第15話:元帥任命
北軍は銀龍騎士団の奇襲を退けた後、直ちに要塞都市バルミリアンを制圧した。
「一般市民には絶対手を出しちゃダメだからね」
「「「「「はっ」」」」」
一息置いた時、一人の騎士が侯爵家騎士団長の亡骸を運んできた。
「ヴィクター様。ご指示通り団長の亡骸を回収しました」
「ありがとう。そして彼を母国に送り届ける任務を君に与える」
「了解致しました。必ず送り届けます」
ヴィクターは団長の頭をそっと撫でた後、踵を返した。
「さぁ、早速次の都市へ向かおうか。何度も言うけど、今回は時間勝負だからね」
「「「「「了解」」」」」
オーロラは首を傾ける。
「これだけしか兵を残さないの?大丈夫なのかしら」
「恐らくすぐに第二軍がやってきて、ここを固める寸法なんだろう」
「ここを拠点にするってわけね」
「たぶんな」
要塞都市バルミリアンを王国攻めの拠点にできれば、もし今回失敗しても、再びここを落とし返されるまでは何度でも再挑戦できるのである。
北軍は次の都市に向けて出立した。
深夜、平原に積み上げられた死体の山に魔物が群がっていた。
彼らが一心不乱に死肉を貪っていた時、不意に山が崩れ落ちた。
驚いた魔物達は蜘蛛の子を散らすように逃げる。
そして一人の男が立ち上がった。
「……生きている?」
男は星空を見上げる。
「殿下、貴方様は……」
その影は平原からふらりと姿を消した。
翌日の昼、北軍は再び都市攻めを始めた。
「二時間以内で落とすよ。これが終われば休憩を取るから頑張ってね」
「なかなかスパルタだな」
「これくらいの気概でやらないと、王国は崩せないからね」
ヴィクター率いる北軍は、その調子で次々と都市を制圧していった。
反乱軍が国境を超えてから約一週間後。
バルミリアンの早馬がようやく王都に到着した。
王城、謁見の間にて。
「陛下、ご報告があります!!!」
「簡潔に説明しろ」
「はっ。一週間ほど前、三カ国連合軍が王国に侵攻してきたとの情報が入りました」
ベルカンプ十七世は思考停止した。
「…………は?」
王の横に立っている宰相マルコスが咳払いをした。
「コホン。資料をこちらに寄越しなさい。私の口から陛下にお伝えします」
「りょ、了解致しました」
宰相は軽く目を通す。
徐々に汗が滲んでいく。
「説明しろ」
「はい。今から約一週間前、共和国が公国・帝国と結託して反乱軍を起こし、国境を超えてすぐに要塞都市と交戦を開始したとの事です」
「バルミリアンは落ちたのか?それとも持ち堪えているのか?」
「……わかりません。ですがあの都市には王国騎士団長がいるので、数日は持ち堪えてくれるはずです」
「万が一落ちている場合、現在反乱軍はどのあたりまで侵攻している?」
「……それも不明です」
「何もわかっていないではないか!!!この無能共が!!!」
「も、申し訳ございません」
「そもそもなぜ、敵軍が国境を超えるまで誰も気がつかなかったのだ?」
王の言う通り、今までであれば王国が派遣している間者が事前にそれを察知し、情報を直ちに王城へ届けていたはずなのだ。
「元々グレイスの諜報活動を一手に担っていたのは第三王子派閥の者達でして。この件について第一王子様と相談した結果、彼らは信用に値しないという結論に至りました。そのため一度諜報員を引き上げさせ、ちょうど第一王子派閥の者達を派遣していたところなのです」
「要するに前者が引き上げてから、後者が現地に到着するまでのラグを狙われたわけか?」
「……はい」
「くそっ。どいつもこいつも、余を舐めているとしか思えん……!」
王は立ち上がり、剣を抜いた。
そのまま報告へ来た文官へ近づく。
「お、王陛下。お待ちを……」
(なんで俺なんだよ!ミスをしたのは宰相と第一王子だろうが!)
