第20話:王侯貴族
ルークとオーロラは王城に入ってすぐに馬から降り、徒歩に切り替えた。
謁見の間まで王と宰相を引きずって行ったので、すれ違う反乱軍騎士達には心底驚かれた。
到着後、謁見の間はすでに反乱軍の幹部達で溢れていた。
「この様子を見るに、王都正門付近の制圧も完了したようだな」
「そうね」
なんて会話をしていると、総大将が二人に気が付いた。
「ルーク君、一体何を引きずっているんだい?」
「普通に王と宰相だが」
「ふ、普通にって……。あっはっはっは!!!」
「だからアンタ、”普通”の使い方間違ってるわよ」
ヴィクターはひとしきり笑った後、オーロラに礼を述べた。
「オーロラ君もありがとうね。病み上がりなのに無茶させちゃってごめん」
「いえいえ、そもそも参加を決めたのは私ですから」
「そういって貰えると助かるよ」
「おお。オーロラが”アタシ”じゃなくて”私”って言うの初めて聞いた」
「アンタは少し黙ってなさい」
ヴィクター曰く、王族と貴族達は地下牢に閉じ込めているらしいので、気絶している王と宰相もそこへ運び込むことになった。
「不躾な質問だけど、案内はいるかい?」
「さすがに要らん。一応元王子だからな。城内の地図は頭に入っている」
「だよね~」
さすがに地下まで引きずるのは大変なので、オーロラの魔法で地面を凍結させ、摩擦抵抗を減らすことにした。
通路を歩いていると、前方から四人の男がやって来た。
そのまますれ違うかと思いきや、その中の一人がルークに声を掛けてきた。
「貴殿はルーク元王子様でしょうか」
「そうだが」
「や、やはり……!」
「アンタ、彼等に何かやったの?」ボソボソ
「いや、覚えてない」ボソボソ
若干気まずいので、ルークは単刀直入に質問した。
「悪いんだが、誰だか教えてもらえるか?」
「数年前から今日まで地下牢に捕らわれていた帝国の者です」
「ああ、お前達か。生きてて良かった」
「はい!」
「私達が今ここに立てているのも、貴方様のおかげです。本当にありがとうございます」
といい、全員が深々と頭を下げた。
数年前、地下牢獄の環境は最悪だった。
汚れや匂いが目立ち、まともな食事さえ与えられていなかった。
彼等はそんな劣悪な環境に囚われていたのだ。
だがある日、急にルークが現れ、全てを改善した。
餓死寸前だった彼等に食料を与え、生きる希望を与えたのである。
「何か礼をさせていただきたいのですが……」
「じゃあこのゴミを下まで運んでくれるか?」
「「「「了解致しました!!!」」」」
さすがに王と宰相の顔を知っていたようで、四人は特に何も聞かず、嬉々として運び始めた。
「アンタって結構優しい所があるわよね」
「まぁな」
ルークは口角を上げ、鼻を鳴らした。
「ちなみに彼等を助けた理由は?」
「万が一部下が帝国に捕らわれた際に、トレードで使える駒が欲しかった」
「……前言撤回」
ルーク達は長い階段を下り、地下牢獄の扉を開いた。
王と宰相を閉じ込める牢屋は最奥にある特別牢なので、到着するまでに他の王族や貴族達と顔を合わせることとなる。
あの日ルークを笑い者にし王城から追放した者達は皆、厳重に拘束され牢の床に転がされていた。
「ルーク元王子……?」
「なぜここに最下級スキル所持者が?」
「あれは陛下と宰相様では!?」
「まさか貴様王国を裏切ったのか!!!」
「落ちこぼれの癖に我らを見下しおって……」
ルークはあからさまに鼻をつまんだ。
「なんかここ臭いな」
「自分でトイレもできないのね、王国貴族って」
「あのゴブリンでさえ、糞の掃除くらいするぞ」
「見てるこっちが恥ずかしいわぁ」
貴族達は全員身動きが取れない状態なので、色々と垂れ流し放題なのだ。
「「「「「「!?!?!?」」」」」」
全員が顔を赤らめ、口を閉じた。
恥じらいが怒りを圧倒的に上回ったのである。
次は王族ゾーンだ。
「陛下!?」
「なぜ私達を見捨てたのですか!!!」
「血の繋がった親子ですのに!」
王と宰相が特別牢に放り込まれた後、ルークとオーロラが王族達の前に来た。
少し貴族連中を煽っていたので遅れたのである。
「おい、貴様……ルークではないか?」
「平民落ちした無能がなぜここにいる」
「この際もうお前で良い!早く私達を助けろ!」
「一応血の繋がった兄妹でしょう!?」
「産んであげた恩をここで返しなさい!!!」
ルークはその声を無視し、淡々と語り始めた。
「良い事を教えてやろう。数日後、王都の広場でお前達の公開処刑が行われる。その際、周辺都市からも民が駆けつけてくれると噂で聞いた。一体なんでだろうな」
「確か王は王都以外の国民を見捨てたのよね~。そのお礼に来るんじゃないかしら?」
ルークはニヤリと笑った。
「その通り。”石投げ”という礼をしに沢山集まってくれるらしいぞ」
「よかったわね~」
王族達はそれを想像し、ゴクリと生唾を呑んだ。
ギルバードとエマはすでに徹底的に尋問されたらしく、身体中から血が流れ、かなり衰弱していた。
「ル、ルーク……!」
「ギルバード。元帥ごっこは楽しめたか?」
「黙れ、売国奴め。貴様は必ず地獄に落ちる。その女と共にな」
「毎日発情期だった猿に言われてもな」
「き、貴様ァァァ!ゲホッ、ゲホッ!」
「あんま興奮するなよ」
エマも二人に気付き、目を開けた。
「ルーク……様……?」
「おう。”昔は”仲が良かったルーク様だ」
「……私は一体どこで間違えたのでしょうか」
「知らん。興味も無い」
オーロラは言った。
「ルークがアンタに手を出していなかった時点で、全てお察しよね」
「……」
ルークは別に性に関して潔癖なわけでは無い。
どちらかと言えばエロガキである。
そんな彼が長年側に置いていたエマに手を出していなかったのは、どこか心の中で彼女の本性を見抜いていたからなのかもしれない。
ここだけの話、オーロラには初日で手を出した事が何よりの証拠だろう。
「まぁ公開処刑くらい見に行ってやるから、それまで精々余生を楽しんでくれ。明日から拷問されるかも知れんがな」
「二ヵ月前アンタ達が私のルークにした仕打ちを、その身を以て味わえば良いわ。ルークはそこまで恨んでいない……というか興味が無いようだけど、私は絶対に許さないから」
その夜、ルークとオーロラは勝利の余韻に浸りながら、念願であった王国の名物料理に舌鼓を打った。
「うんま」
「これよ、これ」
ついでにエッチもした。
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