人は"減速"し、上手く着地することに成功。

オーロラとシルラはルークの腕の中でほっと溜め息を吐いた。

「ほっ。死ぬかと思ったわ」

「わふわふ」


「安心しているところ悪いが、本番はこれからだぞ」

「「!?」」


ルークは再び〈アクセル〉を起動。

加速しながら城門の方へ向かう。

(また氷魔法で階段を作ってもらう暇はない)


その勢いのままジャンプして門を飛び越えた。

着地する瞬間に減速し、地面に足がついた瞬間にまた加速する。彼はこのスキルをほぼ完璧に使いこなしている。


「ノーストップで出口まで駆け抜けるぞ!」

「「……」」

と言われても、二人は言葉が出なかった。


だが商店街に入る前に、巨大ゴーレムに発見されてしまった。

「シ、シンニュウシャ、ハッケン」


ビビビビビビ。ビビビビビビ。

都市全体に警告サイレンが鳴り響く。


街のいろんな場所からたくさんのゴーレム達が集まり、走るルーク達の後ろを追いかける。


それだけではない。

空には鳥型のゴーレムが飛んでおり、巨大ゴーレムと共に彼らを追い始めた。


(クソッ。空を飛ぶゴーレムも存在したのか。しかしスピードを上げ過ぎれば、この二人が風圧に耐えられなくなってしまう……)


ルークはゴーレムに追いつかれない、ギリギリの速さで大通りを駆け抜ける。前方からも一体の巨大ゴーレムが接近してきたが、上手く股の間をすり抜け、奥に見える出口へと向かう。


「ひゃああああああ!!!!!」

「わふふふ!!!!!」

「すまん、もう少しだけ耐えてくれ!」


一瞬だけ振り返ると、地面も空も一面ゴーレムで埋め尽くされていた。また揺れは収まっておらず、すでに城は跡形もなく崩れていた。


階段まで、あと百メートル……五十メートル……三十メートル……二十メートル……。


そして十メートル。


(あと少しだ)


先頭の巨大ゴーレムがルーク達に手を伸ばす。

その手が触れる前に……。


(よし!!!)

無事出口に到着することができた。

ゴーレムたちは大きさ的に、ここには侵入できないので一安心である。


だが階段も崩壊する可能性があるので、ルークは二人を抱えたまま、上の遺跡まで再び駆け抜けた。


「ふぅ、疲れた」

「はぁぁぁぁ、死ぬかと思ったわぁぁぁ」

「わふぅぅぅ」


脱出に成功した三人は、氷のキューブの中でしばらく横たわっていた。


ガラガラガラ。

「やはり階段も崩壊したか。足を止めなくてよかった」

「ナイス判断よ」

「ワン」


全員疲れ切っているが、どこか嬉しそうというか満足したような表情をしていた。


「まぁ、何はともあれ……」

「旧世紀のお宝ゲットね!!!」

「ワン!!!」


その後、ルーク達はすぐに砂漠のダンジョンを出て宿屋へ向かった。

これにて任務完了である。






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