KAC20241 あんまん食べに行こうかな

ながくらさゆき

寝坊

ミチカには三分以内にやらなければならないことがあった。

チュンチュン

外の鳥の声で目が覚めて時計を見た。

AM8:57

ミチカは時計に表示された時間を見て絶望した。仕事が始まるのは9:00、あと三分。

「間に合わない」

寝坊した。

あと三分以内に歯を磨き、シャワーを浴び、頭を洗い、朝食を食べ、水筒を洗い、おにぎりを作って、自転車のタイヤに空気を入れ、自転車を漕ぎ職場に行く。

「無理だ、遅刻だ。いやもう遅れて会社行くの気まずい、休もう」

スマホで会社に電話をかけた。

「この電話からは現在通話できません」

料金を払っていなかったので停められていた。

「そうだった。どうしよう、無断欠勤」

どうしようどうしよう

「とりあえず頭洗おう」

なぜ昨日のうちにお風呂に入り、水筒を洗い、昼食のおにぎりを作っておかなかったんだろう。

なぜなぜナーゼ何故

だって寒かったから疲れてたからめんどくさかったから、もっと言うと仕事行きたくなかったから。

「このままどこか遠くへ逃げてしまいたい。でもスマホ使えないから就職活動できない、生活できない。仕方ない、遅刻して働こう」

遅刻して職場へ向かった。具合い悪かったと嘘をつき、スマホは停められていると正直に言った。

「はあ〜、頑張るしかないか」


PM7:00

仕事が終わった。

ミチカは帰りに初めて行くコンビニであんまんを買った。レジの女性が

「あーらー、アータ(あなた)自力で仕事行ったのねえー。えらいわー。アタクシはいらなかったわねー」

「え?」

「アタクシ、魔法使いなんですわよねー。アータが寝坊して仕事行くの諦めようとしてるからなんとかしてくれーって、アータの亡くなったひいおばあ様から相談されたのですけれど、あいにくアタクシも起きたばーっかりでしたのでー」

レジの女性は魔法使いらしい。亡くなった人と話せるそうで、ミチカの曽祖母から相談され、魔法で時間を止めてあげようと思っていたら、ミチカは自力で職場に行ってしまった。

「アータのひいおばあ様がいつも心配していらっしゃーっておられるのでありましてー」

「はあ、そうですか。すみません」

ミチカはコンビニのイートインコーナーで、あんまんを食べながら話を聞いた。

あんまんは「あんッ」と焼印がされていた。美味しかった。餡はごまがすり潰してあって上等で高級な感じがした。

そういえばこのコンビニ、小さい頃ひいおばあちゃんとあんまん食べに来たことがあったかもしれないとミチカは思い出していた。

ミチカの曽祖母はミチカが心配で成仏できないらしい。

「よかったら仕事の帰りにまた寄ってくださらなーい? あんまんふかしておりますのでー」

レジの女性は無表情で、でも綺麗な声で「ありがとうごぜーましたー」と言ってくれた。

仕事つまんないけど、仕事の帰りにまた美味しいあんまん食べに行こうかなとミチカは思った。

「ひいおばあちゃん見てる? 私働いてるよ」


おしまい











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