第14話:かつての友と
ルークとランスロットの奏でる凄まじい剣戟音が平原に響き渡る。
先ほどまで殺し合いをしていた両軍の兵士達は無意識に手を止め、異次元の戦いに目を奪われていた。
同じ人間として、又同じ戦士として"この戦いだけは見逃してはならない"と本能で察したのだ。
「団長と互角にやり合うとは」
「なんという技量。なんという覇気」
「ルーク様がこれほどの武を持ち合わせているとは」
「いや、それよりも……なぜルーク元王子がランスロット様を止められるんだ?」
「最下級スキルを授かったはずでは?」
ランスロットは十四歳の時に〈身体能力超向上〉という最上級スキルを習得した。
王都の剣術学院を主席で卒業した後、ひたすら技術を磨き、研鑽に励んだ。
当時は彼を鼻で笑った者も多い。
なぜなら王国には昔から、魔法使いを優遇しがちな文化が根付いているからだ。
いくら最上級スキルとはいえ、超常的かつ神聖な魔法スキルには敵わないと思われていたのである。
多大なる功績を積み上げ、歴史上最速で王国騎士団長まで上り詰めたものの、王都に拠点を置く王国魔法士団長と違い、僻地である要塞都市に長年身を置いているのは上記の文化が関係していたりする。
だがそんな彼の事を決して笑わず、学院在籍時からその努力を認め、ずっと側で見守っていた人物が一人だけ存在した。
『よぉ、ランスロット。今日もやってるな〜』
『殿下……。私などに構っていれば、また陰口を叩かれてしまいますよ』
『そんなカス共放っておけ。それよりも俺に剣を教えてくれよ。いい剣を手に入れたんだ』
『その黒刀はまさか……破狼牙ですか!?』
『おう。闇市のオークションで手に入れた』
ルークは彼がバルミリアンに飛ばされてからも定期的に通い続け、共に訓練を行っていた。
銀龍騎士団による奇襲作戦を二人で考えたのも、この時である。
「殿下、お強くなられましたね!!!」
「お前達が訓練に付き合ってくれたおかげでな」
「ですが私は決して負けませんよ。団長として王国の未来を背負っているのでね!」
ランスロットは身体能力を上昇させ、ルークを吹き飛ばした。
「くっ……!」
ルークは数メートル後方に飛ばされたものの、上手く受け身を取り、瞬時に体勢を立て直した。
「相変わらず化け物じみてるな」
「腐っても最上級スキルですから」
「最下級スキルも中々いいもんだぞ?」
「殿下がそう仰るという事は、本当なのでしょうね」
「ああ。今見せてやる」
(ランスロットが実直に積み上げてきた最高峰の剣術。これは並大抵の事では崩せない。その上スキルまで剣士向けときた。だからと言って負けと決まったわけではない)
今回のルークの一番の強みはスキルでも技術でもない。
それは"ランスロットの剣を知っている事"である。
(殿下が纏う雰囲気が変わりましたね。ここからが本番というわけですか)
ランスロットも身体能力を限界まで向上させた。
ルークは距離を詰める。
独特なステップを踏みながら、隙を見て攻撃を仕掛けていく。
ランスロットの剣を言葉で表すのなら、鉄壁。
ただただ鉄壁。重く、堅く、強く。
それはまるで要塞都市バルミリアンのように。
対し、ルークの剣は自由。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。
鋭く攻撃を放つこともあれば、攻撃を受け流し、カウンターを放つこともある。
まるで美しい剣舞を披露しているよう。
今はまだランスロットが優勢。
ルークの傷が増していくばかり。
血と汗が舞い、目が霞む。
痛みで集中力が分散する。
でもなぜか顔は笑っていた。
ルークはバトルジャンキーなのかもしれない。
「ランスロットォォォ!!!」
「殿下ァァァ!!!」
死線の中でルークは徐々に加速していく。
(速度と攻撃力は比例する)
ランスロットは超人的な反応速度と奇跡的な勘を駆使し、ルークの猛攻を防ぎ続ける。
「何も見えねえ」
「一体なにが起こっているんだ」
「これが最下級スキル……?」
ランスロットは顔を歪ませた。
(殿下の斬撃が少しずつ重くなっていきます……。早く決着をつけなければ)
ルークは前傾姿勢になり、急接近した。
(昔から、お前は焦ると足元が疎かになる!)
「!?」
鉄壁の護りに穴が空き、ついにバランスを崩した。
しかし、ランスロットは焦らない。
「貴方ならそう来ると思ってましたよ!!!」
王国最強の騎士は、己の弱点くらい十分理解しているのだ。
身体を強引に捻り、ルークに全力の斬撃を放った。
だが……。
「残像だ」
「!?!?!?」
自分の足元にいたはずのルークは、いつのまにか頭上を跳んでいた。
そしてルークは落下しながらガラ空きになった胸を斬り裂く。
破狼牙からすれば、鎧など薄紙も同然。
「かはっ」
ランスロットは大量の血を吐き、倒れ込んだ。
「「「「「ランスロット様!!!」」」」」
ここで銀龍騎士団が動き出した。
「団長を救出しろ!!!」
「今ならまだ間に合う!」
「ルーク様を殺せぇ!」
騎兵がルークに殺到した瞬間、天から氷剣が降り注いだ。
「一体なんなんだ、これは……」
「剣では防ぎ切れん!」
「ちょっと待、グハッ」
氷は次々と敵に刺さり、人と馬の死体が山のように積もっていく。
(ナイスだ、オーロラ)
ルークはタイミングを見計らい、人混みの中へ、朧と姿を消した。
そして、戦場は死屍累々たる有様になった。
ヴィクターは声を上げる。
「ここでウダウダしている暇はない!!!今のうちに要塞を制圧しに行くよ!!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
反乱軍は即座に残党を始末し、バルミリアンへ向かった。
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