一年目 夏

間話 梅干し料理だあああ‼︎

「今日は、梅干し料理です‼︎」


「「「ほう……?」」」


「に、やあ」


変な声が聞こえた気がしたが、高くなっているテンションのままに雅は話し続ける。



「ギルマスから、この前のお礼って実家の梅干しを大量にもらったので、今日は梅干し料理にしてみました〜。The 梅干しってやつは丸を、ちょっと梅干しってやつは三角を書いた紙を料理の前に置いてるので、各自それを見ながらおかずを取って、食べてくださ〜い!」


初めて見る食事形式に困惑している神々に向かって、楽しそうに説明する雅。


「今日は試食会だと思ってもらえれば大丈夫ですよ〜。今日人気だったメニューは、もしかしたら今後も、梅干しが手に入ったらよく出すかもって感じの催しです〜。梅が苦手な人でも食べられる料理を何個か作ってますが、それでも無理だよーって人は、梅料理以外も一応用意してます‼︎あ、みなさん、野菜はきちんと取ってくださいね〜!」


「「「りょうかーい」」」


「「わかったー」」



雅の説明を聞いて、今回の趣旨を理解した神々は各自用意されたお皿を持って、料理が置かれたテーブルに続々と集まり始めた。


食べる必要のない神でも、少食大食の違いはあるので、割と食べる量が同じくらいの神同士でこれがいい、あれがいいと教え合っているようだ。好みの違いを尊重することを知っている、神同士の勧め合いは見ていてとても平和な光景だった。


「これならさっぱりと食べれるわ。美味しい」


セレナが食べているのは、鳥型の魔物の肉の中に、梅を叩いたものと大葉を挟んで照り焼きにしたものだ。

普通の照り焼きよりもさっぱりと食べられるので、少食の面々に人気だ。


「なんか不思議な味だな。」


「普段よりさっぱりはしてるけど、コッテリが残っているのが良いよなー」


「ああ‼︎ミリア、ちょっと待てって‼︎」


「…抑えてるから」


「助かった、リト‼︎」


「感謝します、リト」


「離してよおおお‼︎お肉お肉たーべーたーいー‼︎」


「ちょっともうミリア黙れ‼︎」


ミリア達、大食の面々がワイワイと言いながら食べているのは、唐揚げに醤油、おろしニンニク、鶏ガラから取った出汁、粗みじん切りした梅干し、マヨネーズを混ぜて作った梅マヨソースをかけた梅マヨ唐揚げだ。


大食の面々が揉めているところに、マヨの魅力に取り憑かれた少食のセリネが、ミリアが押さえつけられている間に割り込んで何個か唐揚げを取って行った。

大騒ぎしている彼らは気付いていなかったが、インテリのお兄さんはとても強かだった。


「このスープ、なんか安心できるのう」


「これ、美容にいいって本当なのねえ」


「なんだか効いてる気がするわ」


「これも美味いな‼︎お酒に合う‼︎」


創造神のお爺ちゃんと、美を司るスヴェナ、愛を司るエスロディが食べているのは、市場に売っていた鰹節から取った出汁に、同じく市場で買い、食べやすい大きさに切ったワカメと、斜めに切ったネギを入れて醤油で味を整えたスープに、種を抜いた梅干しを入れた梅干しとわかめの和風スープだ。


いまだに何かを食べるという行為に馴染みがなく、あまり量を食べられないお爺ちゃんはサッパリしたスープをとても気に入ったようで、そればかりをちびちびと飲んでいる。無駄に飲み方が可愛い爺さんである。


スヴェナとエスロディは雅から、梅干しにはダイエット効果や美肌効果があるという話もあると聞いて、一番好きだったこのスープをお爺ちゃんの話に付き合いながら飲んでいた。

お爺ちゃんがやっても、本体が可愛くないので総評が可愛くないに引っ張られる飲み方だが、美女の二人がやると、もう美しい以外の言葉が浮かんでこない。

眼福とはこの事なのかもしれない。


ジリアンがお酒を呑みながらずっと食べているのは、めん棒で叩いて5cmくらいの長さに切ったきゅうりに、種を抜いて叩いた梅とごま油、砂糖、醤油を混ぜた梅干しペーストを混ぜた無限梅きゅうという料理だ。


きゅうりが苦手でも梅の味で食べやすくなっている。ビール、ハイボール、ワイン、日本酒、焼酎etc ……と、色んなお酒に合うおつまみなので、ジリアンや他の酒好きのお兄さん達はそれをおつまみに延々と酒を飲んでいる。


「んー、やっぱ美味しい」


彼らが食べているもの以外にも色んな種類の梅干し料理があるが、筋金入りの梅嫌いのフォルティは甘口カレーと辛口のキーマカレーを一対一で混ぜたオリジナルカレーを自作して食べていた。

彼女の場合、カレーを食べたいが故に梅嫌いを利用している気もするが、嫌いなものを食べさせることまでしたくない雅は、サラダはきちんと食べるようにだけ言って、好きにしてもらう事にした。

三つ子であっても、好き嫌いは人それぞれだという、いい例だろう。



この五分後に、酒盛りをしていたジリアン達が、うるさいからと雅におつまみを没収されて、いい大人達が雅に縋り付きながら大声で泣き叫ぶという、どこにも需要のない、何なら通報されそうな、何も生まれない一場面があったものの、基本的に平和に終わった試食会はこの先も、新しい食材を雅が手に入れる度に開催される事になった。

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