第17話:王城へ

 元帥ギルバードが王城に向かっている頃。

ヴィクター率いる反乱軍は、王都の正門付近で王国軍と激戦を繰り広げていた。


「あの男が反乱軍の総大将だ!」

「首を取れば褒賞が貰えるぞ!」

「殺せぇぇぇ!!!」


「うるさい。邪魔だ」

ルークは馬上から長槍を数回突き、一瞬で敵兵の胸に風穴を開けた。

この長槍も自身がオークションで競り落とした業物である。


「アンタ槍も得意なのね」

「本来は俺が将として王国軍を率いる予定だったから、定期的に長槍の練習もしてたんだ。まぁ刀の方がしっくりくるけどな」


「ふーん。でも今は反乱軍総大将の護衛として王国に牙を向いているなんて、世の中何が起こるかわからないものね」

「ああ、まったくだ」


オーロラに魔力を温存してもらうため、ルークは積極的に敵を屠っていった。

ちなみに二人はフードを被っているので、未だ身元はバレていない。


ヴィクターは遠くまでズラリと並ぶ王国兵達を眺めている。

「戦力は五分五分ってところかな?ここを抜け出すのにはかなり時間が掛かりそうだねぇ」


その時、反乱軍に朗報の音が届いた。

ブォォォォン。


「あの音は、まさか……」

「シュヴァルツ侯爵閣下!帝国から援軍が駆けつけました!その数、およそ三万!!!」

「さすがは皇帝陛下。最高のタイミングだよ」


援軍はすぐに正門を潜り加勢した。

それにより、先ほどまで五分五分だった戦いは反乱軍が優勢となった。

勝利の兆しが見えた事で反乱軍の士気が上がり、言わずもがな王国軍の士気は下がる。

皇帝ノアが差した、神の一手。


「賢龍帝、恐るべしね」

「全部読んでたんだろうな。これだから天才は……」

(今頃帝国の城で声高らかに笑っているんだろうな)



その頃、帝城……ではなく王城では。

ギルバードが詳しく状況を伝えた結果、城内は大騒ぎになった。文官達が忙しなく動き回り、衛兵達は防衛のため城門へ集まっている。


もちろん彼を元帥に任命した王は盛大にブチぎれ、一周回って冷静になっていた。

「貴様……一体何をしでかしたのか理解しているのか?」

「は、はい」


「最上級魔法で門を破られたというイレギュラーはまだいい。反乱軍が一枚上手だったといえる。だがなぜノコノコと帰ってきた?まさか怖気付いたわけではなかろうな?」

「いえ、決してそんなことは……」


「優秀な指揮官であれば、その状況からでも十分敵を押し返せたはずだ。もう一度問う。なぜここへ帰ってきた」

「……」

ギルバードは何も言えず俯いた。


「チッ。再び戦地に戻るか、それともここで余に斬られるか、どちらか選べ」

と言い、王は抜剣した。


「せ、戦地へ戻ります。ですが、その前に一つ頼み事がありまして……」

「なんだ?」


「王国魔法士団長率いる精鋭部隊を貸していただきたいのです」

「ふん。まぁいいだろう」

「!?」

ギルバードは本当に貸してもらえると思っていなかったので、驚き顔を上げた。


「ありがとうございます!!!」

(ダメ元だったが、頼んだ甲斐があった!)


その後、ギルバードはお供と精鋭部隊を連れ、予定通り戦地へ引き返した。


「エマよ。精鋭部隊がいれば今からでも巻き返せるぞ!!!」

「はい。先ほどまで戦況は五分五分でしたので、急げばまだ間に合うかと」


「それにしても本当に貸してもらえるとは思わなかったなァ」

「はい。王が心優しき御方で良かったです」

(私にも挽回のチャンスが回ってきましたね!)



王は謁見の間で呟いた。

「黒豹よ」

「ここに」

「今から王都を脱出する。案内しろ」

「「「「「はっ」」」」」


「貴様らも付いてこい」

「承知致しました」

「「「「「了解」」」」」


王は宰相と近衛騎士団を連れ、黒豹の案内のもと、王族専用の地下通路へ姿を消した。


宰相マルコスは問う。

「陛下。お言葉ですが、身内の方々は連れて行かれなくてもよろしいので?」

「奴等はあえて置いていく。時間稼ぎくらいにはなるだろう」

「な、なるほど。素晴らしき名案、感服致しました」


王は自身の妻である王妃だけでなく、愛すべき子供である王子、王女等をなんの迷いもなく無慈悲に切り捨てた。

ギルバードに精鋭部隊を貸し与えたのも、実は時間稼ぎをさせるためである。


王は言った。

「余が生き延びれば、いつか王国を立て直せる。余は天才だからな。きっと数年後には再びあの玉座に座っていることだろう」


もし彼が天才であったならば、そもそもこの状況に陥っていないのだが、誰もその言葉に口を出さなかった。



ついにヴィクター達は王国軍の壁を突破することに成功した。

しかしまだ戦いが終わったわけではないので、総大将は一万だけを引き連れ王城を目指す。


「ルーク君。王城までの道案内を頼めるかな?」

「任せてくれ。こっちだ」


過去の賢人達の手により、正門から王城までのルートはかなり複雑になるよう造られた。

もちろん反乱軍側も王都内の情報を掴んでいたが、元王子がいるのであれば、そちらを頼った方が効率的である。


王都に住まう人々は皆家に引きこもり、外を走る反乱軍を窓から不安そうに見つめていた。

「お母さん、あれって敵?」

「そんなに顔を出しちゃダメよ!目をつけられちゃうでしょ!?」

「ご、ごめんなさい……」


数十分後。

「あそこの道を曲がれば、後は真っ直ぐ進むだけだ」

「了解だよ」


ヴィクター達は最後の道に入った。

数多の騎馬が地を駆ける振動で、民家がガタガタと揺れる。


すると、道の先にある城門から二百〜三百程度の魔法士部隊が出てきた。


「ヴィクター」

「うん」


「前方から新手が現れたよ!スピードを緩めて!!!」

「「「「「はっ」」」」」


ルークは目を細め、彼等を凝視した。

「……」

「どうしたの、ルーク?」

「いや、見覚えのある顔が混ざっていたものでな。少し驚いた」


新手の中には、ギルバードとエマの姿が。




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