第3話:王都脱出

ルークが王城から追放された日の翌朝。

彼は黒い外套を纏い、闇市を訪れていた。

フードを深く被り顔を隠しているので、側から見ると非常に怪しいのだが、ここはそう言った風貌の者が多いので特に問題は無い。

王都の中にさえこんな場所が存在することから、どれほど王国が腐っているのかは想像に難くない。


出店には毒物や違法薬、謎の魔物素材など様々な商品が並べてある。

ルークは“とある宝石”を発見した。

(これは……)


「店主。これを買いたい」

「あいよ。金貨三枚だ」


店主に金貨を渡し、宝石を購入した。

それを握りしめ、すぐに立ち去る。


(掘り出し物ゲットだな。これだから闇市はやめられん)


この青い宝石は“流水石”といい、その名の通り魔力を込めると水が出る不思議な宝石である。


王族や大貴族当主というのは常に危険に晒されるもの。

襲撃を受けることもあれば、飲食物に毒を盛られることもある。

以上の事から、誰でも綺麗な水を出せるこの宝石は上流階級において高値で取引されているのだ。

これは彼が“元王子”だからこそ、発見できた代物である。


ルークは物陰に移動し、流水石をマジッグバッグに入れた。

(マジッグバッグはこれ以上の超高級品だからな)


その後、ルークは闇市の最奥にある停車所に向かった。

実は本来の目的地はここなのだ。


停車所には沢山の馬車が停まっており、商人達が忙しなく積み荷を降ろしていた。

ちなみに全員が非合法商人である。


ルークは一番大きな馬車に目を付けた。

(あれは恐らく奴隷商の馬車だな)


そのまま近づき、持ち主に声を掛ける。

「すまない。ちょっといいか?」

「……なんだ?」

「ここを出た後の移動ルートを教えて欲しい」


人相の悪い商人は手のひらを返し、突き出した。

移動ルートは個人情報なので、欲しけりゃ金を寄越せということである。

ルークは金貨を一枚渡した。


「バルスタッドを出た後、いくつかの都市を通過し、エルレイズ共和国に入る」


エルレイズ共和国はグレイス王国が支配している属国のうちの一つである。


「なるほど。ではエルレイズまで馬車に乗せてくれないか?奴隷用のスペースでいい」

「いくら出せる」

「大金貨五枚。食事有りならば六枚。これでどうだ?」


商人は悩む。

「……いいだろう」

「取引成立だ。前金として大金貨を三枚渡しておく」


ルークは大金貨を渡し、馬車に乗り込んだ。

そこには売れ残ったであろう奴隷達が数人、太い鎖で繋がれ座っていた。

全員外套を纏っているので顔も性別も不明。


(想像よりも清潔だな。異臭もしなければ、変な汚れも付いていない)


そして一番手前にいる奴隷の真横に腰を下ろした。

「隣、失礼する」


奴隷は無言で頷いた。

「……」


約三時間後、馬車は正門に並んでいた。

衛兵はいつもより厳重に入出の取り調べを行っている。

(どうせあのクソジジイの命令だろうな。どんだけ俺の事が好きなんだよ。気持ちが悪い)


と悪態を付きつつ、余っている鎖をあたかも繋がっている風に持ち、カモフラージュした。


「次の馬車」


衛兵は馬車の中を確認する。

(奴隷商だったか。コイツらは売れ残った奴隷だろうな)


全員フードを深く被っているので、ルークが紛れていることに気が付かない。

また入った時に顔の確認はするので、出る際はされないことが多い。

厳重に取り調べをしていると言ったが、通常時がガバガバ過ぎるので、今回も例に漏れずスルーされた。


そもそもグレイス王国の王族は(ルーク以外)プライドが高い事で有名なので、衛兵もこんな所に“元王子”が潜んでいるとは思わないのだ。


「通ってよし」


ルークはバルスタッドからの脱出に成功した。


(闇市だの、違法商人だの、亜人奴隷だの、本来存在してはいけないモノを放置しているから、こういう事になるんだよ。馬鹿王族共が)



それから三日後。

ルークは念のため、エルレイズに入るまでは出来る限り馬車から出ないように心掛けていた。

今日もガトゴト揺られながら考え事をする。


(最下級スキル「アクセル」か。名前から推測するに、加速系統だろうな)


ルークは王子時代によく“スキル名鑑”という図鑑を読んでいたのだが、その名鑑には下級~上級スキルしか載っていなかった。

その理由として最下級又は最上級スキル所持者の絶対数が少ないことが挙げあれる。

要は情報が足りず、掲載できなかった訳だ。


以上の理由から、ルークは未だ己のスキルにピンと来ていない。

(能力を試すのはエルレイズに入った後だな)


ボーっとしながら今後の予定を立てていると、手が隣の奴隷にぶつかった。

奴隷は驚き声を上げる。

「あっ」


その声はルークの想像よりも幾分か高かった。

(女だったのか)


「すまん」

「う、うん……」


これが運命の出会いになることを、二人はまだ知らない。


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