第4話:ルークの実力

 ルークが奴隷商の馬車に乗り込み、約三週間が経過した。

途中でいくつかの都市に寄ったのだが、彼が潜んでいることはバレなかった。

街道沿いで馬を休憩させる時だけは外に出て、剣の素振りをした。

あと隣の女奴隷と少し仲良くなり、今では普通に話すようになった。


王都バルスタッドからエルレイズ共和国までは、馬車で一ヵ月程度の距離だと言われているので、あと一週間の辛抱である。


馬車が大きな森の中を走っていた時、急停止した。

同乗している奴隷たちも困惑している。


ルークは扉から顔を出し、商人の様子を窺った。

額から汗を流し固まっている。


「何かあったのか?」

と問いかけると、商人はゆっくりと前方を指さした。


馬車の少し先には全身武装をした男達が立っている。

「盗賊か。俺が出よう」


ルークは躊躇なく馬車から飛び降りた。

腰に差してある黒い長剣を抜き、馬の前に躍り出る。

(剣士六人、武闘家三人、魔法使い一人の計十人か。馬車を囲まれる前にこちらから仕掛けた方が良さそうだな)


商人は口を開いた。

「一人で……大丈夫なのか……?」

「ああ」


盗賊達は厭らしく口角を上げ、ルークを煽る。

「おいおい。一人で何ができるってんだ?」

「勇敢な戦士様だなぁ!」

「へっへっへ」


無精髭を生やしたリーダーらしき男が簡潔に命令を下した。

「やれ」


それが開戦の合図になった。


ルークは前傾姿勢になり、地を蹴った。

風よりも速く距離を詰める。


「なっ。コイツ速」

言葉が終わる前に首を飛ばす。


「まずは一人」


近くにいた二人が剣を振り下ろした。

ルークは片方を避け、もう片方は剣で弾く。

「くそっ」

「なんちゅう力だ!」


そのまま一回転しながら、美しい太刀筋で横一閃。

二人は腹部から血を吹き出し、バタリと倒れた。


剣を豪快に振り、刃に付着した血を払う。

「あと七人か」


盗賊達は開始早々三人落とされたことに焦っていた。

先ほど見せた余裕はもう無い。


リーダーは再び声を上げる。

「近距離組全員で袋叩きにしろ!!!」


五人はルークを取り囲み、一斉に襲い掛かった。

斬撃と拳が雨のように降り注ぐが、ルークには一切当たらない。

「なんで当たらねぇんだ!?」

「コイツ、背中に目でもついてんのかよ!」


リーダーは怒号を飛ばした。

「何遊んでんだ!さっさとそいつを殺せ!」


ルークは丁寧に一人ずつ仕留めていく。

「ちょっとま」

「グハッ」

「や、やめ」


その時、血で足を滑らせてしまった。

「……!」


「今だ!」

「殺せッ!」

剣と拳が接近する。


武闘家が放つ拳を咄嗟に受け止め、剣士に投げつけた。

武闘家は大胆に斬り裂かれる。

「え?」


ルークは困惑する剣士を武闘家ごと串刺しにする。

「「ギャァァァ!!!」」


残ったのはリーダーと魔法使いの二名。


死体から剣を引き抜き、横目で二人を睨んだ。

二人はまるで怪物に睨まれたような錯覚に陥る。

「「ひッ」」


魔法使いは震える手で杖を持ち、なんとか魔法を放った。

大きな火球が迫る。

(火魔法か)


だがルークは避ける素振りを見せない。

それどころか魔法に向かって走り始めた。

リーダーは直撃すると確信し、ニヤリと笑った。

(殺った!!!)


被弾する瞬間、ルークは外套をバサリとはためかせた。

外套は火魔法を跳ね返し、リーダーに直撃した。

全身丸焦げになり、戦闘不能に。

「バケ……モノめ……」


そして、目を丸くしている魔法使いの首を飛ばした。

「十人目」


これで馬車防衛戦の幕は閉じた。

ルークは剣の血を拭いた後、鞘に戻す。

(魔法反射の外套を持っていて良かった)


商人は開いた口が塞がらなかった。

「……」


ルークはその間に死体から金目の物だけを剥ぎ取り、馬車に帰った。

固まっている商人に声をかける。

「魔物が血の匂いに誘われ寄ってくる前に移動した方がいい」

「あ、ああ」


扉を開けて中に戻ろうとした時、商人は頭を下げ、礼を述べた。

「感謝する」

「おう」


ルークが戻った後、商人は呟いた。

「あれは本当に人間なのか?」

(一体どんなスキルを使ったんだ)


馬の尻を叩き、馬車を発進させる。

(まさか……最上級スキルか……!?)


実際、ルークは何のスキルも使っていない。

ただ剣術に関して天賦の才を持っており、幼少期から努力と研鑽を重ね続けた結果、類稀なる戦闘力を獲得しただけの元王子である。

おまけに頭も良い(あと顔も)。


以上の事から、ルークが最も王に近い存在ではないかと噂されていたのである。

そのおかげで兄弟姉妹から妬まれ、味方がエマ一人しかいなかったのだが、その彼女もギルバードに取られた訳だ。



ルークは久々の戦闘を終え、腰を下ろす。

「ふぅ……」


女奴隷が話しかけてきた。

「何かあったの?」

「変な虫が湧いたから駆除してきた」

「嘘おっしゃい。人間の悲鳴が聞こえたわ。どうせ盗賊でも出たんでしょ?」

「正解」

「ありがとね、退治してくれて」

「おう」


その時、チラリと長い耳が見えた。

(エルフだったのか)


彼女も見られたことに気が付き、咄嗟に深く俯いた。

「!?」


(ん?……エルフ?)


ルークは暫し考える。

以前、亜人奴隷は需要が高いため高額で取引されると説明したが、エルフはその中でも圧倒的な人気を誇っており、出品されれば必ず目玉商品となる。

なぜなら長寿で顔が良い上に、魔法関連のスキルを持っている事が多いからだ。

もし使い物にならないスキルを持っていたとしても、顔さえ良ければ、“そういう理由”で貴族に買われるだろう。


そのため、基本的にオークションで売れ残ることはない。

だが彼女は売れ残り、実際ここに座っている。


(彼女には悪いが……顔が良くない、傷物、難病持ちのどれかだろう。性格はめっちゃいいのにな。ツンデレだし)



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