第21話:公開処刑
終戦から数日後の昼。
グレイス王国の王都バルスタッド、中央広場にて。
「これから王侯貴族並びに、政府上層部の処刑を執り行う!!!」
処刑台の上に何十名もの権力者、為政者、その他要人がズラリと並べられた。
特にトップに君臨していた者達は衰弱しており、服に大量の血が滲み付いている。
身体が欠損している者もチラホラ。
この数日間で何があったのかは想像に難くないだろう。
オーロラは処刑前から痛めつけられている彼等を見て、呟いた。
「どんだけ恨み買ってたのよ……」
「俺が言うのもなんだが、洒落にならないレベルで買いまくってたぞ」
「しかも一番貢献してたアンタを追放って……。もう笑えないわ」
(本当に血繋がってるのかしら?)
以前も説明したが、グレイス王国の経済は徐々に衰退の一途を辿っていた。
だが属国である共和国などから定期的に資金・資源を搾り取り、誤魔化していたのだ。
人口が自国の半数にもみたないに共和国を長年強請り、挙げ句の果てには亜人を攫い、貴族の娯楽としてオークションの商品にしていた。
あのルークですら、もう回復できないレベルにまで達していたのだ。
加害者側は何とも思っていない。
しかし被害者側は常に苦しんでおり、された事を死ぬまで忘れない。
いじめっ子と似たような原理である。
(反乱軍に亜人兵が多かったのも、それが理由だろうな。俺のせいってわけでもないが、元為政者として申し訳ないと思う)
ちなみに今回の戦争を通して、他国だけでなく自国の民からも恨みを買ってしまった。
「なぁ、俺たちって本当に負けたんだな」
「何も知らされないまま、急に王都に敵軍が攻めてきて一日で落とされるって、どんな拷問だよ……」
「まぁトップがすげ替わるだけで、私たちの生活はあまり変わらないけれどね」
そんな市井の声を聞きルークは思った。
(国民からすると、誰が王で、誰が政治を司るのかなんて案外どうでもいいんだな。一つ勉強になった。だが……)
彼らがこう言っていられるのも束の間である。
まずは政府の要人から処刑されていき、次は貴族の番が回ってきた。
政府要人の時もチラホラと石が投げられたが、貴族はそれとは比べものにならない。
貴族等が前に躍り出た瞬間、群衆の雰囲気が変わった。
「俺たちを見捨てて王都に逃げやがって!!!」
「兵士まで取り上げたでしょう!!!私たちがどんな思いで白旗を振ったか、貴方達にはわからないでしょうね!!!」
「屑どもが!後悔して死ね!」
「そもそも、お前らばかり贅沢をしていて気に食わなかったんだよ!!!」
石が降り注ぎ、貴族等は悲鳴を上げた。
そんな彼らを見ても、ルークとオーロラは特に何も思わなかった。
「あの日、謁見の間で罵声を浴びせてきた連中をこんな形で見納めすることになるとはな」
「皆呑気に石投げてるけど、これから自分たちがどうなるのかまだ知らないのかしら」
そして、ついに王族が前に出た。
また元帥補佐だったエマや、宰相もついでに処刑される。
「王が出てきたぞ!!!」
「あいつが元凶だ!死ぬ前に地獄を見せてやれ!」
「私の息子を返して!!!」
「第二王子ギルバードは元帥のくせに、戦うのを放棄して城に逃げ帰ったらしいぞ!」
「お前のせいで王都が落ちたんだ!」
石が雨の如く降り注ぎ、王族たちに被弾していく。
だが声を出す余力すら残っていないようだ。
一人ずつ処刑されていき、ギルバードの番がきた。
「次は貴様だ。第二王子ギルバード」
「……」
処刑人が剣を掲げ、振り下ろす瞬間。
偶然ギルバードとルークの目が合った。
「!?」
ギルバードは最後の力を振り絞り、声を荒げた。
「ルークゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
ザシュッ。
「なぁ、今ルークって言わなかったか?」
「確か最下級スキル持ちの無能王子だろ?」
「いたわね、そんなの」
「そういえば無能王子がいなくなってから、すぐに王国が破滅したよね。もしかして重要人物だったのかも」
「それはないだろう」
「今何してんのかな」
「知らね。どっかで野垂れ死んでるんじゃねえの?最下級スキルなんて使いもんにならねえだろうし」
「だな」
次はエマである。
「元帥補佐エマ。上がれ」
「……」
(ギル様がルーク様の名を叫んだってことは、この群衆のどこかにいるのかも)
処刑されるまでの短い間に、昔ルークと過ごした日々が走馬灯のように彼女の脳裏を過った。
(彼が去ってからの日々は欠伸が出るほど退屈だったわね)
彼の去り際に己が放った辛辣な言葉が今更心に突き刺さる。
『……幻滅しました……平民ルーク』
(なんであんなこと言っちゃったのかな)
「はぁ。私、本当に何してるんだろう」
(最後にあの美しい顔を見せて欲しかったな)
ザシュッ。
最後は王だ。
「もう死んでるわよね、あれ」
「石を投げられすぎて顔が原型を留めてない」
「ちょっと、今日お昼食べられないかも」
「同じく」
すでに息をしていないのだが、一応首が斬り落とされた。
死に際も選べないとはまさにこの事である。
公開処刑後、ヴィクターが壇上に上がり、これからのグレイス王国の扱いについて発表した。
国民は内容に納得できず、少し暴動が起こったが、瞬く間に反乱軍の兵士たちに抑えられた。
夕暮れ時、二人はヴィクターに挨拶をしに行った。
「えー!本当にもう行っちゃうのかい?」
「ああ。長居すると面倒ごとが起きそうだからな」
「残念だけど、了解したよ。帝国に来た際は是非シュヴァルツ家に寄ってね!」
「おう」
「わかりました」
その後報奨を貰い、すぐに王都を出た。
「これにて全部終了ね」
「なんかありがとな、俺のために」
「気にしなくていいわよ。もう夫婦なんだから」
ルークは、オーロラが彼のために戦争参加を決意したことくらい理解している。
嬉しさと申し訳なさが混同して複雑な気持ちになっているのだ。
「俺たちの物語がやっと始まった気がする」
「ええ。まずは共和国に戻って冒険者ランクを上げてもらわなきゃね」
「だな」
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