第2章

第22話:二人旅再開

 グレイス王国vs周辺諸国の戦争は、ルークとオーロラの活躍により幕を閉じた。

終戦後も国内では常に不穏な空気が流れていたので、二人は王国から足早に去ることにした。

また幸運な事に同じことを考えている商人が沢山いたので、相応の料金を支払い、馬車に乗せて貰うことに成功した。


「俺達が初めて会った時、確かこんな感じだったよな」

「うん。まだ互いの顔も知らなかったのに、ガタゴト揺られながらずっと雑談していたわよね」

「懐かしいな」

「この二ヵ月で色々あったからね」


外を見ると、二人と同じく王都から地方へ向かう国民を何人か確認できた。

恐らく王都に出稼ぎをしに来ていた者達だろう。

大きなリュックを背負い、必死に歩いている。


「なんか夢みたい」

「何がだ?」

「だって少し前までは両腕が無かったし、そもそも奴隷だったじゃない、アタシ」

「確かに」


「でもアンタが救ってくれた」

「強引に嫁にしたのは良くなかったけどな」

「まぁアタシは嬉しかったから良いんだけどね」

「そういって貰えると助かる」


「……こう見えて結構感謝しているのよ?」

「こちらこそだ。オーロラは忘れているかもしれんが、俺一応最下級スキル所持者だからな?」

「それ普通に忘れてたわ」

「おい」


それからも淡々と雑談に花を咲かせた。


「お~い、お二人さん。イチャイチャしてるとこ悪いけど、そろそろ共和国の関所に到着するぜ~」

「わかった」

「イチャイチャしてないわよ!」


窓から身を乗り出すと、大量の兵士達が待ち構えていた。

王国民を外に逃がさないために、現在関所では厳重に取り締まりが行われているのだ。

二人はこんなこともあろうかと、共和国のお偉いさんに入国許可書を書いて貰っていたのでスムーズに通ることができた。


「し、失礼しました!通過して頂いても大丈夫です!」

「ご苦労」

「なんで偉そうなのよ、アンタ……」


「す、すげぇな。二人は一体何者なんだ?」

「しがない冒険者だ」

「嘘つけやい」


その日の夕暮れ前には最初の街に到着した。

「目的地に着いたぜ~」

「おっちゃん、ありがとな」

「ありがとね」

「料金はきちんと支払って貰ったんだ。礼をするのはこちら側だぜ」


「また機会があったら乗せてくれ」

「おうよ。またな~」


二人は商人と別れ、最初の街に入った。

泊まるのはもちろん、あの時の宿屋である。


「いらっしゃいませ~」

(あらぁ。また来てくれたのね、美男美女カップルさん)


戦争の影響により、宿屋はあまり繁盛していなかった。

ここが関所から最も近い宿泊施設なので、これは仕方のない話である。


「二人で一晩、プレミアムに泊めてくれ」

といい、ルークは金貨六枚を出した。

「了解致しました」

(あらあら。うふふふ)


「お食事はどうなさいますか?」

「なるべく早めに持ってきてもらいたい」

「かしこまりました~」


二人は部屋に移動し、外套を脱いだ。

マジックバッグをテーブルの上に置き、ベッドに腰を下ろす。

「ふぅ~」

「お疲れ」

「アンタもね」


「とりあえずシャワー浴びてくるわね」

「一緒に浴びるか?」

「浴びるわけないでしょ!このエロガキ!!!」

「残念だな」


オーロラは枕をルークの顔に投げ、そそくさと脱衣所へ向かう。

数分後、バスローブに身を包んだオーロラが出て来た。

頬が紅潮し、瞳もトロンとしている。


「なんかエロイな」

「……変なこと言ってないで、アンタもさっさと浴びてきなさい」

「へいへい」

「ここで脱ぐな!!!」


二人共シャワーを浴び涼んでいると、ちょうど夕食が運ばれてきた。

「やっぱ美味しいわね、ここのごはん」

「関所に近いから良い食材が揃っているのかもしれん」

「あとシンプルに料理人さんの腕が良いのかも」


「ランスロットが好きそうな味だ」

「それって元王国騎士団長さんよね?アンタが殺した」

「人聞きの悪い事を言うんじゃない」


ルークは話を変える。

「ここは接客も最高だから、落ち着けば客足が戻ってまた繁盛しそうだよな」

「アタシもそう思う」


食事を終え、しばし休憩することに。

「ねぇ。従魔とか欲しくない?」

「従魔か……」


冒険者ギルドでチラホラと見かける職業、魔物使い。

文字通り魔物を使役して戦う職業である。

ちなみにルークは剣士、オーロラは魔法使いで登録した。

ギルドの規定で職業は必ず登録しなければならないのである。


「嫌なの?」

「いや、テイム系のスキルを持っていないと大分厳しいんじゃないかと思ってな」

「気合でどうになりそうじゃない?」

「なりそうだな」


ルークの言った通り、魔物使い達は基本的にテイム系スキルを所持している。

しかしそれらを持っていなくても、自力で魔物との信頼を築き上げれば、共に旅ができる可能性がある。

事実、この大陸には”そういう冒険者”が何人か存在する。


「できればデカいのがいいな。背中に乗りたい」

「アタシは可愛いのがいいわ。ナデナデして癒されたい」

「じゃあ大きくて可愛い魔物を探すか」

「そうね」


その後もワイワイと今後の大雑把な予定を決めた。


そして気が付けば三時間が経過していた。

「そろそろ寝るか」

「賛成~」


ベッドは一つしかないので、ルークが後ろから抱く形になった。


モゾモゾ。

「……手つきがイヤらしいわよ。エロガキ」

「なぁオーロラ。二ヵ月前に俺が言ったことわざを覚えているか?」

「確か、据え膳食わぬは何とか、みたいなやつよね?」

「ああ。つまり、そういうことだ」

「あ///」


ようやく振り出しに戻った二人であった。







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