第19話:地下通路

 ヴィクター・シュヴァルツ率いる反乱軍一万はついに王城に突入した。

「王城内の人間を全員捕縛しろ!!!特に王族や貴族のような上流階級は絶対に逃がすなよ!!!」

「「「「「はっ」」」」」


危険を察知した王族達は謁見の間に集合していた。

なぜならここには、近衛騎士団や精鋭部隊が”いるはずだった”からだ。

要するにこの場所が最も安全なのである。


「陛下はどこだ?」

「なぜ誰もいないのだ!」

「私の身に危険が迫っているというのに」

「宰相もいないということは、まさか……」


全員の脳裏に”王は自分たちを見捨てて逃げた”という言葉が過った瞬間。


「おい、ここに王族が集まっているぞ!」

「馬鹿め。お前らの王は既に逃亡している」

「兵士だけでなく、王族まで平和ボケしているとは」

部屋に反乱軍の騎士達が雪崩れ込んできた。


もちろん、その中にはヴィクターの姿も。

「やはり彼の言った通り、王はいないようだねぇ」

(これだから天才は……。ここまで来ると怖いよ、ルーク君。もしや君は、かの皇帝陛下と張り合えるレベルなのでは?いや、流石にそれは無いか。陛下にもルーク君自身にも失礼だね。これ以上はやめておこう)


王族や貴族だけでなく、衛兵や使用人までも一人残らず捕縛された。


ヴィクターは顎を摩る。

「ふむ……。これで全員かな?」


彼が眺めているのはルークが作成した捕縛優先リスト。

ちなみにこのリストには、王城の地下牢獄に収容されている帝国スパイ等の情報も細かく書かれている。


「ヴィクター様、先ほど王都正門付近の制圧が完了したとの情報が届きました」

「ご苦労。じゃあそろそろ地下に捕らわれた同朋を迎えに行こうかな。君も来てくれるかい?」

「是非お供させていただきますとも」



その頃、ルークとオーロラは王都の端にある古民家前にいた。

「地下通路は確かここと繋がっている」

「なんで防壁の向こう側まで掘らなかったのかしら。馬鹿なの?」

「この地下通路は昔、王族が夜の街にお忍びで行くために掘ったものだからな。今は黒豹という王直下の暗殺部隊が使っていたはず」


「なるほどね。でもちょっと待って。近衛騎士以外にも、その暗殺部隊が一緒に出て来るかもしれないってこと?」

「そういうことだ」

「じゃあ騎兵を百人くらい連れて来た方が良かったんじゃない?」


「……」

「何か言いなさいよ」

二人は時が来るまで待機した。


この間にそもそもなぜルークが、王は逃亡すると読んだのかを説明する。

実はルークは王子時代から、”ベルカンプ十七世は身内を愛していない”ことを知っていた。実際王は、王子だけでなく、王妃や王女のことまでも”所詮は他人だ”と思っている。

そのため、ギルバードが精鋭部隊を連れていた時点で、己が逃げるための時間稼ぎをさせるために貸したのだろうとルークは考えたのだ。


以前ルークも言っていたが、王は保身のため、身の回りから軍を派遣することを嫌う。帝国戦線にも決して派遣せず、挙句の果てには王国の他都市にすら援軍を送らず、逆に兵を王都に集め、長期防衛戦に入ろうとした。

そんな男があの状況で、特に大事に思っていない王子に、魔法士団長率いる精鋭部隊を貸すだろうか。いや、貸すはずがない。


以上の理由から、ルークは王が逃げると判断したわけである。



「ルーク」

「ああ、そろそろだな」

二人は濃い魔力群を察知し、戦闘モードに入った。


「作戦通りに頼むぞ」

「任せてちょうだい」


この古民家は門から玄関まで大きな庭が広がっている。

ルークは玄関近くの茂みに身を潜めた。


すると古民家の中から声が聞こえて来た。

「王陛下、まずは私が外の様子を……」

「悠長に確認しているような暇は無い。少しは状況を考えろ、無能が」

「申し訳ございません」


玄関のドアが開き、近衛騎士や黒豹がぞろぞろと出て来た。

その中にはもちろん王と宰相の姿も。


(よし、今だ)

ルークは〈アクセル〉を起動し、一気に茂みから飛び出した。


一瞬で接近し、王と宰相の首根っこを掴む。

「「!?」」


そのままオーロラの元に向かう。

騎士達も気が付き、すぐに後を追った。

「おい、陛下が攫われたぞ!」

「早くお助けしろ!!!」

「なんだアイツ!人二人を抱えているのに速すぎる!」


だが決してルークには追い付けない。


ルークは庭から脱出した。

「オーロラ」

「はいはい」


オーロラは魔法を発動する。

その際に消費した魔力、およそ凍星と同等。

氷瀑ひょうばく


天から巨大な氷柱が降ってきた。

庭が影で覆われるほどの大きさである。


近衛騎士と黒豹の面々は思わず足を止め、上を見上げた。

そして無意識に声を漏らした。

「「「「「え?」」」」」


ドォォォォン!!!!!


これが彼等の最後の言葉となった。


王と宰相はルークに気が付き、一瞬怒号を飛ばそうと考えた。

しかし神の御業を目の当たりにしてしまい、言葉すら出せなかった。

「「……」」

(ば、化け物め……!)

(あの王国魔法士団長ですら不可能ですよ、こんなの……。彼女は一体……)


ルークはその隙にマジッグバッグから縄を取り出し、震える二人を拘束した。

そして縄を軍馬に括りつけ、王城まで引きずって行った。


道中まともに整備されていない道もあり、王と宰相はボロボロになりながら必死に悪態を吐き続けた。

「ル、ルーク貴様!最下級スキルを習得した無能のくせに、こんなことをしてただで済まされると思うなよ!ぐほあッ!」

「陛下、御無事ですか!今すぐ止めなさい!王が死んでしまいます!ついでに私も……グハッ!」


「今日の夕飯何にするか」

「アタシあれが食べたい」

「あれじゃわからん」

「あれよあれ。王国名物の、鶏肉とトマトを煮た料理」

「あれか」

「そうそう、あれ」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る