第16話:最上級魔法

 反乱軍総大将であるヴィクターが声を張り上げた。

「突撃!!!!!」


ついに最終決戦の火蓋が切られた。

まずは歩兵が突撃する。

しかし防壁上には王国の魔法士部隊がいる。

「撃てぇ!!!一歩も壁に近づかせるなぁ!!!」


魔法が雨の如く降り注ぎ、歩兵達に被弾した。

「避けろ!」

「足を止めるな!」

「ぐはっ」


反乱軍側は初動で数百人削られてしまったが、これは想定内なので問題はない。


歩兵達が防壁の真下まで辿り着いたところで、ヴィクターは再び合図を出した。

バリスタの様な魔導兵器から巨大な矢が放たれ、防壁の向こう側まで飛んで行く。

矢の後ろには縄が付いており、防壁にだらりと垂れ掛かった。


「早く縄を切断しろ!!!」

「くっ。なんだこの縄は……」

「全く切れぬ!」


ヴィクターはニヤリと笑った。

「その縄は鋼鉄蜘蛛の糸を練り込んだ特別製だからね」


その隙に歩兵たちは次々と登っていく。


「諦めて迎撃に移るぞ」

「「「「はっ」」」」

魔法士部隊は縄を登る敵兵達に狙いを定め、魔法を飛ばす。


「ぎゃあああ!!!」

「怯むな!登り続けろ!」

この距離から落下すればタダではすまない。

両軍の泥臭い戦いが始まった。



開戦から約一時間が経過し、両軍ともに疲労が見え始めた。

「オーロラ君。そろそろお願いしても良いかな?」

「は~い」


オーロラは杖を構え、瞳を閉じる。

するとエルフ特有の膨大な魔力が全身から溢れ出し、水色の長髪が逆立った。

魔法を発動するのに重要なのは、魔力量・魔力操作・想像力。

彼女の場合魔力量はもちろん、魔力操作と想像力もずば抜けている。


オーロラは杖で地面をコンコンと二回叩いた。

凍星ウラノス


全長三十メートルを越す大きさの氷塊が空中に生成され、正門目掛けて放たれた。


防壁上の魔法士部隊もそれに気が付いた。

「おい、なんだよあれ!」

「もしあれが直撃したら……」


しかし彼らは何もできない。

指を咥えて見ている事しかできない。


ドォォォン!!!

巨大な氷塊は門に直撃し、跡形も無く吹き飛ばした。


ヴィクターは思わず生唾を呑む。

(これがエルフの最上級魔法か……。とんでもない夫婦だよ、まったく)


「今だ!全軍突撃!!!」

(要塞都市ではまんまとやられたけど、今度はこちらの番だよ、グレイス王国)


ルークとオーロラも彼の後ろに付き従い、王都の中へと向かった。


王都の中では王国騎士団が待ち構えていたものの、門を突き破った氷塊が直撃してしまった。


騎士団を立て直すまでの間に反乱軍の騎兵が雪崩れ込んできたため、門の付近は混戦となった。

騎士団は焦ってしまい、上手く連携が取れず、各々勝手に戦い始めた。


「ランスロットを要塞都市に左遷するから、肝心な時にこうなるんだよ。バカ王国が」

「いくら王国騎士団といえど、ピンチに陥った時に統率を取れる人がいないと、すぐに崩れちゃうのね。なんか自分で自分の首を絞めてるみたい」


とは言え王国軍は四万人以上いるので、すんなりと通してくれるわけではない。


防壁上からも戦闘音が聞こえた。

(歩兵達もやっと壁に登ったか。こりゃ時間の問題だな)


王国軍の最後尾には、一際派手な鎧に身を包んでいる元帥ギルバードの姿があった。

「クソッ、クソッ、クソォッ!!!反乱軍め!!!」

(あの氷塊は一体なんだったんだ!?いや、今それを考えている暇はない。次の策を練らなければ……)


本来はすぐに反乱軍を潰し、都市を奪還していく作戦であった。

その後バルミリアンを拠点とし、共和国に攻め入るつもりだった。

しかし戦争はそこまで甘くはなかった。

反乱軍を潰すどころか、初日に王都内への侵入を許してしまったのだ。


そもそも侵入されると思っていなかったため、ここからの作戦など練っていない。


(どうすればいい。これからどうやってあの連中を殺せばいいんだ……!)


必死に思考を巡らせるが、ギルバードは軍事になど精通していない。

ランスロットの関係で定期的に軍に顔を出していたルークと違い、第二王子は毎日女遊びにかまけていた。

そんな彼が、ここから巻き返せるような天才的な奇策を考えられるはずもなく。


エマは、頭を抱えるギルバードに問う。

「ギル様、どうなさいますか?」

「……一度王城に戻る。お前も着いてこい」

「了解致しました」


結局王都の民を見捨て、王城に立て籠もる以外の考えは思いつかなかった。

先日、王都以外の国民を見捨てたベルカンプ十七世と血は争えないのかもしれない。


またギルバードの後ろを追うエマの表情は死んでいた。

彼女はわざわざルークを裏切り、純潔を売ってまで鞍替えしたのだ。

当時実は、王位に最も近いであろうギルバードの王妃ポジションを狙っていた。

しかし現実はどうであろうか。

まだ二ヶ月しか経過していないのにもかかわらず、その身は危ぶまれている。


あの日、己が裏切り蔑んだルークの綺麗な横顔が、不意に頭に思い浮かんだ。

(私は間違っていたのでしょうか……)





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