第三王子、最下級スキル持ちと言われ追放される~スキル『アクセル』を使い、最速で最強へと至る~

田舎の青年@書籍発売中

第1章

プロローグ:覚醒の儀

世界で最も大きな大陸、バルク大陸。

この地は“五強”と呼ばれる五つの大国によって支配されていた。


そのうちの一つに数えられるグレイス王国の王都には、国の象徴である美しい城が堂々と聳え立っている。


王城のとある一室にて。

「はぁ。緊張してきた」

「今日は待ちに待った覚醒の儀がありますからね!ルーク様が緊張なされるのも仕方がないと思いますよ!」

「全然待ってないんだが……」


豪華なベッドに座りながら溜息をつくこの青年はルーク。

正式名はルーク・アン・グレイス。

最近十四歳の誕生日を迎えたこの国の第三王子である。

文武両道で民衆からの評判も良く、巷では最も王位に近い王子と噂されている。


そんな彼の傍で微笑む彼女の名はエマ。

五年ほど前からルークの専属メイドを務めているエリート使用人だ。


彼女の言う通り、彼は今日“覚醒の儀”と呼ばれる、スキルを習得するための儀式を受けなければならない。

ルークは身なりを整えた後、エマと共に大教会へと向かった。


城の廊下を歩いていると、第二王子のギルバードが声を掛けてきた。

第二王子は常に複数のメイドを侍らせており、皆疲れ果てた表情をしている。


「よぉ、ルーク。今日は覚醒の儀に行くんだってなァ」

「……」

「チッ。返答すらまともにできないのか、このゴミクズめ」

(いつもいつも面倒臭そうな顔をしやがって……!)


「おい、そこのメイド。さっさとこんな奴を捨てて俺の所に来い。そうすりゃ毎晩可愛がってやるぞ?」

と言い、厭らしい笑みを浮かべた。

彼は大の女好きで、今まで様々な問題を起こしてきた悪名高い男なのである。


「え、遠慮させていただきます」

「クソッ。どいつもこいつも生意気な!俺様を一体誰だと思ってやがる……!」


「いくぞ、エマ」

「はい」


ギルバードはすれ違いざまに囁いた。

「まぁどうせお前が習得できるのはせいぜい中級までだろうからなァ。今のうちに楽しんでおけよ~。くっくっく」

「……」

(相変わらず顔が不細工だな)


スキルは下から最下級・下級・中級・上級・最上級の五段階のレベルに分けられており、ほとんどの人が下級~中級のスキルを習得する。

一人につき一つのスキルしか覚えられない上に、一度習得したらそのスキルを一生背負って生きていかなければならないので要注意である。

ちなみにギルバードは去年行われた覚醒の儀で上級スキルを習得したため、大口を叩いているのである。


エマは心の中で呟いた。

(ルーク様の方が断然イケメンな上にお優しいですからね。冷酷な印象を持たせる美しい御尊顔に、神々しい銀髪。はぁ、何て美しいのでしょう……)


「ん、どうしたんだ?」

「いえ!なんでもありません!」


王族専用馬車に乗り、数名の騎士に護衛されながら大通りを進む。

大教会に到着後、枢機卿に迎えられ儀式の間に入った。

そこはすでに貴族家の子息令嬢達で溢れかえっており、皆始まるのを今か今かと待っていた。


「では始めていきます」


関係者席では貴族家の当主等が固唾を呑んで見守っている。


一人一人壇上に上がっていき……。


「貴方が習得されたのは中級スキル〈土魔法〉です」

「ほっ。良かったぁ」


「貴方が習得されたのは下級スキル〈遠視〉です」

「そ、そんなぁ」


「貴方が習得されたのは上級スキル〈魔剣術〉です」

「やりましたわ!お父様!」


とある子息は膝から崩れ落ち、とある令嬢は両手を天に掲げ歓喜する。


そして最後、ついにルークの番が回ってきた。

悠然と歩みを進め、壇上に上がる。


「見て、第三王子様よ」

「一体どんなスキルを習得されるのだろうか」

「あのルーク様であれば上級……いや、最上級スキルを獲得なさるやもしれんなぁ」


儀式の詠唱が始まり、不思議な光がルークを包み込む。

あまりの心地よさに両の目を閉じた。


ルークは昔から勉学と剣術に励んできた。

王になった際は無駄のない政策を打てるように。

将に任命された際は自ら矛を持ち、軍を率いるために。

どんな形であれ、国を正しい方向へ導けるように。

小さな頃から必死に必死に努力してきたのだ。


数秒後、儀式が終了した。

「ルーク第三王子様が習得なされたのは……」


この場にいる全員がゴクリと生唾を呑んだ。


「最下級スキル〈アクセル〉です」

「……は?」


“最下級スキル”という名を聞いた瞬間、ルークの脳内は弾けた。

額に冷や汗が流れ、身体が震える。


この世界には稀に最上級又は最下級スキルを覚える者がいる。

最上級スキルの場合は周りから持て囃され、大貴族や様々な組織、時には王族から声を掛けられることもしばしば。

逆に最下級スキルの場合、問答無用で無能のレッテルを貼られ、一生世間から笑い者にされる。


ゆっくりと後ろを振り返ると、先ほどまで期待に胸を膨らませていた貴族達の表情が、今は侮蔑と嘲笑に満ちていた。

「ルーク様が……最下級スキル……?」

「本当にいるのね。最下級を習得する人なんて」

「私も初めて見ましたなぁ」

「ぷッ。だっさ」

「あーあ。期待して損したわ」

「王国の恥だな」


エマは床に膝をつき、絶望していた。

「ルーク様、なんで……どうして……」



ここはスキルで全ての価値が決まる残酷な世界。

それは“大国の王子様でさえ例外ではない”。


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