第25話:旅商人カリナ

 二人はコルウィルの大通りで食べ歩きをした後、宿屋で一泊した。


その翌朝、ルークとオーロラは宿屋で朝食をとり、すぐに北門へ向かった。

北門付近は、朝出発する商人達の馬車と、依頼を受けた冒険者達で混雑している。


オーロラは依頼書を開いた。

「えーっと、依頼書によると大体あの辺で待ってるらしいわ」

「あれじゃないか?二頭のデカい馬がいるやつ」

「あー、あの馬車かも。とりあえず行ってみましょう」


二人は件の馬車の方に行く。

馬車には大きな馬が二頭繋がれているのだが、体格や風格は軍馬のそれである。

(正直、一商人が連れている馬とは思えん。これなら特に苦労せず、途中の山を越えられるかもな)


馬車には若い女性が乗っていた。

女性は必死にサンドイッチを齧っているため、こちらから声を掛ける。

「ちょっといいか?」

「ん、どうしたんだい?」モグモグ

「昨日ゼイクロードまでの護衛依頼を受けた者だ」

「あー!君たちが今回護衛をしてくれる冒険者か!確かルーク君とオーロラさんだったよね?」

「ああ」

「そうよ」


女性はサンドイッチを一瞬で食べ終え、なぜか馬車から飛び降りた。

「とうっ!」

だが着地に失敗し、グキッと膝を”やった”。

「!?」


「いたい!いたいよ、ルーク君!」

「俺が危害を加えたみたいな言い方やめろ」

「カッコつけて飛び降りるからでしょ……」


約一分後、ようやく自己紹介が始まった。

「まずは今回依頼を受けてくれてありがとう!僕は旅商人のカリナだよ!よろしく!」


(僕っ子だ)

(僕っ子って、本当に実在したのね……伝説上の生き物だと思ってたわ……)


カリナは赤毛のショートで、頬にはソバカスが付いており、見た目や言動からかなり活発な印象を与える。


「俺は剣士のルークだ。よろしく」

「アタシは魔法使いのオーロラよ。よろしくね~」


二人共一般の剣士や魔法使いとは大分かけ離れた存在なのだが、普段はそこら辺にいるような冒険者と同じ振舞いをしている。

この世界には彼等のように、よっぽどの事が無い限り、めったに表に顔を出さない怪物が野に潜んでいたりするので油断できない。


「ちなみになんだけど……お二人はカップルかな?」


ルークとオーロラは顔を見合わせた。

「カップルというか……」

「結婚してるからもう夫婦だ」


「ひゅ~、お熱いねぇ~。まだお若いのにぃ」

(良いなぁ、僕も欲しいなぁ、イケメン彼氏。でもオーロラさんみたいな超絶美人を見ると、自信が無くなってくるよ……)


自己紹介が済んだので、早速二人は馬車に乗り込んだ。

北門を潜り抜けると、南側よりも大きな草原が広がっており、道が二手に分かれていた。

右が隣都市ルートで、左が大都市ルートだ。


「じゃあ出発するよー!!!」

「おう」

「はーい」

馬車は駆け出した。


「スゴイ速さだな。バルミリアンの大平原で育った馬並みだぞ」

「でしょ~?うちの実家は代々牧場を営んでいてね。僕が商人になった時に一番良い馬を二頭くれたんだ」

「それにしても、よく懐いているわね」

「僕にとっては家族だからね!いつも大事に面倒見てるんだよ~」


この草原は広葉樹林と隣接している。

そしてその向こう側には……。

「見て!あれが今回僕達が超える山だよ!!!」

「コルウィルの中にいた時は防壁に遮られ見えてなかったが、結構デカいな」

「こんなに堂々と聳え立っていたのね。驚きだわ」


森に入ると、木漏れ日が彼等を迎えてくれた。

「涼しいし、空気が綺麗ね~。それになんだか木が生き生きとしている気がする」

「さすがエルフ」

「馬鹿にしてるでしょ」

「いや、普通は木の健康状態まで確認しないだろ」

「これだから人間は……」

「人間を馬鹿にするな。数だけは多いんだぞ」


カリナは堂々と盗み聞ぎしていた。

(朝からイチャイチャしやがってぇぇぇ!!!)

悔しさから顔を梅干しのようにすぼめている。


「二人共!魔物が出てきたら大声で叫ぶから、その時はよろしくね!」

「わかった」

「了解~」


穏やかなこの森と違い、あの山には最近危険な魔物が住み着いたのだが、まだ誰も気が付いていない。もちろんコルウィルにもその情報は入っていない。

「グルルル……」



一方その頃、帝国城では。

「奴は今ちょうどコルウィルを抜け、ゼイクロードへ向かっている頃だろう」

「陛下。もう王国は滅亡したので、ミドルネーム以降は不要でございますよ」

「つい癖でな」


「ノア陛下。なぜゼイクロード側だとお考えで?」

「アイツは昔から待つことを苦手としているゆえ、手っ取り早くゼイクロード側へ抜けると見た」

「なるほど」


そもそもコルウィルから他都市までは大分距離が離れているため、徒歩での移動は考えにくい。

また諜報から送られてきた情報によれば、どうやら冒険者登録をしたとのこと。

隣都市ルートへの護衛依頼は人気だと知られているので、大都市へ向かったと考えた訳である。


ちなみにヴィクターはルークの事を内緒にしたつもりだが、賢龍帝にはほぼすべてが筒抜けである。そして彼にとって命の恩人という事も知っているので、特に罰したりはしなかったが、その分の仕事はしっかりと振った。


「ゼイクロードへ、勧誘の為の少数部隊を送りますか?」

「もちろんだ」

「了解致しました」


「彼は首を縦に振るのでしょうか……」

「さぁ。どうだろうな」

と言いつつも、手をギュッと握りしめた皇帝であった。


(いつか必ずお前を手中に収めてやる……ルークよ……)





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