閑話:王国の末路

  深夜、グレイス王国の一室にて。

ヴィクターは通話の魔導具を手に取った。これは世界に数台しか存在しない、超貴重な魔導具である。


『誰だ』

『ヴィクター・シュヴァルツでございます。ノア陛下』

『お前か。経過はどうなった?』

『先ほど王国全土を制圧し終えたという報告が入りましたので、明日公開処刑を執り行う予定です』

『そうか。もう役人は派遣したか?』

『まだ待機させております。陛下と協議し色々と取り決めた上で送った方が良いと考えましたので』

『さすがはシュヴァルツだ。お前を総大将に任命して正解だった』

『身に余る光栄でございます』


『今後はどうなされますか?』

『本来であれば王国民を全員奴隷化させ、此度の戦の参加国で山分けしたいところ。だが……』

『残念ながら物理的に不可能なんですよね』


王国民を全員奴隷化させたところで受け入れられる場所が存在しない上に、そもそも輸送させること自体が難しい。

若い男女に限定して輸送しても、それに反対した大多数の王国民が各地で反乱を起こすだろう。


『誠に難しいものだな。戦争の後始末というものは』

『はい。まったくです』


『そういえば、亜人奴隷達はどうなったのだ?』

『王都の亜人奴隷たちはすでに解放し、それぞれの国へ帰らせました。他については文官が到着次第解放させる予定です』

『相変わらず手際が良いな』

『ふふふ。陛下程ではありませんよ』


犯罪奴隷や、親に金策として売られた奴隷はそのままだが、亜人奴隷に関しては十中八九周辺国から攫われた者達なので、直ちに解放したのである。


『王国は海産資源が豊富な国として有名だが、他はどうだ?』

『資料を確認した所、未だ着手していない鉱山や土地が複数存在するので、かなり期待が持てます』

『ほう。それは好都合だな。ちなみになぜ手を付けていなかったと考える?』

『王国の為政者が無能ばかりだったことが主な原因ですが、単純に技術力も不足しているからでしょう』


リンガード帝国は主に実力至上主義だ。平民に生まれても、学院に通いある程度の学問を収めれば、そこそこの役職に就ける。もちろんもっと優秀な者達は国の重要な人材として扱われる。余談だが、現在の帝国宰相は平民から成り上がった逸材である。


それに比べ王国はどうだろうか。この国の要人は貴族や元王族の者ばかり。

どれだけ優秀でも所持スキルが下級以下であれば笑い者にされ、門前払いされる。

その結果、中級以上のスキルを持った馬鹿が重要なポジションにつく。

ランスロットのような秀才が奇跡的に上り詰めても、物理特化スキルというだけで僻地に飛ばされる始末。

ここだけの話、王国の現状に嘆き、他国に逃げた人材は多い。

ルークも王族に生まれていなければ、即座に王国を捨てていたであろう。


『ではある程度の土地を共和国に分けた後、余った広大な土地は我が国の自治区としよう』

『リンガード自治国の誕生ですね!統治者は誰に致しますか?』

『第一皇子を君主に任命し、技術者と共に直ちにそちらへ送る』

『了解致しました』


こうして、王国の未来は決定した。

国民達は奴隷落ちはしないものの、これから過酷な労働条件の元、毎日馬車馬の如く働かされ、死ぬまで帝国を含めた周辺国家にこき使われる事だろう。

そこには人権など存在しない。

己が亜人達や最下級スキル所持者を理不尽に虐げてきたように。

これが権力・人種差別・スキル主義を掲げた国の末路である。


ちなみに第一皇女は現在皇太子として、将来皇位を継ぐための準備をしているため、手の空いている第一皇子に白羽の矢が立ったのである。

(※この世界では女性でも”皇太子”と呼ぶ)


『ところでシュヴァルツよ』

『はい。なんでしょう』

『余に一つ隠し事をしているだろう』

『……いえ。なんのことやら』

(やはり突かれたか。ルーク君とオーロラ君という特異点を)


『お前が優秀だということは百も承知だが、それにしても事が順調に進み過ぎている」

『偶然ですよ。いや~、運が良かった』

『誰かは言えないのだが、王国には元々余がライバル視していた男が存在する。グレイスを陰で支えていた傑物だ。その男がすでに去っているとはいえ、以前まで奴の監視下だった場所がこの短期間でそこまで脆くなるとは思えんのだ』

『な、なるほど~』


賢龍帝は一息置いた。

『例えば……要塞都市バルミリアン。今回最も鬼門だった場所』

『……』

『あそこには王国騎士団長が常駐していたはず。よく一日で落とせたものだな。正直上手くいっても三日は掛かると予想していたのだが』

『……』


『ふん、まぁいい。この一ヵ月お前はよくやった。ご苦労だったな』

『ありがたき御言葉』


ここで通話が終了した。

「ふぅ~。危ないところだったねぇ」


ヴィクターは窓から夜空を眺めた。

「いくら私が敬愛する貴方様でも、さすがに命の恩人までは売れませんから。ね?ルーク君」










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