第30話:砂漠のダンジョン②

 ダンジョンというのは、基本的に奥へ進めば進むほど高ランクの魔物が出現する。

道中魔物が生息しているのはもちろん、運が良ければ宝箱なんかも拾うことができる。

宝箱の中身は様々で、武器が入っていることがあればポーションが入っていることもある。

古代の魔導具が入っていたという話もチラホラと聞く。

また最奥にはボスが生息しており、討伐できれば一攫千金を狙うことができる。


そしてギルドが定めたルールがいくつか存在するのだが、それはおいおい説明する。


ルーク達は今回ボスの討伐は狙っていないので、のんびりと移動していた。


「ルーク、そこそこ大きい魔力が近づいてきたわよ」

「結構な速さで砂の中を泳いでるな。ということはサンドフィッシュかデザートアリゲーターのどちらかだ」

「シルラ、下がってなさい」

「ワン」


数十秒後、砂の中から三メートル級のワニが飛び出してきた。

「ガァァァ!!!」


大口を開け、ルークを噛み砕こうとしている。

しかしルークは動かない。

なぜなら……。


氷棺アイスコフィン


オーロラが冷気を放ち、ワニに直撃。

宙で氷漬けになり、ルークの目の前に落下した。


「ナイス」

「砂漠の生き物は寒さに弱いからね。アタシに任せてちょうだい」

「さすがオーロラ。さすロラだ」

「もっと褒めなさい」


「才色兼備のエルフ魔女」

「おっほっほっほ!!!」

オーロラは手を上品に口元に添え、高笑いをした。


「ワン……」

シルラは呆れているが、これはいつものことである。


彼らが初のダンジョンアタックにこの場所を選んだのは"砂漠の生き物達にとって、オーロラは天敵のような存在"だからである。

実際夜になるとほとんどの魔物が動けなくなるので、砂の中に潜り、じっと朝日が昇るのを待つ。


ルークがワニにトドメを刺し、すぐさま解体に入った。ギルドに常駐している解体師に頼んでもいいのだが自分でやった方が安上がりな上、経験にも繋がるので積極的に解体していく。

これが冒険者の醍醐味でもある。


「おっ、魔石が出てきたぞ。売ってもいいのだが……シルラが食うか?」

「ワン!」

「ほれ」

シルラはバリボリと魔石を噛み砕いた。


「美味しい?」

「わふ」


この世界の生物は主に二つに別れる。

一つ目は魔物。

二つ目が普通の動物や虫である。

前者は魔法を使えるが、後者は使えない。


魔物の体内には必ず魔石と呼ばれる石が入っており、その中には魔力が豊富に含まれている。

魔石は様々な物に用いられるため、比較的高い値段で取引される。

魔物のランクが高いほど魔石に含まれる魔力が多くなるので、値段も跳ね上がる。


ルークは以前魔物に関する書籍を読んだ時、『魔物は他者の魔石を大好物としており、それは成長や進化に繋がる』と記してあった。


そのためシルラに与えたのである。


「よし、今日の昼飯は新鮮ワニ肉のステーキだ」

「わーい!アタシ肉大好き〜」

「ワン!!!」


ルークはマジックバッグから調理器具を取り出し、直ちに料理を開始した。

その間にオーロラは氷でテーブルやイスを作り、シルラは砂の上を駆け回る。



しかし数キロ離れた場所から、無断でその様子を観察している男達がいた。


ターバンを巻いた男が遠視の魔導具を覗き込んだ。

「なかなかやるなぁ、あの女。砂ワニを一瞬で氷漬けにしちまった」


魔法使いの男が問う。

「男の方はどう?」

「一歩も動いてなかったからおそらく雑魚だろうな。しかもワニを解体した後、せっせと料理を始めやがったぜ」


「じゃあ召使いか何かだろうね」

「あの剣は飾りかよ〜、みっともねぇなぁ」

「もしかしたら貴族令嬢と使用人だったりして」

「うぉ、大当たりじゃねえか!ラッキー!」


ターバンの男が声を上げた。

「ん?ありゃあもしかして、マジックバッグじゃねえか?」

「「!?!?」」


「もしあれを手に入れられりゃあ……」

「うん。一生遊んで暮らせるよ」

「マジで貴族様なのかもしれねぇな」


そこでようやくリーダーの男が口を開いた。

「金も女も、全て俺たちの物だ。絶対に成功させるぞ」

「「了解」」


三人組は身を屈めながら観察を続けた。

ルーク達はまったく気がついていない。



その夜、ルーク達は小さな遺跡を発見したため、そこで一夜を越すことに決めた。


「風を防げるのは大きいわね」

「ああ。地面も石で固められているから、砂中性の魔物が顔を出すこともない」

「シルラがいるから暖にも困らないしね」

「その通り」

「ワン!」


ルーク達はテントを張った。

大型寝袋を用意し、ルーク・シルラ・オーロラの順に入った。


「想像以上に暖かいな」

「モフモフふわふわポカポカね」

「わふ」


「シルラのスキルは体温調節なのかもな」

「んなわけないでしょ、やめなさい」

「ワン……」


ちなみに先ほどシルラのスキルについて話し合ったのだが、まだ本人ですら何かわかっていないらしく、ゆっくりと見守る方針になった。

魔物は人間と違い、覚醒の儀を行うわけではない。そのため生まれつきスキルを使える個体が存在すれば、何かがトリガーとなりスキルに覚醒する個体も存在する。

そもそも特に戦力が足りていないわけではないので、焦る必要はないのだ。


そして三人が眠りについた後、怪しい三人組が遺跡に入っていった。

「「「…………」」」





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