そして無慈悲に斬り裂いた。
「ぎゃあああ!!!!!」
何度も何度も、何度も何度も何度も剣を振り、文官の死体を刻み続けた。
「おい、そこのお前。このゴミを掃除しろ」
「は、はい」
衛兵は冷や汗を垂らしながら肉塊を運んだ。
マルコスは震える。
(もし宰相という立場でなければ、私もああなっていたのかもしれませんね……)
その後、王国の西側と東側からも早馬が到着し、王城内はさらに騒がしくなった。
また王は一月前のように、王族と貴族を謁見の間に集めた。
「皆集まったようだな」
戦争中にも関わらず貴族の数があまり減っていないのには理由がある。
王国には、王都に必ず貴族家の当主又はその親族が一人は滞在していなければならないという決まりがあるからだ。
まず宰相が諸々を説明した。
この中には現在進行形で自領が襲われている貴族達もいるので、謁見の間は大騒ぎになった。
「は、早く帰らなければ!」
「自領にはまだ夫と子供達が」
「私も両親が……」
「まだ間に合うか!?」
「静まれ」
王の一言により、場はシーンと静まり返った。
「今から王国全土を立て直すのは非常に困難。そのため、王都に全軍を集め、長期防衛戦に入ることに決めた」
「「「「「!?!?!?」」」」」
「徐々に押し返していけば、数年後には全土を取り返せるだろう」
「「「「「…………」」」」」
一人の貴族が恐る恐る王に問う。
「そ、それは王都以外の国民を、一度見捨てるということでしょうか……?」
「そういうことだ。ま、潔く白旗をあげろと民に伝えておけ。命までは取られんだろう。我々が都市を取り戻すまでの、少しの辛抱だ」
「私は反対です!」
「そうか、じゃあ死ね。無能はいらん」
王が合図を出すと、すぐに衛兵が動き出し、その貴族を串刺しにした。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
「ああなりたくなければ、全員指示通りに動け。よいな?」
全員暗い表情で頷いた。
「最後にもう一つ。今この場で、第二王子ギルバードを王都防衛戦の元帥に任命する。直ちに敵軍を押し返し、王国……いや、共和国の地まで奪ってこい」
「謹んでお受け致します」
ギルバードは片膝を突き、頭を垂れた。
ニヤニヤと卑しい笑を浮かべているが、下を向いているので気付かれはしない。
もちろん第一王子と第一王女は納得していない様子だが、王は特に言及しなかった。
第一王子に関しては諜報員の下りで信頼を失い、第一王女は中級スキル所持者なので元帥としては物足りない。
要するに消去法である。
その時、誰かが呟いた。
「やはりルーク元王子を追放しない方が良かったんじゃ……」
またこの場にいる全員が、一月前にここで行われたやり取りを思い出した。
『私がここを去れば、グレイス王国は早いうちに崩壊します。それでも出て行けとおっしゃいますか?』
王の顔がみるみる赤くなっていき、ついに怒りを大爆発させた。
「今の発言をしたゴミ屑は一体誰だ!!!今すぐ出てこい!!!この剣で斬り刻み、家畜の餌にしてくれるわ!!!」
「へ、陛下!お鎮まり下さい!」
「ええい!うるさい!」
結局発言者は最後まで見つからず、集会は殺伐とした雰囲気のまま終わった。
解散後、ギルバードは上機嫌で自分の部屋に戻った。
「はっはっはっは!!!ついに俺の時代がやってきたようだなァ」
(この戦いに勝てば、俺は晴れて皇太子になれる。王位を継ぐのも時間の問題だァ!)
「なぁ、エマ?」
「ふふふ。私もそう思います、ギル様」
それから約二週間後、北軍・西軍・東軍は王都の手前まで到達し、陣を敷いていた。
実は途中から、王の指示により全ての都市が白旗を上げるという、良い意味で予測不能な事態に見舞われたので、ここまでスムーズに来れたのである。
オーロラはルークの肩に顎を乗せた。
「ほんと、アンタの言う通りになったわね」
要塞都市よりも高く聳える防壁には大量の兵士が乗っており、こちらを見下ろしていた。
「ざっと見る限り、防壁上に二万人はいるけど、王国を知り尽くした元王子様はどう思う?」
「周辺から集めたのであれば、最低でも六万人はいるはずだ。だから壁の向こう側にはプラスで四万人はいるだろうな」
「ふ〜ん」
「よく兵士たちが指示に従ったわね。自分の故郷を見捨てたわけでしょ?」
「性悪クソジジイの事だ。どうせ見せしめでもしたんだろう」
「なるほどね」
なんて話していると、ちょうど幹部会議を終えたヴィクターが歩いてきた。
「今回の鍵になるのはオーロラ君だからね。よろしく頼むよ?」
「任せて下さい」
「あまりうちの嫁をこき使わないで貰えるか?こう見えて病み明けなんだよ」
「ごめんね。その分報酬弾むからさ〜」
「ね?ルーク
「……やっぱ気づいてたか」
「うん。さすがにね」
ヴィクターは頬を掻きながら苦笑いをした。
「あまり人には言うなよ?」
「命の恩人であるルーク君の個人情報を言いふらすわけないでしょ〜」
「ならいい」
「じゃあそろそろ行くね〜」
ヴィクターは大将の天幕へ向かった。
「なぜか信用できるのよね、シュヴァルツ侯爵様」
「わかる。なんでだろうな」
「……」
「……」スリスリ
「どさくさに紛れてお尻撫でるのやめてくれないかしら?」
「無理」スリスリ
「やめなさい、このエロガキ」
ゴツン。
開戦前にたんこぶができたルークであった。
Ψ(*¯ч¯*)モグモグ
「ふむ!共和国料理も中々美味ですねぇ!」
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