第7話:最上級と最下級

その翌朝。

二人は宿で朝食をとり、早速次の街へと向かうことした。

今回は馬車に乗らず、徒歩で移動している。


理由は多々あるが一つ挙げるのであれば“馬車ではスキルの話ができない”からである。

この世界において、スキルは最も重要な個人情報と言っても過言ではないので、他の客や御者に聞かれることだけは避けたい。


オーロラに関してはまだスキルがバレるだけで済むのだが、ルークに関しては“元王子”という部分まで透けてしまう。

グレイス王国の元第三王子が、世にも珍しい最下級スキルを習得したという話は、商人や冒険者達を経由して様々な地域で酒の肴にされているのである。


「とりあえず北東へ進んでいるわけだけど、この後はどうする?」

「アイン公国を抜けてリンガード帝国まで行ってみよう。あそこは軍事力と魔法技術が五強の中でも頭一つ抜けているからな。面白いモノが見られるかもしれない」

「楽しそうだし賛成~」


「帝国までどのくらい掛かると思う?」

「エルレイズ共和国とアイン公国の間には対帝国戦線が張られているから、若干遠回りをしなければならない。馬車で最短二ヵ月ほどと言われているが……」

「観光やら冒険者登録やらを考慮すれば、大体三ヶ月ってところかしらね」

「だな」


二人の道順はグレイス王国→エルレイズ共和国→アイン公国→リンガード帝国に決定した。


エルレイズ共和国は王国の属国であり、アイン公国は帝国の属国である。

そのため二国の国境には戦線が張られており、今現在も共和国軍と公国軍が睨み合っている。


二人は森の街道を抜け、大きな草原に出た。

草原には木が一本も生えておらず、数キロ先まで見渡すことができる。

「あ、魔物がいるわ。黒い牛さん」

「あれはDランクのレイズバッファローだな。エルレイズの固有種だ」

「へぇ~。随分詳しいのね」

「俺の愛読書は“バルク大陸魔物名鑑”だからな」


レイズバッファロー達は街道の傍で草をムシャムシャ食べているが、彼らは温厚なため、近くを通過しても特に襲ってきたりはしない。


「近くで見ると結構大きいわね」

「ああ。腐ってもDランクだからな。戦闘モードに入ればオークと同等の危険度を誇る。また子育ての時期は攻撃的になるから、あまり近づかないことをお勧めする。今は大丈夫だが」


「アンタ急に饒舌になって、ちょっとキモいわね」

「褒めるなよ」

「褒めてないわよ!!!」


草原の先には次の街がある。

到着までの間、互いのスキルについて話し合う事にした。


「じゃあまずは俺のスキルから説明しよう」

「どんなスキルでも驚かないわよ」

「最下級スキル〈アクセル〉だ」

「えっ」


オーロラは一瞬思考停止した。


「さ、最下級って、あの最下級?」

「ああ。その最下級だ」

ルークは親指を立て、口角を上げる。


(なんでノリノリなのよ……)


「ふ~ん。で、効果は?」

「まだわからん。動きが加速するのか、思考が加速するのか、それとも別の何かが加速するのか。スキル名称が大雑把過ぎて、全く検討がつかない」


(そもそも本当に『加速』なのかすらわからない)


「でも一人で盗賊を退治できる戦闘力があれば別に困らないわよね。良いスキルを持っていても、同じ事ができない人は山ほどいるんだし」

「そう言ってもらえると助かる」


特に馬鹿にすることもなく、オーロラは事実を受け入れた。


「じゃあ次はアタシね」

「おう」

「最上級スキル〈氷魔法〉よ」

「……は?」


ルークは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。


「もう一回頼む」

「最上級スキルの〈氷魔法〉」

「マジ?」

「大マジよ」


「いろいろな疑問は残るが、今は使えるのか?」

「もちろん使えるわよ。十数年ぶりだから、杖がないと上手く発動しないけど」


「ほら」

と言い、オーロラは手のひら上に大きな氷を生成した。


「おお、凄いな。十数年ぶりという事は、両手が無い状態では発動できないのか?」

「ええ。魔法使いは全員そうよ」

「そうなのか。全然知らなかった」


先ほどルークの言った通り、最上級スキル所持者でありながら、なぜ両親に売られてしまったのか、なぜ貴族が手放したのか、なぜ彼女は秘密にしていたのか、などの疑問は残るが、それは一旦置いておき。


最下級スキル所持者の“元王子”と、最上級スキル所持者の“元奴隷”という凸凹コンビがここに爆誕したのであった。


ルークはマジックバッグから一本の杖を取り出し、オーロラに渡した。

「ほい。これ」

「これなに?」

「王城の宝物庫からくすねてきた魔法杖だ」

「へぇ~。貰っていいの?」


「もちろん」

「ありがと」


実はこの杖は結構凄い代物なのだが、二人がそれを知るのはかなり先のお話。


「ていうか今、しれっと“宝物庫からくすねてきた”って言わなかった?」

「言ったが」

「さすがに王子でも宝物庫には入れないと思うんだけど」

「見張りの騎士を薬で眠らせて普通に侵入した」


「バレたら処刑モノじゃないの。あと『普通に』の使い方間違ってるわよ」

オーロラは呆れた。


「眠るついでに前後の記憶を消失させる薬だから大丈夫だ」

「なるほど。それでは王に申告できないわね」

「その通り」


無理に申告すれば、“見張り中に居眠りをし、宝を盗まれた”という重い罰則を与えられる可能性があるので、見張り役にとっては無かったことにするのが一番効率的なのである。


ルークはその際に様々な装備やポーションを盗んできたのだが、宝物庫というのは王でさえ一年に一度入るか入らないかという場所。

そのため、ルークとオーロラ以外にこの事実を知っているものは未だ存在しない。


ちなみにオーロラも腰に彼女専用のマジックバッグを下げており、大事なアイテムはそこに入れて移動している。


「なんかありがと。いろいろと恵んでくれて」

「気にしなくていいぞ。もうオーロラは俺の嫁だからな」

「……忘れてたわ」

「おい」


「という冗談はさておき、そろそろスキルの実験でもしてみない?」

「賛成だ。ここは広いからな。多少暴れ回っても問題は無い」


二人は草原の端に移動した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る