第33話:危険地帯

 毒蠍に襲撃され返り討ちにした件をギルドに報告した翌朝、ルーク達はゼイクロード内のとある人気カフェで朝食をとっていた。


「うめぇ」モグモグ

「美味しいわね〜」モグモグ

「わっふ」モグモグ

二人と一匹はテラス席でタコス風料理を頬張る。


ゼイクロードは小麦の一大産地であるため、それが使われた郷土料理が多い。

この料理もそのうちの一つである。


そんな彼らの前に、無言で俯く女性が二名。

「「……」」

リリとララである。


ルークは当初、襲撃事件の証人としてこの二人を連れて行った。彼女達も毒蠍から度々嫌がらせを受けていたので、道中は意気投合し、"ルーク側"として問答に参加する約束までした。


『私たちに任せてね!!!』

『毒蠍は敵。敵の敵は味方。要するに私たちはもう仲間。胸を借りる気持ちでいればいい』

という言質までとった。


ところがどっこい。

オリヴィアにCランク冒険者だの、実力差だのと煽てられ、いつの間にか支部長側に鞍替えしていた。


(百歩譲って言葉巧みに言いくるめられたのであればまだわかる。だが普段褒められ慣れてないのか、少しヨイショされただけで支部長の駒になるとは……)


そしてコルウィル支部長の書簡のおかげでルーク達の疑いが晴れた途端。


『やっぱルークさん達が正義だよね!』

『うん。私も信じてた』


と手のひらを返してきたのである。


オーロラが口を拭きながら彼女達に鋭い視線を刺した。

「で?なにか言うことは?」

「……ご、ごめんなさい」

「……反省」

「まぁ逆ギレされるよりは、素直に謝ってくれる方がマシかもね」


ルークはシルラの背を優しく叩き、ゲップを促す。

「ほーれほれほれ」トントン

「けぷっ」


まだシルラは子供なので胸焼けを起こしやすいのだ。これが食後のルーティーンである。


「シルラ、あれが裏切り者の冒険者だぞ〜」

「わふわふ」

「「……」」


「まぁ、おふざけはここまでにしておこう。正直な話、何か良い情報をくれたら許してやらんでもない」

「貴重品とか武器とかじゃなくて?」

「情報?」

「そう、情報だ。ぶっちゃけお前達が手に入れられるレベルの宝には興味ないからな」


(確かにマジックバッグがある時点で、他にもすごい魔導具を沢山持っていても変じゃないよね)

(今更だけど、ルーク達は何者……?)


「二人は数年前からここのダンジョンに潜ってるんだろ?」

「「うん」」

「じゃあそれについての情報をくれ。できれば二人しか知らないような、超レアなモノを」


それを聞いたリリとララは無言で顔を合わせた。

「「……」」


「これは当たりみたいだな」ボソボソ

「根掘り葉掘り聞きましょ」ボソボソ


「あの〜。実は今から何年か前、砂漠のダンジョンに潜っていた時に、運悪く危険地帯に迷い込んじゃったことがあって……」

「その時、まだ未発見の遺跡を発見した。でも命を優先して手は付けなかった」


ルークはテーブルに両肘をつき、顔の前で手を組んだ。

「ほほーう。詳しく聞かせてもらおうか」


その後、ルーク達は宿屋で身支度を整えてから砂漠のダンジョンに再アタックをすることに決めた。

ちなみに今回の支払いはリリとララ持ちである。



それから約二時間後、ルーク達は砂漠のダンジョンの中にいた。

「頼むぞ」

「よろしく〜」

「「うん」」


案内はもちろんリリとララだ。


砂漠のダンジョンは入り口から北に向かうとボスの生息地、西はオアシス、東は狩場、そして南側が危険地帯である。


危険地帯には常に強烈な砂嵐が吹いているため、ギルドが『くれぐれも近寄らないように』と声明を出している。また過去に何人もの命知らずが挑んだが、全員消息不明になった。

どんな魔物が生息しているのかも謎。


「そもそも何で迷子になったんだよ」

「まだ私たちが駆け出しの頃、魔物に追いかけられて、あれよあれよという間に……」


「よく帰って来れたわね」

「適当に進んだら偶然入り口方向に出た。あの時は本当に死ぬかと思った」


南側に向かって歩みを進めると、早速噂の危険地帯が見えた。

「私たちが迷い込んだのは南西側だから、あっちの奥に未発見の遺跡がある」

「かなり小さい遺跡だったから、頑張って探さないと見つけられないかも」


「なるほど、じゃあ後は俺たちだけで挑むからお前達は帰っていいぞ」

「気をつけて帰ってね〜」

「ワン」


リリとララは心配そうに言った。

「ねぇ、本当に付いて行かなくてもいいの?」

「私たちはこう見えてCランク冒険者。言い方は悪いけど、実績と経験だけを見ればルーク達より上の存在。頼りにはなると思う」


「ああ、でも大丈夫だ」

「一応理由を聞いてもいい?」

「まだリリ達を信用しきれていないというのもあるが、まぁ簡単に言わせてもらうと……」


ルークとオーロラは口を合わせて言った。

「「足手纏いなんだよな(なのよね)」」


「「え……」」

二人は目を丸くし、ポカーンと口を開けた。


「ってなわけで、そろそろ行くわ」

「じゃあね〜」

「ワン」

ルーク達は砂嵐の中に消えていった。


「……帰ろう」

「……帰る」

リリとララは複雑な気持ちになりながら、踵を返した。



その頃、ニーベル公爵家の書斎では。

当主ダビド・ニーベルは帝国宰相からの書簡に目を通していた。


「ふむ……。貴殿らが帝国から派遣された少数部隊だというのは本当のようだな。用件は隊長の口から説明すると記してあるが」


「それに関しては私の口から説明させてもらおう。今回の任務はルーク・アン・グレイス元第三王子を帝国まで連れ帰る事だ」

「今は亡きグレイス王国の元第三王子か。さすがに名前くらいは知っているが、なぜここへ来た?」


「我らが皇帝陛下は、現在奴がここに滞在していると予想されておられるのだ。そのため何か情報があれば渡して欲しい。相応の礼はさせてもらう」

「なるほど……。協力してやりたいのは山々なのだが、残念ながら元王子の情報は一切入っていなくてな。申し訳ない」


「ふん。正直期待はしていなかったから安心しろ。念の為話を聞きにきただけだ」

「……」

「ではそろそろ失礼する。行くぞお前達」

「「「「はっ」」」」


隊長は退室する直前で振り返った。

「最後に一つ。絶対に邪魔だけはするな。ニーベル家はそれを肝に命じておけ」

バタン。


「クソッ!!!あいつら帝国の者だからと調子に乗りやがって……。本当に黙ってて良かったんですか?ダビド様」

「いいんだ、アラン。今は耐えろ。私達は嵐が過ぎ去るのをじっと待っていればいい」















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