第6話 運命の出会い⑥
レイン、ヘイル、ムーンとスカイを攫った五人が向き合う。
お互い無言で見つめ合う。
そんな静寂を打ち破ったのはスキンヘッドの男だった。
「はっはっは。誰が来たのかと思えばガキ三人か。友達を救いに来たってか。犠牲者が増えるだけだってのに」
「こいつは友達じゃねー」
レインは力強く言い切る。
それにスキンヘッドは一層大声をあげて笑った。
「愉快な奴らだぜ。その威勢がどこまでもつかな」
「お、親分。こいつら警察とか呼んでたり……」
「黙れ、ローブ」
スキンヘッドは小太りの男、ローブを睨み付けた。
ローブはびくっと身体を震わせて、それから口を噤む。
「心配するな。もし本当に警察が来ていたら、こいつらがいまこの場所に立っているはずないだろ。それに、もしいまこの場にいるとしても大した人数じゃないはずだ。こんなガキの話を信じてのこのこ来るほど馬鹿じゃないだろ」
そんな説明に、スキンヘッドの左右に立つ四人は安堵を浮かべた。
彼らとそのまわりの人間で悪人としての格が異なるように見えた。明らかにスキンヘッドの男はこういった場に慣れている。だからこそ、いまも飄々とした様子でスカイの前に仁王立ちして、レインたちをじっくり見定めているのだ。
「お前、案外頭が回るんだな。そんな図体だから脳まで筋肉に犯されていると思ったぜ」
レインはそう皮肉った。
だが、それは悪手だとスカイは思った。なぜなら、スキンヘッドの男の話を肯定しているのと同義だからだ。
スキンヘッドの男はふっと小さく不敵に笑った。
「さっさと三人とも捕まえて、まとめて始末するぞ」
その号令に他の四人は頷くと、レイン、ヘイル、ムーンへとじりじりと距離を詰める。
「さあ、そう上手くいきますかね」
ヘイルはそう小さく呟くと、すっと手を後ろにやり、なにか球状の物体を取り出す。そして、力強く床へ投げつけた。
途端にぶわっと煙が発生し、視界が覆われる。どうやら煙玉のようだった。
あたりの様子は分からない。聞こえるのは、スキンヘッドの男以外の四人が焦る声のみ。
なにも見えない中でスカイは首を小さく左右に振ってあたりを警戒する。煙は一過性のものだ。しばらくすれば少しずつ視界に元の景色が移り出す。
「しゃべるな」
不意に、鋭く小さな声が耳を打った。
そして、縛られた腕の紐がぶちりと音を立ててちぎられる。どうやら両腕が自由になったようだ。
そしてそのまま足と椅子の脚を結ぶ紐も切られた。
スカイは椅子から転げると、スキンヘッドたちがいた場所から離れるように部屋の隅へと移動した。
「あぐっ」
次の瞬間、少女の叫び声が聞こえる。
「悪くはねえがよ、お前らの狙いはバレバレなんだよ」
なにが起きたのかと、声の方向、部屋の中央部を見る。
煙が晴れてきて、スキンヘッドの姿が視界に移る。そして、彼の腕の先には腕を掴まれたムーンの姿があった。
「くそっ」
スカイは身体を起こすと、スキンヘッドに食ってかかろうとする。
だが、金髪細身の男がその前に立ちふさがる。
「さて、お前ら二人も動くなよ」
スキンヘッドは顎で促した。
レインとヘイルに太った男とピアスの女が近づく。
万事休すな状況。もう打つ手なしか。スカイは悔しさを顔に浮かべた。
しかし、レインとヘイルはやけに冷静な表情でスキンヘッドを見ていた。
「痛いわね。離しなさいよ」
ムーンはそう叫ぶと、蹴りをスキンヘッドの脛にぶち込んだ。
ドスッと鈍い音がした。しかし、スキンヘッドは平然とした様子で立っている。
「悪くない蹴りだ。その靴に仕込みもしているみたいだし、そのまま蹴られれば俺の足もひとたまりもなかったかもな。だが、プロテクターの前では無意味だ」
