第36話:魔導具と宝石

ルーク達は未だに民家の窓からこっそりとゴーレムを眺めていた。

「大体三十分に一回、ここを通るわ」 

「同じ個体が通ってるから、どこかでUターンするよう魔法でプログラミングされてるんだろうな」

「それがわかればもう安心ね」


「わふ?」

「一度通り過ぎた後、十五分以内に逆方向に移動すれば鉢合わせないってことよ」


ゴーレムは目的地の反対側に歩いて行ったので、今のうちに商店街に向かう。


「ここが魔導具店だな」

「商店街に構えているだけあって、かなり規模が大きいわね。期待できるわ」

「ワン」


いざ中に入ってみると……。

「おぉ、魔導具が大量に並んでいるぞ」

「研究者やコレクターが見たら失神するレベルね」


そこには大小さまざまな魔導具が並べられていた。それらは全く傷んでおらず、ほぼ新品のまま残っていた。本当は一つ一つここで性能を調べたいのだが、万が一暴発してしまえばゴーレムが音に反応して飛んでくる可能性が高いので、我慢して片っ端からマジックバッグに入れていく。


「やばい。脳汁が止まらん」

「今アタシ、最高に生を実感してるわ」

二人は目をバキバキにしながら盗みを働き、その横ではシルラが興味無さそうにゴロゴロしていた。


魔導具店をスッカラカンにした後、興奮冷めぬまま装飾店に突撃した。店の中では美しい宝石やアクセサリーが燦々と輝いていた。当時は加工技術も優れていたので、その全てが一級品である。


「いくつか魔力が込められているものがあるな。魔導具の一種かもしれん。持ち帰ろう」

「アンタよだれ垂れてるわよ」

「そちらこそ手がプルプル震えてるぞ」


驚くほどスムーズに盗んでいき、装飾店も一瞬で空になった。


「アンタのマジックバッグの容量はどのくらい余ってる?」

「あと三分の二が余ってる。そっちは?」

「アタシは半分くらい」

「……若干心細いな」

「まぁ最悪、ダンジョン内で討伐した魔物の素材を捨てればいいでしょ」

「それもそうだな」


二人と一匹は少し休憩した後、再び外に出た。

「じゃあそろそろ移動しよう」

「次は鍛冶屋を見つけたいわね」

「ワン」


ゴーレムの行動法則は判明したものの、商店街のど真ん中を堂々と歩くのは気が引けるため、先ほどとは打って変わってコソコソと物陰を移動していた。さすがにあのゴーレムを見た後では誰も調子に乗れない。


その後、かなり商店街を見て回ったが、鍛冶屋や武器屋は一切発見できなかった。


「旧世紀は魔法技術や科学技術が発達しすぎて、冒険者という職業自体存在しなかったのかもな」

「今思えばギルドらしき建物が一つもなかったよわね」

「少し残念だ」

「ワン」


ここを見ればわかる通り、旧世紀の都市はセキュリティが万全だった上、食料調達や開拓、遠距離移動なども全てゴーレムが行っていたので、冒険者などという危険で効率の悪い職業は存在していなかったのである。


以上の理由で、武器=剣や杖ではなく、武器=魔導具という考えが根付いていたのだ。

(※ゴーレムも魔導具の一種)


「でも本命は城の宝物庫だからな」

「そうそう。まだ悔しがるのは早いわ」

「ワン」

二人と一匹は諦めて城へ向かった。


都市の上空にはたくさんの建築物が浮いていると説明したが、それは特に城の周りに多い。

「俺たちもあの技術が欲しいよな」

「空を自由に移動できたら、どれほど楽なんでしょうね」

「わふ」


そして城に到着。

もちろん門は閉まってるので、オーロラの魔法で氷の階段を作り、強引に突破した。


「街中ですら巨大ゴーレムがごろごろいるんだ。城内はもっと厳重に警備されているかもしれない。気をつけて行こう」

「了解」「ワン」


城の中はシーンと静まり返っており、外同じく生命反応を一つも感じない。商店街も人の気配がしなかったので不気味だったが、城内はそれ以上に気味が悪い。頼りになるのは城という建築物の構造を理解しているルークの勘と、壁に設置された魔導具が放つ僅かな光のみ。


オーロラは小さな声で言った。

「そもそも宝物庫ってどこにあるの?」

「基本的には謁見の間の近くか、王の寝室だな」

「王の寝室?」

「まぁ行けばわかる」


とりあえず上に向かって歩を進めていると、前方から誰かが歩く音が聞こえた。

ガチャン。ガチャン。ガチャン。


ルーク達は無言でアイコンタクトをし、横道に逸れた。壁から半分ほど顔を出して確認する。


「騎士型のゴーレムか」

「身長は二メートルくらいだけど、魔力量は外の巨大ゴーレムと同等か、それ以上ってところね」

「今更なんだが、どうやって魔力を維持してるんだろうな」

「空気中から吸収してるんじゃない?というかそれしか考えられないわ」

「なるほど」

「わふ」


ルーク達は慎重に上を目指した。

謁見の間に到着後、玉座の周りを調べたが何も見つからず、部屋の周囲にも宝物庫らしきものは見当たらなかった。

そのため、すぐに王の寝室を探すことに。


城内をざっと調べた結果、特に騎士ゴーレムの数が多い階が存在したので、そこを慎重に調べることにした。


約一時間後、ようやく発見。

「間違いなくここが王の寝室でしょうね。他とは大きさも設備も段違いだわ」

「手間をかけさせやがって、このアホ王族め」

「ワン」


「で、どこに宝物庫があるのかしら」

「こういうのは大体……」


ルークはブツブツ言いながら、棚やクローゼットを叩いていく。

すると……。


ガコンッ。

「当たりだ」


棚の一部が凹み、隠し部屋への扉が開いた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る