第23話:辺境の街コルウィル

 翌日の早朝、ルークとオーロラは最初の街を出た。

森の街道を順調に進むと、その先には大きな草原が広がっていた。


「ここは二ヵ月前と何ら変わりないな」

「王国では大戦争が勃発していたのにね」


二人は以前、ここでスキルの練習をした。

ルークがド派手にぶっ飛び、最下級スキル〈アクセル〉の真の力を思い知った場所である。

ざっと見渡せば、チラホラと魔物や冒険者達の姿がうかがえる。


「なんて言うんだっけ、あの黒い牛さん」

「Dランクのレイズバッファローだ。エルレイズ共和国の固有種で、大体呑気に草を食っている」

「今日もムシャムシャ食べてるわね~」


しばらく歩き続けていると、オーロラの顎から汗が流れ落ちた。

「暑い……」


前回ここに来たときは春だったのだが、あれから二ヵ月経過した今の季節は夏である。比較的大陸の下の方に位置している共和国は四季性が明確で、春・夏・秋・冬に分かれている。


気温は二十五~三十度程度だ。

しかし太陽の光が燦々と照り付けており、体感温度はかなり高い。

日陰も無いので耐えるしかない。


「氷魔法を使えば多少は涼しくなるんじゃないか?」

「魔法を使ったら負けよ。たまには忍耐力を鍛えなきゃ」

「なるほど。よくわからん」


謎のプライドを発揮するオーロラであった。


「喉乾いたな」

「それに関しては氷魔法を頼っても良いわよ。溶けるまで少し時間掛かるけど」

「いや、打ってつけのブツがあるから大丈夫だ」

と言い、ルークはマジックバッグから青い宝石を取り出した。


「それって……まさか流水石?」

「御名答」

「超高級品じゃないの。さすが元王族ね」

「今回はあまり関係ないけどな」


「じゃあ一体どこで手に入れたの?」

「バルスタッド(王都)の闇市だ」

「へぇ~、掘り出し物ってやつ?」

「そうだ。ガラクタに紛れて売られていたところを偶然発見した」


少し魔力を込めると、宝石から綺麗な水が流れ出した。

「飲んでみるか?」

「うん」


オーロラは指で流水石をつまみ、口元に運んだ。

すると……。

「美味しい!!!」

「だろ?」


二人はコルウィルに入る前に、はやめの昼食を取ることにした。

今日の昼食は宿屋料理人の特製サンドイッチである。

草原の端にある、”あの時”の岩に腰を掛けた。


二人ともかなり腹が空いているので、一心不乱にサンドイッチにかぶりつく。

「「!?」」


舌の上にジュワッと肉の旨味が広がった。

旬野菜のシャキシャキとした食感が小気味よい。

フワフワなパンの内側には、香草とスパイスがふんだんに使われたソースが塗られており、食材たちを上手く一体化させている。

噛めば噛むほど笑顔になれる逸品だ。


「幸せ……」

「最高だ……」


澄み渡る蒼天はまるで大海のよう。


「ねぇ見て。ガルーダが飛んでいるわ」

オーロラは空を指さした。


ガルーダは温厚な事で知られる高ランクの鳥系魔物だ。

個体数が少ない上に美しい見た目をしているため、見た者に幸運が訪れるという伝承が残っている。


「ラッキーだな」

「ね~」


優しい風が吹き、二人の髪が揺れる。

それはまるで映画のワンシーンのよう。


「あの鳥、ちょっと美味そうだよな」

「せっかく良い雰囲気が流れてたのに。アンタのせいで台無しよ、まったく……」

「じゃあキスでもするか」

「しないわよ!!!」


その後も夫婦漫才を繰り広げながら移動を続け、なんやかんやで目的の街コルウィルに到着した。

入口には以前と同じ門番が立っており、声を掛けて来た。


「あれ、お前達は二ヵ月前の……?」

「覚えていてくれたのか」

「人の顔はなるべく覚えるようにしてるんだよ。ほら、顔パスが一番楽だろ?門番側も入る側も」

「しっかりしてるんだな」

「これが仕事だからな~」


「てかそもそもお前達の顔を忘れる方が難しいわ」

「どういうことだ?」

「ああ、まぁいい。忘れてくれ」


ルークとオーロラは控えめに言って美男美女なので、一度見れば嫌でも目に焼き付いてしまう。門番はそれが伝えたかったのだが、本人に向かって言うと若干照れくさいので、会話を中断したのだ。


ルークとオーロラは一応Fランク冒険者のタグを見せ、中に入った。

「ようこそ、辺境の街コルウィルへ」

「それって絶対に言わなきゃいけない決まりなのか?」

「門番さんも大変ね~」

「うるせぇやい!さっさといけぇ!」


二ヵ月前は反乱軍の兵士で埋め尽くされ、常に不穏な空気が漂っていたが、今はかなり賑わっていた。

大通りの両端には屋台が並んでおり、街民や馬車の往来も激しい。


「戦争に勝利したというより、王国の呪縛から解き放たれたから皆笑顔なんでしょうね」

「今までグレイスが彼等の笑顔を奪っていたと考えると、元王族として申し訳ない気持ちになる」


「アンタだって被害者側なんだから別に良いのよ」

(もしルークが王位を継いでたら、王国も共和国も争い無しで幸せになってたんでしょうね)


「でも追放されてなかったらアタシと出会ってない訳よね。それはそれでちょっと……ブツブツ」

「どうしたんだ?」

「な、なんでもないわ!」


「とりあえずDランクに上げてもらいに行くか」

「冒険者ギルド楽しみ~」

二人は街の賑わいを楽しみながら、ヴィクターに渡された書簡を握りしめ、コルウィル冒険者ギルド支部へ向かった。


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4月15日からドラゴンノベルズコンテストがあるらしいですねぇ……(●´ω`●)ニチャア










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