第34話:砂嵐

 砂漠ダンジョンの南側にある危険地帯。

過去何人もの冒険者が万全の体制でここに挑んだのだが、成果を持ち帰るどころか、無事に帰ってきた者さえ誰一人として存在しない。


砂嵐の中は常に荒れ狂うように砂が飛んでおり、立っているだけで身体が傷ついていく。また視覚と聴覚、嗅覚が遮断されているため、方向感覚も狂う。一度入れば出ることは難しい。


ちなみにリリとララは奇跡的に帰還できたが、あれは挑んだのではなく迷い込んだので例外である。実際、未発見の遺跡には目もくれず、脱出に専念した。そのおかげでルーク達が美味しい蜜を吸えるのだが……。


噂のルーク御一行は、楽しげに危険地帯を闊歩していた。

「やっぱ氷魔法は便利だな」

「動かすのに少しコツがいるけどね」

「ワン」


オーロラが透明な氷でキューブを作り、砂嵐から身を守っているのだ。視界は悪いものの比較的安全に移動ができる。

一秒間に何人もの人が息絶える戦場を経験した二人からすれば、砂嵐くらいなんのそのだ。


「今思えばリリとララは馬鹿だが、性格はかなり良いよな」

「以前こんな人外魔境に迷い込んだのに、アタシ達のためにもう一度入ろうとしてたわけだからね。アホだけど」

「懺悔の気持ちが強いことを加味しても、やっぱ良い奴らだ。アホだけども」


「シルラは大丈夫か?キツかったら抱っこしてやるぞ」

「ワン!」

「初めての砂嵐に大興奮ね。さすが推定高ランク魔物」


南西方向へ向かって歩みを進めていると、オーロラが大きな魔力を感じ取った。

「何か来るわよ!!!」

「了解」「ワン」


オーロラは一時的に氷壁を分厚くした。移動はできなくなるが、防御力は倍以上に跳ね上がる。


「シャーッ」

前方に巨大ヘビが出現した。


(目が退化している分、舌が何方向にも枝分かれしている。熱探知能力を持ってるんだろうな。図鑑では見たことがないから、危険地帯の固有種である可能性が高い)


「シャーッ、シャー!!!」


ヘビが何度氷壁に噛みつき、体当たりをしてもオーロラの防御は突破できない。それどころか冷気にやられ、徐々に動きが鈍くなってきた。オーロラは変温動物にとって天敵どころの話じゃないのだ。


「氷に付着している紫色の液体は毒か?」

「物騒ねぇ」


ヘビが疲労し少し距離をおいたタイミングでルークは破狼牙を抜刀した。


「そろそろ穴を開けてくれ。サクッと仕留めてまた帰ってくる」

「迷子にならないでね?」

「ワン」


ルークは穴から飛び出した。


本当はオーロラの魔法で攻撃するのが一番早い。だが危険地帯において、彼女の魔力切れは命取りになる。そのためルークが積極的に討伐するのだ。


(視界が最悪だが、ヘビが大きいおかげでギリギリシルエットが確認できる)


接近すると、ヘビの頭がグリンとルークの方に向いた。二つの牙には猛毒液が滴っており、それが地面に流れ落ちジュウッと蒸発した。


「シャーッ!!!」


ヘビは身をバネのように引き伸ばし、その大きな口でルークを噛み砕こうとした。

ルークはスライディングで躱し、喉の辺りを大胆に斬り裂く。


ザシュッ。


標的はバタリと地面に倒れた。

ルークの勝利である。


(でもヘビは生命力が高いことで有名だからな。一応首を落としておこう)


ほぼノンタイムで首を斬り落とすと、胴体が暴れ回った。

「やっぱまだ生きてたか。狡い奴め」

「シャ……」


ルークの言った通り、ヘビは死んだふりをして不意打ちを狙っていたのである。


「お疲れ様」

「ワン」

「おう。すぐに解体して遺跡へ向かおう」


基本的にヘビ系魔物は捨てるところが無い。

牙と皮は鍛冶師に、毒袋と魔石は錬金術師に、肉は料理師に売れる。

ルーク達の場合、魔石はシルラのオヤツになり、それ以外はギルドでまとめ売りする。


「美味いか?」

「ワン!」バリボリ


「シルラはまだスキルに覚醒していないけど、ダブルだったらいいわね〜」

「普通のダブルよりは強力なシングルの方がいいけどな」


魔物は人種族と違い、稀に二つのスキルに覚醒することがある。一つの場合はシングル、二つの場合はダブルと呼ばれる。しかしダブルに覚醒できるのは高ランクの中でもひと握りだと言われているので、無理に期待しすぎるとシルラがプレッシャーを受けてしまうかもしれない。


その後、流砂に巻き込まれそうになったり、気持ち悪い虫系魔物に粘着されたりしつつ、サクサク移動を続けた。


そして歩くこと約二時間、距離にしておおよそ十キロ。ようやく遺跡を発見できた。


「これがリリララが言っていた遺跡か」

「小さすぎて発見が遅れちゃったけど、日中に見つけられてよかったわ」

「ワン」


ルーク達の目の前には民家ほどの大きさしかない遺跡がひっそりとただずんでいた。四つの柱が立っており、その中央には地下へ繋がる階段がある。


「とりあえず下りてみよう」

「賛成」「ワン」


階段にはたくさんの壁画が描かれていた。

「人と魔物、そしてこれはなんだ?」

「なんでしょうね、わからないわ。人の十倍以上はあるけど……」


オーロラがつぶやいた。

「もしかしたら旧世紀の遺跡だったりして」

「だったら激アツだな」

「ワン」


彼女の言った"旧世紀"とは、今から三千年以上前に築かれた文明である。その時代、今では考えられないほどの、人智を超えた魔導具や機械が発明されたとされている。しかし大戦争が勃発し文明は瞬く間に滅びを迎え、それと共に利器も失われてしまった。そのため今では半ば伝説として語り継がれるだけとなった。


この世界に現存する遺跡のほとんどが新世紀のものなので、旧世紀のものを発見すれば大騒ぎどころの話ではない。


「とんでもないお宝の匂いがプンプンする」

「シルラの鼻が役立ちそうね」

「ワン!」














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