「あっそう」
ビリリっと音がした。
スキンヘッドは顔を歪めて腕を放した。そのすきにムーンはバックステップで後ろへ下がり距離を取った。
「スタンガンか」
チッと舌打ちして苦々しげに呟く。
「ご明察。あんたみたいなやばいやつと出くわしたときのために護身用で持ってたのよ」
いや、そんな機会そうそうないだろとスカイは思ったが、いまの空気で放つ言葉ではないなと自重した。
「これで五対四ですね」
レインがそれになにか言いかけるが、ヘイルは目で制止した。
「そうだな。だが――」
「ぶっつぶしてあげるわ」
スキンヘッドの言葉は狂気にかき消された。
髪の長い女が棒状のものを振り上げ、スカイへと振り下ろす。スカイは慌てて横へ回避した。そして、女の握りしめた武器を確認する。それはハンマーだった。
直径はスカイの拳よりも一回りほど大きい。あれが頭に当たろうものなら死んでしまうだろう。
「勝手なことを」
スキンヘッドが小さくそう呟き頭を掻くが、髪の長い女は止まらない。
「なんでよけるのよ。ねえ、ねえ、ねえ」
女はブンブンとハンマーを振り回す。
スカイはそれを避けていたが、あっという間に部屋の角に追い詰められてしまう。
「これで逃げられないわねえ」
ペロリと舌なめずりをしてハンマーを頭上へあげる。
スカイはとっさに両手を頭を庇うように顔の前はもってくる。
「腕ごと粉砕してあげるわあ」
しかし、その軌道はスカイの左上を通過していき、壁を破壊した。
「な、なによー」
勢い余って倒れ込んだ黒髪の女が金切り声を上げて振り返る。その視線の先にはムーンが立っていた。
女が足を押さえていることから、脛を蹴って体勢を崩したのだろう。
「あんたの相手は私がしてあげるわ」
ひどく冷たい目で、地面に倒れた黒髪の女を見ていた。
スカイもその表情にぞくりと背筋が震えた。
見ればレインとヘイルも顔を強張らせて、身体を震わせている。もしかすると、ムーンという少女は最も怒らせてはいけない存在なのかもしれない。
「こいつが終わったらそっちに加勢するから、人数を減らしておきなさいよ」
「任せろ」
レインが頷いた。
「な、なにを勝手なことを……、ぎゃっ」
起き上がった黒髪の女をムーンは蹴り飛ばした。
女はハンマーによって開けられた壁の穴から隣の部屋へと吹っ飛んでいく。それを追うようにムーンも穴から隣の部屋へ入っていく。
「やれやれ、ネガには困ったもんだ……。さて、ローブ、カーシア、フロス。お前たちでこいつらの相手をしてやれ」
太った男、ローブとピアスの女、カーシア、そして細見の男、フロスは頷くと、それぞれレイン、ヘイル、スカイの前に立った。
太った男はグローブを、ピアスの女はバットを、細見の男は木刀を手にしていた。
「ヘイル、いけるか」
「ちょっと、やばそうです」
ヘイルの額を汗がつたる。
無理もない。相手は身長では頭一つ高いバットを持った女だ。しかも、明らかに喧嘩慣れしてそうな雰囲気を醸し出している。
「お仲間の心配より、自分の心配をした方がいいなじゃないかな」
フロスは木刀をグーで握り構えた。
スカイも少々だが、剣を嗜んだことがあった。だから分かる。この男は全くの初心者だ。構えも全くなっておらずへっぴり腰である。
だが、だからこそどういった動きでこちらにくるかは分からない。ある意味では剣の経験者よりも質が悪い。
「さて、楽しい時間の始まりだな」
スキンヘッドの男が不敵な笑みを浮かべて、そう小さく呟いた。
そして、それがそれぞれの開戦の合図となった。
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