第31話:砂漠のダンジョン③

「「「……」」」

怪しい三人組は忍足で遺跡の中に入っていった。


ルーク達がテントを張っている場所は洞窟のような造りになっているので、正面から敵が入ってきても後ろに逃げ道は無い。


「ここまで来りゃあ、もう逃げられねぇぜ」

「勝利確定だねぇ」

「男と獣は殺していいが、女は絶対に殺すなよ」

「へっへっへ、あったりめぇよ」


ターバンを巻いた男が先行する。

テントまであと十メートルをきった時。


ゴンッ。

「いてっ」

透明な氷壁に阻まれ、派手に尻餅をついた。


その瞬間テントが小さく揺れ、ルークが弾丸のように飛んできた。

黒い外套を纏っているので、この暗闇の中では認識できない。いや、そもそも速すぎて反応すらできていない。


ルークは立ちあがろうとしているターバン男の顔面をガシリと掴み、床に叩きつける。


ドォン!!!


頭部が地面にめり込み、その衝撃で遺跡全体が揺れる。


リーダーは魔法使いに即座に命令を下す。

「魔法で怯ませろ!」

「了解!」


魔法使いが杖を構えた刹那、ルークの姿が掻き消え、静かな風が二人の頬をそっと撫でた。

そして……。


気がつけばルークはすでに背後に立っていた。

「遅い」

「「……は?」」


カチャリ。

破狼牙を鞘に戻したのと同時に二人の首から上がズレ、頭がボトリと床に落ちた。

頭部を無くした身体が後ろに倒れる。


「お疲れ様」

「ワン」

「念の為氷の壁を張って正解だったな。オーロラさまさまだ」


またルークは初ダンジョンを邪魔されてしまい、かなり気が立っていたので、まったく手加減をしなかった。


オーロラは三つの死体を一瞥する。

「この後どうしましょ」

「とりあえず凍らせてくれるか?万が一夜行性の魔物が血の匂いに寄ってきたら面倒だ」

「そうね」


氷棺アイスコフィン

死体に魔法をかけていると、入り口の方から誰かの声がした。


「何か音がしたけど、大丈夫かな?」

「ここら辺には夜行性の魔物なんて生息していないはず」


入り口から二人組の女性冒険者が入ってきた。

二人は死体に魔法をかけるオーロラをみて固まった。

「「えっ」」


「あ」

(よりにもよって、このタイミングで……。これは面倒な事になりそうね)



数分前。双子の女性冒険者、リリとララは夜の砂漠を歩いていた。

「やっと見えてきたね〜、遺跡」

「ようやく休憩できる」


口調の柔らかい方がリリで、若干強めの方がララだ。また彼女たちは猫の獣人である。

彼女達はゼイクロード出身の冒険者で、三年程前から砂漠のダンジョンを主な稼ぎ場所にしている。

実はあの遺跡は知る人ぞ知る野営スポットであり、彼女達も度々休憩所として利用していた。


ドォン!!!


「「!?」」


「今遺跡揺れたよね?」

「何か事件が起こったのかも」

「冒険者が魔物と戦っているのなら、助太刀してあげなきゃ!」

「まったく、リリは昔から優しすぎる……!」


リリとララは急足で向かった。


「あの洞窟の中だよ!」

「一応武器は構えて確認」

リリはククリ刀を、ララは魔弓を手に取り洞窟に入った。


するとそこには三つの死体と、それを凍らせている怪しいエルフの姿が。


「「えっ」」

「あ」


予想外の展開に二人の思考は停止した。

無意識に後退り、外に出ようとすると、背後から低い声が聞こえた。


「まぁ、少しくらい寄っていけよ」

「「だ、誰!?」」

「うふふふ。一緒にお茶でもいかがかしら」

「わっふ」ニチャア


やばい剣士と怪しい魔法使い、そして変な犬の圧に当てられ、二人は冷や汗を流しながら頷いた。

「「あ……はい」」



それから約三十分後。

ルークとオーロラはまず自己紹介をし、事件の真相を二人に説明した。


「……というわけなのよ」

「あくまで正当防衛というわけだ」

「「な、なるほど」」


ララは何気なく凍った死体に視線を移す。

「ん?アイツらはまさか……"毒蠍"の三人?」

「えっ、毒蠍!?」


ルークは問う。

「知っているのか、コイツらを」

「知っているも何も、ゼイクロードでは有名な冒険者パーティ」

「どんな風に?」

「昔から問題ばかり起こしている、女好きの悪党として有名」


「私たちも何回も声を掛けられたよね。でも断る度に悪態をつかれて、時には嫌がらせをされたり……」

「リリの言う通り。こいつらはゴミ」

「じゃあ死んで当然の野郎共ってわけか」

「そういうこと」


「でも見られたからにはギルドに報告しなきゃダメよね?」ボソボソ

「ああ。どこからか情報が漏れて、バレた方が後々面倒になる。この二人もまだ完全には信用できないしな」ボソボソ


ルークは立ち上がった。

「これを見たからには、もちろんお前達もギルドまで同伴してくれるんだよな?」

「そうそう。証人が必要だもの」


「え、でも……」

「私たちまだ寝てない」


「来てくれるんだよな?」

「来てくれるわよね?」

「わっふ」ニチャア


「あの……行きます……はい……」

「徹夜確定……死ぬ……」


四人と一匹はルートを逆走し、ダンジョンの入り口へと向かった。


「寒いね……」

「凍死する……」


「しょうがないから、ちょっとだけシルラを貸してあげるわ」

「感謝」

オーロラはギュッと抱きしめていたシルラをララに渡した。


「温かい……ポカポカ……」

「わふ」

「「か、可愛い///」」


その後、シルラは女性三人組にひっぱりダコにされた。









「わっふ」ニチャア







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