第12話:王国騎士団長

 幹部専用馬車の扉が開き、一人の騎士が顔を出した。

「皆様。そろそろ到着致しますので、御準備を」


軍の幹部等が準備を整え始めたので、ルークとオーロラも武器の手入れを始める。

「ねぇルーク。そういえば、その黒い剣って名前とかあるの?」

「この剣の名は破狼牙ハロウガ。東方の島国で造られた“刀”という種類の剣だ。詳しくは知らんが、最上大業物のうちの一振りらしい」

「へぇ~。なんかすごいのね」


遥か昔。バルク大陸に一頭の黒狼が現れた。

黒狼は大陸全土で暴れ回り、人々を恐怖に陥れた。

普段いがみ合っていた国々もこの時ばかりは結託し、一丸となって討伐に動いた。

その結果、多大な被害を出しながらも討つことに成功。

後に黒狼は破壊の限りを尽くした事から、畏怖を込めて“破狼”と呼ばれるようになった。


ルークの愛刀は、当時最高峰の鍛刀技術を持っていた刀鍛冶が破狼の牙と希少鉱石を用いて打った最上大業物である。


北軍は要塞都市バルミリアンに到着した。

すでにルークとオーロラは軍馬に跨り、大将ヴィクターの側で要塞を眺めている。


「何回見ても大きいわねぇ~」

「圧巻だよな」

(まぁ俺が定期的に改造してたからな)


ヴィクターはニコニコ微笑みながら、二人に声を掛けた。

「過去に何度も敵軍を退けた無敵の要塞バルミリアン。今日はその歴史に終止符を打つ。王国攻略は時間勝負だからね。君たちも頼むよ」

「「了解(です)」」


しかしその瞳は一切笑っていなかった。


バルミリアンは上から見ると正方形なので、歩兵を四千ずつ送り、それぞれの面から攻撃を仕掛ける。

「シュヴァルツ閣下。準備が整いました。いつでも始められます」

「ご苦労」


北軍大将ヴィクター・シュヴァルツは騎乗したまま軍の前に躍り出る。

「我等の大将だ」

「侯爵閣下」

「ヴィクター様」


今まで騒がしかった兵士達は口を閉じた。

場はシーンと静まり返る。

皆開戦の合図を今か今かと待っている。


ヴィクターは巨大要塞を指さし、言った。

「攻撃開始」


決して大きい声では無かったが、自然と軍全体に響き渡った。

「「「「「ウォォォォォ!!!」」」」」


ようやく戦いの幕が切って落とされた。

まずは歩兵が突撃し、防御壁にロープをかける。


バルミリアン兵はそれを黙って見ているはずがない。

防御壁の上から矢や魔法を放ち、迎撃を試みる。

「撃ち落とせぇ!!!」

「不意打ちしかできない卑怯者共が!」

「よく見れば属国の連中もいるじゃねぇか!裏切りやがって!」


一方、反乱軍側で最も士気が高いのは共和国兵である。

「うるせぇ!俺達から散々搾り取ったのはお前らだろうが!」

「こっちには公国と帝国が付いてんだよ!」

「さっさと降伏しろ、王国の犬め!」



開戦から約一時間経過したが、まだ誰も防御壁の上に辿り着いてはいなかった。

ヴィクターは顎を摩りながら呟く。

「うーん。中々崩せないね〜。やはり一筋縄ではいかないか……」


遠くから見ると分かりにくいが、バルミリアンの壁は相当高い。

なぜならルークが何度も改装工事を繰り返し、地面から魔法と矢が届かないギリギリの距離まで上げたからである。


オーロラは昨日話を聞いたので、その事実を知っている。

「半分アンタのせいでしょ」

「言うな。バレたら気まずくなる。今は反乱軍の兵士達に頑張ってもらおう」

「サイテーね」



二人が夫婦漫才をしている頃、王国騎士団長ランスロットは巨大要塞の上から戦況を眺めていた。

「ふむ……あの男が北軍大将ですか」


(直下騎士団の中に異様な雰囲気を纏った者が二人いますねぇ。二人共フードを被っているので顔はわかりませんが、かなりの猛者でしょう)


