第24話:Dランク昇格

 ルークとオーロラはギルド支部の扉を開けた。

ギルドは昼が一番賑わう。なぜなら午前中に活動し帰ってくる者と、これから依頼を受注しに訪れる者がバッティングするからだ。

ちなみにルークとオーロラは王国が滅亡した今、特にコソコソする必要は無いので、常に堂々とフードを外している。


その優れた容姿から嫌でも目立ってしまう二人に、今日も愚か者共が過剰に反応する。

「なんだアイツら。大分若けぇな」

「ここがどこだかわかってんのかぁ?」


そこでストップが入った。

「おい、やめとけ。お前等知らねぇのか?」

「知らねぇって、何がだ?」

「二ヵ月前に”血の宴”が新人にひと睨みで気絶させられた事件があっただろ」

「あったけど……まさか……」

「あの男女二人組の仕業なんだよ」

「マ、マジか……」


二人に絡もうとした中年冒険者は命拾いし、ほっと息を吐いた。

余談だが、以前気絶した連中は”血の宴”という冒険者パーティーを結成しており、そのランクはDである。


受付には沢山の人が並んでいたので、ルークとオーロラも列に並ぶ。

「Dランクに上げて貰った後はどうするか」

「長期滞在はなるべく避けたいわよね。一応王国の側だし、ここ」

「商人の護衛依頼を受けるのはどうだ?」

「馬車で次の都市に行けるし、お金も稼げるから一石二鳥ね。賛成よ」

「じゃあ決定で」


数十分後、ようやく番が回って来た。

まだ冒険者として初々しい二人を見て、受付嬢はニコッと微笑んだ。

普段はむさ苦しいオッサンや、刺々しい強面女性達の相手をしているため、無意識に頬が緩んでしまう。

(イケメンきたぁ!!!パートナーのエルフさんもすごい別嬪さんねぇ。でも待って、よく見たらこの二人はあの時の……!)


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「まずはギルド支部長を呼んで欲しい。帝国のシュヴァルツ侯爵から預かった書簡を持ってきた」

「了解致しました」

(やっぱり!)


受付嬢は事務の男性に声を掛ける。

「至急支部長を呼んできて頂戴」

「了解」


一分もしない内に、奥から支部長がやって来た。

この業界にいるとは思えない落ち着いた服装に、静かで柔らかい雰囲気。

だが、その眼光はナイフのように鋭い。

それだけで元歴戦冒険者だということが十分に理解できる。


「やはり君たちでしたか。まずは書簡を確認させてください」

「これだ」

支部長はルークから渡された手紙を開いた。

「ふむ。かなりの長文がしたためられてますね……」


(どうせ世間話ばっかりなんだろうな。アイツ無駄におしゃべりだし)

(半分以上は不必要な文なんでしょうね。侯爵様のことだし)

二人は心の中で溜息をついた。


支部長は読み終え、顔を上げた。

「予想通り、お二人さんは大活躍だったようですね。本当はもっとランクを上げてあげたいのですが、支部長の権限ではDランクが限界なので……誠に申し訳ない……」

「Dランクに上げて貰えれば十分だ。気にするな」

「別に焦ってるわけじゃないから、全然大丈夫よ」


(見た目と実力はもちろん、性格まで良いのですか。もう反則ですね)


「ではせめて隣都市のギルド支部長に一言添えさせてもらいますね。お二人はすぐに移動するのでしょう?」

「良く分かったな」

「何となくそんな気がしたので。まぁ本当は長く滞在してもらえると、色々助かるんですけどね」

といい、苦笑いをした。


「今書簡とDランクタグを作製するので、少し待っててください」

「わかった」

「じゃあその間に商人の護衛依頼でも受けようかしら。何か良さげな依頼は無い?受付嬢さん」


受付嬢は依頼書を漁り、Dランク以下の護衛依頼を確認した。

「実は隣都市への護衛依頼は非常に人気でして……最も早い依頼でも一週間後となっております」

「一週間か……」

「ちょっと微妙ね」


「隣都市以外は無いのか?」

「大都市ゼイクロードへの護衛依頼であれば余っております。ですがここだけの話、Dランク依頼の中でもかなり危険な部類なんですよね」


二人は共和国首都を経由し、公国に入る予定だ。

コルウィルから首都への道筋は二つあり、一つが隣都市ルート、そしてもう一つが大都市ルートである。

また前者がEランク依頼で、後者がDランク依頼だ。


大都市ルートは途中、魔物蔓延る大きな山を越える必要があるため、受付嬢は受けさせるか否か迷っている。

(Dランクになりたての彼等にこんな依頼はお勧めできないわよね……)


「じゃあゼイクロードで」

「アタシもそっちでいいわ。なんか面白そうだし」

「そ、そんな適当な理由で……」


そこでタイミング良く支部長がきた。

「何か変な空気が流れてますけど、まずはDランクタグを渡しますね。昇格おめでとうございます。恐らく共和国最速だと思いますよ」

「おめでとうございます」

「サンキュー」

「ありがと~」


「で、どうしました?」

「それが……」

受付嬢は簡潔に説明した。


「ああ、ルーク君とオーロラさんなら大丈夫ですよ。実際に君も体感したでしょう?二ヵ月前に」

(あの時はこの私ですら震えましたから。ギルド内に龍でも召喚されたのかと思いましたよ。しかもルーク君だけでなく、オーロラさんまで神の如き魔法を使うらしいですからねぇ。本当に反則です)


受付嬢もあの事件を頭に思い浮かべ、少し顔が青くなった。


「というわけでよろしく」

「よろしく~」

「で、ではお二人を信じて依頼を承ります」


そんなこんなで、二人は依頼書を受け取った。

また行き先が変更したので、大都市のギルド支部長宛に書き直して貰った。


「最後に共和国民として礼を言わせてください。ありがとうございました」

「私からもありがとうございました!!!」

「おう。いつかまた来るから、その時は頼む」

「またね~」

ルークとオーロラは踵を返し、ギルドから出た。


その後、ギルド内では。

「鬼の支部長が誰かに頭を下げてるところなんて初めて見た……」

「マジで何者なんだよ、アイツ等」

「まるで嵐のような二人組だったわね」


そしてルークとオーロラは、ここコルウィル支部において、半ば伝説として語り継がれることとなった。









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