第1話:謁見の間

 最下級スキルを習得し、見事無能のレッテルを貼られたルークは周囲に馬鹿にされながらも馬車に乗り込み、王城へ帰った。


「……」

「……」


普段おしゃべりのエマは道中ずっと俯いており、一言も発さなかった。


城に帰るや否や、同伴していた騎士達が『第三王子は最下級スキルを習得した』という噂を流し、その情報は瞬く間に広まった。


ルークは自室で落ち込む……のではなく、テキパキと旅の準備を整えていた。

(王国という狭い世界から飛び出せると思えば、そんなに悪い話じゃない)


というか一周回ってノリノリだった。


彼は小さな頃から、密かにとある夢を持っていた。

それは“冒険者になる”という夢である。


冒険者とはギルドで様々な依頼を受け、その報酬を獲得する職業である。

その依頼は主に魔物討伐や薬草採取、調査や護衛などが挙げられる。

また危険な依頼ほど報酬が高い傾向にあるので、一攫千金を狙うことができる。

まさにハイリスクハイリターンの夢の職業なのだ。


その夜、夕食が運ばれてくることは無かった。

「マジで露骨だよな。ここの連中は」

(どうせギルバードの仕業だろう。今度絶対に泣かせてやる。いや……そうするまでも無いか)


ルークがそう考えるのには明確な理由が存在する。

彼は数年前から第三王子の権力を悪用し、勝手に政治関連の重要書類を確認してきたのだ。


結果、彼の優秀な頭脳は一つの答えを導き出した。

その答えを簡単に説明すると。


(そのうちグレイス王国は滅ぶからな)


実は数年前から王国の経済は徐々に低迷し続けている。

だが民衆達は気が付かない。

なぜならグレイス王国は、その分を属国から搾取して補い、誤魔化しているからだ。

見せかけは低迷しているどころか、少しずつ伸びていることだろう。

五強ならではの力技である。


今は良いが、数年後……いや、早ければ今年には属国達が手を組み、王国に反旗を翻す可能性が高いのだ。

王国上層部は武力で制圧できると考えているかもしれないが、それは“属国達だけで攻めてくる場合”の話である。


(そうならないために俺が頑張ろうと思っていたのだが、まぁいい)


ちなみにルークは優秀な人材を自陣に取り入れていたのだが、その全員が昨日中に鞍替えを済ませた。


翌朝、一人の騎士が部屋をノックした。

「ルーク様。王陛下がお呼びです。至急謁見の間へお向かい下さい」

「わかった。朝から悪いな」

「……」


騎士は案内する素振りも見せず、無言で立ち去って行った。

これが“最下級スキル所持者の扱い”である。

ルークは直ちに謁見の間に向かった。


到着後、自ら大きな扉を押し開け、中へ足を踏み入れた。

玉座までは少々距離がある。


(朝から皆さん勢揃いだな。ご苦労なこって)


この場には王族だけでなく、宰相や大臣、大貴族の当主達が召集されていた。

またその全員がルークに侮蔑の視線を向けている。


両側から罵詈雑言が聞こえる。

「王国の恥が来たぞ」

「無能の癖に偉そうですねぇ」

「目が腐るわ」

「元第三王子派閥の連中はザマァみろってんだ」


色々と言われているが、すでにルークの頭の中は旅の事で一杯だった。


玉座の前に到着。


堂々と足を組み、眉間に皺を寄せながらルークを見下しているこの男の名はベルカンプ・アン・グレイス。

通称ベルカンプ十七世。この国の王様である。


王の横には王妃や王子、王女等がズラリと並んでいる。

彼等も例外なく、ゴミを見る目で彼を眺めていた。

特にギルバードは気色の悪い笑みを浮かべている。


床に片膝をつき頭を垂れると、ようやく王が口を開いた。

「面を上げよ」

「はっ」


「ゴホン。久しいな、ルーク第三王子。いや、今はただのルークと言った方がいいか?」

「……王陛下も御健勝のようで何よりでございます」

「ふん。それにしても、よくその汚い顔をここに晒す気になったな。余であればきっと恥ずかしさゆえに辞退していたぞ。はっはっは!」


(お前が呼んだんだろうが、この性悪クソジジイめ)


王はひとしきり笑った後、再び口を開いた。

「そろそろ本題に移る。皆耳を澄ませて聞け」


シーンと静まり返る。


「今、この場で第三王子ルークを廃嫡とする。理由は言うまでもない」

「謹んでお受け致します」


パチパチと拍手が上がった。


「さっさと城から出ていけと言いたいところだが、最後に一言だけ発言を許そう」

「感謝致します」

ルークは一息置いた。


「私がここを去れば、グレイス王国は早いうちに崩壊します。それでも出て行けとおっしゃいますか?」


その発言を聞いた王は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑い声を上げた。

「はっはっはっはっは!!!!!!」


同時に謁見の間にいる者達全員が腹を抱えて大笑いした。


「一体何を言い出すかと思えば……くっくっく……。お前に笑い役者の才があったとは知らなんだ」

「元第三王子派閥の者達は十分理解していると思われますが」


ルークは一昨日まで自陣に入っていた貴族達に視線を向ける。

すると皆憤慨した表情で睨み返してきた。


(そうか。散々説明したのに、一ミリも理解していなかったのか。どうやら俺があいつ等に期待しすぎていただけのようだな)


「もうよい、もうよい。早く立ち去れ。そもそもここは下等な平民ごときが立っていい場所ではないのだ」

「そうですか。では失礼します」


帰りは来るとき以上に罵詈雑言が飛び交ったが、ルークは何も気にしなかった。

(もうダメだな……この国は。てか腹減ったな)


彼にとっては貴族共よりも空腹感の方が強敵なのである。



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