第32話:ギルド支部長

 ルーク達はリリとララを連れ、砂漠のダンジョンの入り口から外へ出た。

都市内のダンジョンは衛兵が二十四時間体制で警備しており、夜間に出入りする冒険者にはひと声掛ける決まりになっている。


衛兵はルーク達を確認後、すぐさま駆け寄ってきた。

「そこの冒険者、少し待て。ん?よく見ればリリとララもいるじゃないか」


リリとララはその見た目から、ゼイクロードの冒険者ギルドにおいてアイドルのような存在なのである。衛兵は冒険者と親密に関わる職業なので、もちろん彼らもリリとララの事を知っている。


ルークはリリの方を見て言った。

「とりあえずリリの口から説明してもらえるか?そっちの方がスムーズに進むと思う」

「うん、任せて」


リリは衛兵に事件の諸々を簡潔に説明した。

「……ということなの。それで今、ギルドに報告するために引き返してきたんだよ」

「なるほど、加害者は毒蠍の連中か。リリとララが証人なことも相まって、かなり信憑性が高いな。ギルドが閉まる前に早く向かった方がいい」

「そうだね!急ごう、みんな!」


ルーク達は駆け足でギルド支部へ向かった。

まだギルドの明かりがついているのを確認し、扉を開けた。すると中には職員達が数人残っており、皆帰りの支度をしていた。


昨日の受付嬢がルーク達に気がつき、カウンターに立つ。

「こんな夜中にどうなされました?」

「すまんな。実は……」


ルークはダンジョンに潜る前に毒蠍が絡んできたことから、遺跡で襲撃され返り討ちにしたことまで、時系列を整理しながら丁寧に説明した。


「ふむ……。私だけでは判断しかねますので、今支部長を呼んできますね」

「わかった」


三分もしない内に、受付の奥からダークエルフの女性が歩いてきた。

「私がゼイクロード支部長のオリヴィアよ。まずは自己紹介をしてくれる?」


「Dランク冒険者のルークだ」

「同じくDランク冒険者のオーロラよ。そしてこの子が従魔のシルラ」

「ワン」


「へぇ。二人ともまだ若いのに、もうDランクまで上がっているだなんて相当優秀ね」

「少しズルをしたからな。それよりも事件のことについて議論させてもらいたい」

「そうね。一応さっき話は彼女(受付嬢)から聞いたけれど……」

ここでオリヴィアは一息おいた。


「完全に貴方達を信じる訳にはいかない。いくら毒蠍の素行が悪かろうと、ここは支部長として両者を公平に見させてもらうわ。頭が固くてごめんなさいね」


(そりゃそうだよなぁ)


オリヴィアはリリとララに問う。

「リリとララが到着した時には、もう毒蠍の三人は死んでいたのよね?」

「あ、はい!」

「死んでた」


「じゃあルーク君側は証拠を持っているようで、何も持っていないわけよね?」

「まぁそういうことになるな」

(チッ、バレたか)


「そもそもアタシ達がゼイクロードに来たのは昨日だから、無理に信用しろと言っても難しいわよね……」

「わふ……」


「こうなったら、事実確認が済むまでは貴方達をギルドに閉じ込めさせてもらうしかなさそうね」

とオリヴィアが言うと、職員達が出口を塞いだ。


支部長の意見はごもっともだが、被害者側であるルーク達からすれば、事件に巻き込まれただけでなく、疑いの目まで向けられている。

悪党に初ダンジョンを邪魔されただけでも相当頭にくるのに、もしかしたら一時的に捕縛されてしまうかもしれない。

こんなのたまったものではない。


「あの、ちょっといいか?」

「どうしたのかしら」


「少し物騒な話にはなるが、もし俺たちが加害者側だったら、リリとララをあの場で襲っていたと思うぞ。そっちの方が楽だからな」

「それもそうね。でも彼女達はCランク冒険者だから、ルーク君達が咄嗟に実力差を感じ取り、戦いではなく話し合いに持ち込んだ可能性もあるわよね」


リリとララが鼻息を荒くしながら言った。

「あまり舐められちゃ困るよ〜」

「支部長の言う通り。ランクは私たちの方が上」


(先ほどまで完全にこちら側だったリリ達が、いつのまにか支部長側についている。というかあの時は盛大にビビり散らかしていた癖に、よく言えたもんだな)


どうしようも無くなった時、オーロラがルークの腕をツンツンした。

「ねぇ、ルーク。確かコルウィルの支部長から書簡を預かってなかったっけ?」

「……あ」


ルークは以前コルウィル支部長が一筆したためてくれた事をようやく思い出した。

すぐマジックバッグに手を突っ込み、オリヴィア宛ての手紙を取り出して本人に渡す。


「これ。コルウィルの支部長からだ」

「ちょ、ちょっと確認させてもらうわね」

(確かに彼の文字ね)


オリヴィアは順調に読み進めていく。

(え、これは本当なの……!?)


額から冷や汗が垂れ、ゴクリと生唾を呑んだ。

それもそのはず。

なぜなら書簡にはルークとオーロラがDランクに飛び級した詳しい経緯が記されているからだ。

実力のことはもちろん、戦争で大暴れしたことやシュヴァルツ侯爵のことまで、はっきりと書かれている。

要するに二人は共和国にとっての大恩人であり、かの帝国大貴族ともコネクションがある上、共和国史上最速でDランクに昇格した新星でもあるのだ。


逆にこのギルドでルーク達以上に信用できる冒険者などいない。


「ルーク君とオーロラさん、ごめんなさい。私が変に疑い過ぎていたわ」

「まぁ気にするな。トップに立つ者として当たり前の判断だったと思うぞ」

「アタシも同意見よ。むしろ客観的な見解を持ってて素晴らしい人だと感じたわ」


(手紙に書いてある通り、二人ともかなりの人格者ね。疑ってしまって申し訳ないわ。それに支部長として恥ずかしい……)


「拘束されたら普通に暴れるところだったわ」ボソボソ

「アタシも普通にギルドを氷漬けにしてた」ボソボソ


なんやかんやで、その日は無事宿屋に帰れた二人と一匹であった。


「そういえばリリとララ、途中で寝返ってたよな」

「確かに。あとでお説教しなきゃ」

「わっふ」ニチャア


















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