第18話:精鋭部隊
元帥ギルバードは精鋭部隊の出動許可を貰い、勝利の可能性を見出した。
その後すぐに彼等とエマを連れ、英雄の如く戦地へ舞い戻ろうとしたのだが……。
「あの軍勢はまさか……反乱軍か!?」
(クソッ。どうやって王国軍四万の包囲網を突破したんだ?)
焦る元帥とは違い、エマと王国魔法士団長は冷静に状況を分析していた。
(王城へ戻る最中に聞こえたあの音は、敵の援軍を知らせるものだったのかも……)
(敵は一万か。魔力の質から推測するに、手練れが数名混ざっている。しかし我らは全員が超精鋭。地形も味方している。諦めるのはまだ早い)
魔法士団長は元帥に提案した。
「ギルバード様。数は圧倒的不利ですが、地形は有利です。私達は全員魔法士ですので」
「!?」
(確かにその通りだ。まだ神は俺様に味方している……!)
魔法士にとって、左右に逃げ場のない一本道というのは、己の力を最大限に発揮できる地形なのである。
「ここで奴等を止めなければ王国は終わる。だから周囲への被害は気にしなくても良い。あの命知らず共を一網打尽にしろ」
「了解致しました」
彼女の所持する最上級スキルの名は〈爆炎魔法〉。
その烈火は全てを焼き尽くし、破壊する。
周辺国に名を轟かせるほどの実力者である。
団長は馬上で杖を翳した。
宙に巨大な火の槍を生成し、反乱軍目掛け放った。
「火炎槍」
槍は風を切り、民家を焦がしながら直進する。
(よし、いけるぞ!さすがは王国が誇る魔法士団長だ!)
ギルバードがニヤリと笑った、その時。
「オーロラ」
「はいはい」
オーロラが氷剣を撃ち、相殺した。
「な、なに!?」
氷と炎がぶつかった際に大量の水蒸気が発生し、両軍の間に霧がかかった。
驚愕する元帥を無視し、団長は急いで次の指示を出す。
「霧の中に魔法を放て!!!敵に先に撃たせてはならん!!!」
「「「「「はっ」」」」」
だが……。
「もう遅い」
ルークが霧の中から単騎で飛び出した。
〈アクセル〉で加速し続ける。
風よりも速く、音よりも速く。
全てを置き去りにする。
あと数十メートルのところで横に跳び、民家の壁を蹴った。
敵軍までの一本道をピンボールのように進み、そのまま突っ込んだ。
前衛が掲げている杖を真っ二つに切断していく。
まるで電光石火のごとく騎馬をすり抜けながら破狼牙を振るい続ける。
その中にはもちろん団長も含まれており……。
「!?」
(霧の中から誰かが出てきたと思えば一瞬で消え、いつのまにか杖が斬られてしまった。一体何が起きたのだ?)
反乱軍はこの隙に畳み掛ける。
「
騎馬の脚が凍り付き、ギルバード達の勢いは止まった。
「な、なに!?」
(馬の脚が……凍っただと?)
「馬から降りろ!!!地に足を付けて戦え!!!」
団長の命令により全員馬から降りた。
しかし"見えない何者か"によって、一人ずつ首を飛ばされていく。
「警戒しろ!!!」
一人、また一人命を刈り取られる。
「あれ?」
「おい、大丈夫……か」
「ちょ、ちょっと待」
「ひぃぃぃ!たすけ」
その間にも反乱軍が氷上を駆け、馬上から精鋭部隊を仕留めていく。
「みんな!滑らないように気をつけてね!」
「「「「「はっ」」」」」
戦闘モードに入ったルークは、一魔法士ごときには止められない。認識すらできない。
彼と刃を交える資格があるのは、同じ土俵に立つ者のみ。努力と研鑽を積み上げ続けたランスロットのように。
(ギルバードとエマ、魔法士団長は残しておいたほうがいいな)
ギルバードは尻もちをつき、味方が死んでいく様を震えながら見ていた。
(どうすればいい?どうすればいい!?)
横を見ると、偶然小さな路地を発見した。
(よ、よし!あそこから逃げられる!)
一応魔法士達は諦めず必死に戦っているのだが、彼も王と同じく、味方を時間稼ぎにくらいにしか思っていなかった。
(くっくっくっ……。せいぜい俺のために死んでくれ)
四つん這いになりながら、民家と民家の隙間に入ろうとした瞬間。
「へ?」
目の前に何者かが現れ、黒い剣を突きつけた。
外套を纏い、フードを深く被っているため、誰なのかはわからない。
元帥が素っ頓狂な声を上げている間に精鋭部隊は制圧され、ヴィクター達も到着した。
よく見れば団長も拘束され、反乱軍の兵士に担がれている。
ヴィクターはゆっくりと口を開いた。
「ルーク君……その男が元帥だね?」
「え、ルーク?」
ギルバードの思考は停止した。
ルークはフードを外し、ゴミを見る目で、地に這いつくばる元帥を見下した。
「よぉ、ギルバード。久しぶりだな」
(まさかコイツ……国を裏切ったのか!?)
ギルバードは顔を茹で上がらせ、声を荒げた。
「ルークゥゥゥゥゥ!!!!!」
「うるさい」
「ぐはっ」
ルークはギルバードの顎を蹴り上げ、黙らせた。
「誰かこのカスを拘束してくれ」
兵士達が群がり、速やかに無力化する。
元帥は芋虫の様に横たわった。
「むーっ!むーっ!」
(今すぐ口枷を外せ!無礼者共が!)
ルークは元帥の顔を踏んだ。
「ギルバード。お前はこのあと散々拷問され、情報を吐かされる。そんで最後は王都の広場で一族郎党、公開処刑されるらしいぞ。よかったな」
「!?!?」
その時、エマの声が聞こえた。
兵士に両手を掴まれ、捕らわれている。
「離して下さい、私は関係ありません!一般市民です!」
「ヴィクター様。民間人だと名乗る女がいまして……」
「いやぁ、それはさすがに無理あるでしょ〜」
「エマか。お前も久しぶりだな」
「ル、ルーク様!?」
(なぜここに彼が?まぁいいわ。今はそれどころじゃない!)
エマは兵士の拘束を振り解き、ルークに駆け寄った。
「ルーク様!!!私は全てこの男に騙されていたんです、助けて下さい!!!」
瞬間、どこからか氷矢が放たれ、彼女の片足に突き刺さった。
「えっ」
そのまま派手に転び、顔を地面に打ちつける。
「私のルークに近寄らないで貰えるかしら?」
そしてオーロラが登場した。
「オーロラ、ナイスタイミングだ」
「アンタも少しは警戒しなさいよ」
「すまん」
エマは顔を上げた。
「"私のルーク"って……?」
「言葉の通り、オーロラは俺の嫁だ」
「!?!?!?」
「驚愕しているところ悪いのだが、お前もギルバードと同じ運命だぞ。残念だったな」
「公開処刑は私達も見に行ってあげるからね〜」
元帥の側近がタダで済まされる筈がないのである。
ギルバードとエマは絶望の表情をしたまま運ばれていった。
その後。
「ヴィクター。本当はこのまま一緒に王城へ行ってやりたいのだが、少し気がかりなことがあってな。俺とオーロラは別行動を取らせてもらう」
「了解。ここまで案内してくれれば十分だよ」
一応軽く説明をした後、ルークとオーロラは馬に乗り、別の方向へ向かった。
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