「ランスロット様。本当に"あの作戦"を決行するのですか?」

「はい。もう少しで私も向かいます」

「了解いたしました」


バルミリアンの戦力は歩兵四千、騎兵一千の合計五千。

ランスロットはそれぞれ四つの壁上に歩兵を千人ずつ配置し、騎兵を全て北門に集めていた。


数十分後、反乱軍の歩兵たちは疲労困憊し、壁の下で動けなくなっていた。


(そろそろ反乱軍の勢いが落ちてきましたね)

ランスロットはタイミングを見計らい、急ぎ足で北門へ向かう。


「皆さん、お待たせしました」


騎兵達は頭を下げた。

王国騎士団長が率いる彼等の名は“銀龍騎士団”。

王国全土から集めた選りすぐりの騎士だけで構成された、龍の名に恥じない騎士団である。


「敵大将を護る騎兵は四千。私達の四倍の戦力です」

「「「「「……」」」」」


銀龍騎士団の騎兵達はゴクリと生唾を呑んだ。

いくらエリートとは言え、その状況を知らされれば、嫌でも腰が重くなってしまう。


「でも大丈夫です。敵は連合国軍なので、大将を失えば統率がとれなくなり、一瞬で崩壊します。共に戦っているのは所詮他国の人間ですから」


騎兵達は『確かにその通りです』と言わんばかりに無言で頷いた。


「そして皆さんには、この私が付いています。王国騎士団長のランスロットが」


「そうだ。我らにはランスロット様が付いている」

「大陸最強の騎士様が共に戦ってくれるんだ」

「負けるはずがない」


騎士団全体のボルテージがジリジリと上がっていく。


「王国の命運は我等にかかっています」

「「「「「「……」」」」」」


「私が先頭で道を切り開きます。死ぬ気で付いてきなさい」

と言い、ランスロットは銀色のマントをはためかせた。


「「「「「「はっ!!!」」」」」」


北門がゆっくりと開いた。

「突撃!!!」

「「「「「ウォォォォ!!!!!」」」」」


銀龍騎士団の士気が大爆発した。



ヴィクターは目を丸くし、思考を停止させた。

「……は?」


そうなるのも無理はない。

護っている側が自ら門を開き、捨て身特攻を仕掛けてくるなんて誰が予想できようか。

一体誰がこんな奇策を考えられようか。

北軍は最も油断している隙を突かれてしまったのである。


ヴィクターはすぐに冷静を取り戻した。

(敵の数は千。陣は魚鱗)


「急いで陣形を整えて!こちらも魚鱗で迎え撃つ!」

四千の騎兵達は帝国軍を中心に銀龍騎士団と同じ陣形を取った。


急な出来事に皆が焦っている中、ルークとオーロラは平然を保っていた。


(やはりこのタイミングで来るか、ランスロット。それとヴィクターは流石だな)

(ルークの言っていた通りね。ここまで予想を的中させるなんて、ちょっとキモいわ)


一般的に、数に圧倒的な差がある場合は、鶴翼の陣などで両サイドから潰そうとする将が多い。

だがヴィクターはあれが“普通の騎士団ではない”と考え、多少の犠牲覚悟で、同じ陣形を取った訳である。


(その読みは正しい)


双方凄まじいスピードで平原を駆け抜け、距離を縮めていく。


反乱軍の先頭を務めるはシュヴァルツ侯爵家騎士団長。

対し、銀龍騎士団の先頭を務めるはグレイス王国騎士団長。


ガキィィィン‼︎‼︎


両者の剣が交差した。

勝者は……。


ランスロットは相手の剣を軽々と弾き、首を刎ねる。

「その程度の力で私を止めようなど、百年早い」


そのまま両軍が衝突し、血しぶきが舞った。


ルークはニヤリと笑う。

(たかが侯爵家の騎士団長如きに、我が友ランスロットは止められんよ)







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