第27話:黒狼

  山道で黒狼を拾った後、安全地帯に無事到着した。ここは周囲が絶壁に囲まれており、魔物に襲われる心配はほとんどない。また危険な山なので、盗賊が現れることもない。


今回カリナから受けた依頼は、護衛中は三食が付いてくる契約内容なので、ルークとオーロラは準備ができるまで休憩していた。


「シルラ、こっちにおいで~」

「シルラ。毛繕いをしてやるから俺んところに来い」

「ワン!」


先ほど馬車の中で議論した結果、黒狼の名は『シルラ』に決定した。名付け親はもちろんオーロラである。シルバーウルフの”シ”に、ルークの”ル”、オーロラの”ラ”を合わせてシルラ。シルラの性別はオスなのだが、中性的で響きもよく、中々素晴らしい名だ。本人もお気に入りのようで、名前を呼ばれる度に返事をしてくれる。


「そういえば、シルラは何で一人だったのかしら」

「親とはぐれたんじゃないか?」

「それかグリムガンに襲われた際に、親狼が逃がしてくれたのかも」

「ワン……」


シルラは悲しそうというよりは、複雑な気持ちを表すような顔をした。

「ふむ……逆のようだな」

「逆って?」

「傷を抉るようで悪いのだが、言葉を選ばずに言うと、捨てられたんだと思う」

「ワン」


少々重い雰囲気が漂う。

そしてルークとオーロラは声を合わせて言った。

「俺達と一緒だな」「アタシ達と一緒ね」

「!?」


ここでシルラの過去を紹介する。

シルラは二人の予想通り、シルバーウルフの亜種としてこの世に生まれ落ちた。狼は一度に何匹も子を産む。シルバーウルフはその名の通り、白に近い銀色の毛を生やしている訳だが、シルラは一匹だけ美しい漆黒色だった。特に賢くもない親狼は亜種の存在など知る由も無く、その黒狼をたいそう気味悪がった。そして己の子供達が乳離れをした日に、まだ幼い彼を森の奥に捨てた。


そこからシルラの放浪生活が始まったのだ。普通であればすぐに他の魔物に襲われ命を落とすところだが、生まれつき頭の良かった彼は上手く生き抜くことに成功した。運良く雑食だったシルラは、腐った果物や虫など、食べられるものは何でも腹に入れた。時には魔物に襲われることもあったが、何とか逃げ延びた。


そして親狼に捨てられてちょうど二ヵ月が経過した日、Cランクのグリムガンに目を付けられた。推定B~Cランクの亜種とは言え、シルラはまだ子供なので、グリムガンからすれば良いおもちゃに過ぎない。あの卑しい笑みは忘れられない。巨大な腕に数回吹き飛ばされた後、重い身体を引きずり、必死の思いで山に逃げた。


山に入ると、自分と同じ匂いを感じた。それもかなりハッキリと。そちらの方へ向かうと山道が見えたので、何も考えずに飛び出した。しかし残念ながら、そこで力が尽きてしまった。もう動けない。身体に力が入らない。


生きることを諦め蹲っていた時、ルークが現れた。最初は混乱したが、すぐに助けてくれた事を理解した。己が成すすべも無かったグリムガンを一撃で倒し、その上治療までしてくれたのだ。またなぜかオーロラとルークの言葉は自然と読み取れた。


誰かに優しくして貰ったのは生まれて初めてだった。


そして『一緒に来るか』と声を掛けてくれた。

その言葉に少し動揺してしまったが、もちろん返答はYES。

己の狼生に光を差してくれた恩人に付いていかないはずがない。

馬車の中でもギュッと抱きしめられ、夢心地だった。


しかも今の話によると、この二人も親に捨てられた口らしい。

不謹慎だが、さらに親近感が湧いた。不憫な思いをしてきたのは、自分だけじゃなかったんだと知った。


ルークとオーロラは、シルラにとって家族以上の家族となった。

もちろん逆もまた然りである。

こうして、親に捨てられた異端児のみのパーティが奇跡的に結成されたのであった。


「ワン!」

「おお、どうしたんだ、急に」

「お腹でも空いたのかしら。ちょっと待っててね。あの赤毛のお姉ちゃんが今作ってくれてるから」


「いや、そういう訳でも無さそうだな」

「ワン」

シルラはルークが腰に下げている破狼牙を凝視した。

「ん?……この刀が気になるのか?」


シルラがコクコクと頷いたので、ルークは躊躇なく抜刀して見せた。

「じゃあ見せてやろう。ほれ」


尻尾を振りながら、持ち手から刃の切っ先まで入念に匂いを嗅いでいる。

「~♪」

「なんか楽しそうね」

「だな」


二人は優しく微笑みながら見守った。

ここでルークは思い出した。同時に頭を鈍器で叩かれるような衝撃を受ける。

「……あ」

「どうしたの?」

「先ほど、黒い狼なんて知らないと言っただろう?」

「うん」


「昔王城の書庫で”破狼”に関する資料を読んだことがある」

「それで?」

「相当古い文献だったから定かではないが、遥か昔、大陸を震撼させた破狼は…………”夜に溶け込むような漆黒色だった”らしい」

「……え」


シルラは可愛らしく首を傾げた。

「ワン?」













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