第28話:ゼイクロード

「二人とも!見えてきたよ!」

「あれがゼイクロードか」

「大都市の名に恥じない規模ね」


カリナが指差す先には、大きな防壁に囲まれた都市ゼイクロードがある。

門の周りには審査待ちの馬車がたくさん並んでおり、その馬車向けに屋台が開かれていた。

それだけで規模の大きさが理解できるだろう。

ちなみにあの場所は、共和国では首都の次に大きいとされており、現在ニーベル公爵家の当主が治めている。


「正直、要塞都市バルミリアンや王都バルスタッドとは比べるまでも無いが、それでも大きいな」

「元五強の主要都市と比べちゃダメよ。ねぇ、シルラ?」

「ワン!」


シルラはよく分かっていないのだが、返事だけは一丁前である。


彼らの馬車も列に並び、のんびりと順番待ちしていた。ルークは馬車から下り、屋台で串焼きやサンドイッチ、お菓子や果実水など様々な物を購入して馬車へ戻る。


もちろんカリナの分も買ってきたので、戻る前に渡した。

「わーい!ありがとね!」

「おう。道中美味い飯を食わせてくれた礼だ」


「買ってきたぞー」

「アタシ屋台飯大好きなのよねぇ」

「ワン!!!」


食後、シルラは腹をパンパンにし、オーロラの膝の上で仰向けになっていた。

「わふ」

「そうやって食い意地をはるから……」

「オーロラに似たんじゃないか?ほら、よく従魔は主人に似るって言うだろう」

「アンタ次それ言ったらぶっ殺すわよ」


シルラは今まで雑草や苦い果実、虫などを食べて生き延びてきたので、人間の食べ物を見ると、ついがっついてしまうのだ。


「いっぱい食べて大きくなるんだぞ」

「いつかシルラの上で昼寝させてね」

「わふ」


「まずは冒険者ギルドで従魔登録をしなければな」

「確か収縮機能がついてる首輪が配られるんだっけ?」

「そうだ。それを身体のどこかに付ければ、街中を自由に歩けるし、宿にも泊まれる」


それから約一時間後、ようやく番が回ってきた。

「その狼はなんだ?」

「山道で他の魔物に襲われているところを助けたら懐いてくれた。これから冒険者ギルドに直行して従魔登録を済ませる予定だ」

「ワン」


「ふむ……。まぁ犬みたいなもんだな。通ってよし!」

余談だが、この門番は犬派である。


巨大な魔物だと色々と問題が発生するところだが、シルラはまだ子犬サイズなので、普通に入ることができた。


「じゃあここでお別れだね。依頼を受けてくれてありがとう!」

「こちらこそだ」

「そうそう。感謝するのはこっちよ」

「ワン……」


「お二人さんはこれからどうするの?」

「ここで少し冒険者活動をした後、首都へ向かう予定だ」


「そっか。僕は三日後には帝国に向けて発つから、会うのはこれが最後になっちゃうかもね」

「カリナと離れるの、ちょっと寂しいわ」

「僕もだよ……またどこかで会ったら、その時は仲良くしてね?」

「もちろんだ」


「じゃあね!!!」

「おう」

「またね〜」

「ワン!!!」


カリナは馬車を走らせ、人混みの中に消えた。

その後ルーク達は冒険者ギルドへ向かった。

ゼイクロードのギルドはコルウィルの三倍はあり、また酒場と併設している。


オーロラはシルラを抱きしめ、ルークと共にギルドに入った。真っ直ぐ進むと受付があり、左手に依頼ボード、右手に酒場がみえる。

今は昼時なので酒場も盛り上がっていた。


中には酒を飲み、顔を真っ赤にしている冒険者達もいる。

「かーっ!うめぇー!」

「このために冒険者やってるようなもんだぜ」

「お前そんなに飲んだら、またカミさんに怒られるぞ?」


ここはコルウィルとは違い、冒険者の出入りが激しいので特に絡まれることもない。

逆に小都市のギルドだと皆嫌でも顔見知りになるので、その分新参者が目立つのだ。


と思った矢先。

「おい、そこの坊主と嬢ちゃん」

二人が振り返ると、そこには目に切り傷のあるスキンヘッドの大男がいた。

全身から強者の雰囲気を漂わせており、またその立ち振る舞いから歴戦の冒険者だということがわかる。


「……なんだ?」

「見たところ、そのチビを従魔登録しにきたんだろう」

「そうだが」

「じゃあついてきな。案内してやる」

ルークとオーロラは顔を見合わせた後、大男について行った。


大男が歩いただけで冒険者達が頭を下げ、道を譲った。

「アランの兄貴だ」

「今日もかっこいいぜ」

「アラン様……///」


受付にて。

「ルナちゃん、こいつらが従魔登録をしたいんだとよ。ちょっと面倒見てやってくれ」

「ア、アランさん!?」

「ほら、従魔登録する前に何か問題起こしちまったら、坊主達もギルド側も困るだろう」

「その通りです!了解いたしました!」


「アランっていうのか」ボソボソ

「いい冒険者さんね。見たところ他の人達にも尊敬されているようだし」ボソボソ


「じゃあ俺は行くぜ。あとは頑張れよ」

「恩にきる」

「ありがとね」


といい、手をひらひらと振りながら去っていった。


「お待たせしました。一応確認させていただきますが、今日は従魔登録をしにこられたのですか?」

受付嬢はシルラ見て頬を緩ませた。


「あー、それはそうなんだが……まずはこれを」

ルークは依頼書を渡す。

受付嬢ルナは慣れた手つきで判子を押した。


「これにて護衛依頼は完了です。お疲れ様でした!ポイントはこちらで付与しておきますからね!ではこのまま従魔登録に移りましょう」

「手際が良くて助かる」


「この子の種族はなんですか?」

「おそらくシルバーウルフの亜種だ」


「お名前は何でしょうか」

「シルラよ」


「性別はどちらでしょう」

「オスだ」


「従魔の心得はご存知でしょうか」

「もちろん」


受付嬢はすごいスピードで書類に記入していき、最後に引き出しから魔導具を取り出した。


「これが従魔の首輪です。シルラ君の好きなところにつけてあげて下さいね。お勧めは前足首です」


「どこがいい?」

「ワン」

シルラが小さな前足をピョンと前に出したので、そこに取り付ける。


「シルラ君、言葉を理解してるんですね!」

「そうそう。この子賢いのよね〜」


「戦力になるまでは長いと思いますが、存分に可愛がってあげてくださいね!!!」

「おう」

「早い対応ありがとね、受付嬢さん」

「ワン!」


「最後にこれをもらっていく」

ルークは受付の脇に置いてある、パンフレットを手に取った。


「また来てくださいね〜♪」


二人と一匹はギルドから出た。


「従魔登録も済んだことだし、これからは自由に動けるな」

「今日は宿でゆっくり過ごすとして、明日はどうする?」

「早速ダンジョンに潜ってみるのもアリだよな」


「賛成〜」

「ワン!」


何を隠そう、このゼイクロードは共和国一のダンジョン都市として名を馳せているのである。












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