第十四話 堕天使達の怪談会

「さて、みんなよく集まってくれた」


天界……と対を成す場所、人間達が住む地上から深く深く下にいったところにある、地獄界の一角に、四っつの影が集まっていた。

雅に嫌がらせをした事で堕天させられた天使。堕天使達だ。


地獄界は、死を司る神と元天使長の七大堕天使が治める一種の王国。

天上聖魔大戦と言われる、天界で起こった唯一の争いである、天使を束ねる天使長、ルシファーとその直属の部下六大天使が起こした、創造神への反乱で負けた事で天界から追放(宣言を受けて「こんなとこ自分から辞めてやる‼︎」と言って自分から出て行った)されて堕天使の中でも高位の存在、悪魔となったルシファー達を労働力として受け入れたのが冥府を管理し、死を司る神であるハトスだったのだ。


「皆、今日の集まりは秘密にしていたか?」


地獄界は主に、ハトスが亡者の罪の重さによって死後に行く世界を決め、地獄界に落ちた亡者を罪の重さや種類によって責め苦を与えるのが定められた機能だった。


「「「勿論です」」」


その機能の元、天界とはまた違う、独立した指揮系統を築いた地獄界だったが、雅の誕生で一変した。遠くを見れる水鏡で天界を覗き、雅を見たルシファーとハトスが雅を気に入ってしまったのだ。

天上聖魔大戦の事など知らない雅は度々遊びに来る二人と仲良くなり、個人的に協力体制を結んだ。その為、天界とは徹底抗戦が基本方針だった地獄界は天界とも一部とは交流を持つことになった。


「そうか、それでは始めようか……」


今回はその繋がりから、神達は今回天使達を罪人として堕天させ、使い捨て可能の労働力として地獄界に堕としたのだ。地獄界のトップに君臨する二人が雅を苦しめた彼らを許すはずがないという確信の元で。

その堕天使達が地獄界の一角に集まって何をしようとしているかというと……


「第一回・堕天使怪談会〜‼︎」


「「「イエーイ‼︎」」」


まさかの怪談会だった。


地獄界には『地獄の業火』と言われる、魂すら焼いてしまう程の温度を持った炎があった。さらに地上の四季の影響も受けるので、真夏の地獄界はそれはそれは暑い。

氷獄コキュートスとも言われる凍った地獄もあるのだが、そこは一年中寒かった。


つまりは、だ。

地獄というのは暑いか寒いかの二択しか存在しない、めちゃくちゃ過ごしにくい世界であった。一年中過ごしやすい気候を誇る天界とは全くの別物。

過ごしやすい天界から過ごしにくい地獄界へと堕とされた彼らは、人間と同じように「怖い話をして、聞いて、ゾワっとする事で暑さを紛らわそう」という結論に達し、実行に移した。


当事者からしたらとても真面目に考えて出した結論だったのだが、側から見ているとただのアホ達にしか見えない行動だった。

何故なら、天使から堕天使になった彼らは既に、地獄の環境に適応した体になっているからである。彼らが暑いと感じているのは、思い込みからだった。

全くもってアホらしい。


というか、彼らが幾ら秘密にしていても地獄界にいる限り、ルシファーとハトスには伝わっている。

これが復讐を企んでいるとかなら、彼らは既に地獄の番犬・ケルベロスによって喰い殺されているだろう。なんか面白そうな事をやっているなと思ったからこそ、二人は集まっている堕天使達を見逃した。むしろ現在も興味津々で水鏡越しに覗いていた。


「「「じゃーんけーんぽん‼︎」」」


「うわあ、負けた……」


「よっしゃ、勝ったぜー‼︎」


「そんじゃ、お前から時計回りな」


「おう」


ジャンケンという古典的手法で順番を決め、どんな話をしようか盛り上がる彼らは、まるで子供のようだった。


「じゃあ、これは俺の先輩がそのまた先輩に聞いた話なんだが……」


そんな怪談の定番、「私の友達の妹が体験した話」と同じような枕詞まくらことばで始まった怪談は、こんなものだった。


「その日は久々の休みに浮かれて、同僚の天使達と神々に無断で地上に遊びに行こうという話になっていた。忙しい神々からしたら、天使が三人いないくらいの些細な事は気づかれないと思ったのだ。

雲と雲の間から一筋の光が漏れ、まっすぐと地上へと差す、地上では『天使の梯子』とも呼ばれるその現象をともないながら天界から地上へと降臨した。

もちろん誰もいない場所に降りられるようにした。なのに、その直後だ。

近くにいた藍鼠色の髪の女の冒険者から声をかけられた。

その女は黒い目で真っ直ぐと天使達を見据え、こう言ったんだ。『お前達、天使だろう?丁度いい、無断降臨の罰も兼ねて魔物の間引きを手伝え』ってな」


「「「ひいいいい‼︎」」」


『……ん?』


『なんか、思ってたのと違うのだが?』


要するに、学校の帰り道に寄り道した学生が店に入った瞬間、店内にいた先生と目があって怒られたというような話だ。

怪談というよりも、「こんな怖い事があったんだよ。だからやったらダメだよ‼︎」というような教訓話にしか聞こえない。


「次は僕だね‼︎」


首を捻りながら話を聞く二人を置いて、彼らは話を続ける。


「これは僕が瘴気の浄化をした時の話だよ。

ミリア様とリト様、雅様が天界にほど近いところに沸いた正気を浄化しに行った時、僕を含めて何人かの天使が共に向かった。

魔法を使うのが得意で、オリジナル魔法を使うことも出来るメンバーが、万一の為に創造神様の命で同行する事になったからだ。

その同行者で僕の先輩の一人は、『俺はオリジナルで魔法を開発したんだぜ』と言ってよく自慢している人でね?とは言っても、ミリア様が開発した魔法をほんの少しいじくっただけのものだったんだけど。

まあ、ともかく僕らは瘴気の周りに結界を張って、神々が正気に触らないようにしていた。その先輩もオリジナルの魔法を使って、結界を張っていたよ。

結局瘴気はミリア様と雅様が完全に浄化したけど、その帰り道、僕の先輩はミリア様に声をかけられたんだ。

『さっき張っていた結界、オリジナルのやつなんだよね?今までのやつとどこが違うの?どうやって張ってるのか教えてくれない?』

とね。その先輩が嬉々としてミリア様に説明してたら、その横にいた雅様がスッと手を上げて言ったんだ。

『その魔法、三百年前に僕とミリア姉さんで開発したやつじゃない?』と」


「「イヤアアアアアアア‼︎」」


「ゾワってする‼︎めちゃくちゃゾワってきた‼︎」


『えー……』


『怖い話なのか?』


『あー、多分?その道の専門家から質問をされるのは怖いんじゃないっすか?今の話って、地獄造ったハトスさんが天界とか地上の世界を造った創造神様に、「世界を造りたいんだけど、造り方教えてくれない?」って聞かれるようなものっすし』


『こっっっっっっっわ⁉︎』


『うーん、でもこの集まり、本当に怪談会というよりも教訓の共有会みたいっすね』


三人目、四人目と話が終わったが、どれも同じような話だった。

聞く人によっては怖いのだろうなという話ばかり。


『ああ、あんまり面白くなかったし、次回もやるようであればその時は放置しよう』


『っすね』


結局、怪談会は堕天使達が部外者にはよくわからない話で涼んだだけで終わった。







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転生神流スローライフ 風宮 翠霞 @7320

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