第十話 ダンジョンとサンドイッチのお弁当

ガタンッ‼︎


「ふに゛ゃん!」


「え、あ、すみません〜!まさかそんな所にいるとは……」


朝早く起きた雅が冷蔵庫を開ける音に驚き、尻尾を踏まれた猫のような声を上げたのは、真実を司る神、フォルティだ。


調理場の隅の、影になる場所でカレーを盛ったお皿を抱えて食べていたのだろう。口の周りが茶色くなっている。


「エスロディ姉さんとスヴェナ姉さんは一緒じゃないんですか?」


「うん。今日は私はダンジョンだし、二人はもうご飯食べ終わってるから、別行動だよー」


「珍しいですね〜」


エスロディは愛を司る神、スヴェナは美を司る神で、フォルティといつも一緒にいて、なんとなく三人で一つのような扱いをされている三つ子だ。


フォルティは何故かずっと調理場の隅でカレーのおかわりを食べながら、興味深げに手元を見てくるが、兄姉達の不思議行動に慣れている雅は無視して作業を進める。


雅は自分も不思議行動が多いことを理解していないので、仕方ないなあと思いながら冷蔵庫からマヨネーズと茹で卵、レタスを、棚から食パン、チーズとジャムを取り出す。


まずサンドイッチを作るために薄く切った食パンの耳を切り落として、片面に薄くバターを塗っていく。


それが終わったら、まず三分の一にあまりイチゴを潰さず、食感が残るようにして作ったジャムを塗って半分に切る。それだけで美味しいジャムサンドの完成だ。


もう二つはおかずサンドを。

まず一つはレタスと薄く切ったチーズを挟んだチーズサンド。お手軽に美味しい定番サンドだ。


最後の一つは、ちょっと前に試食会になり盛り上がったマヨネーズを使って作る卵サンドだ。茹で卵をスプーンで大きめに潰してマヨネーズと和え、塩胡椒で味を整えたら卵サラダは完成。卵を大きめに潰すと、卵の食感が残って美味しい。

あとはレタスを敷いたパンの上に、隅まで行き渡るように乗せたら卵サンドの完成‼︎


あとはこの三種類のサンドイッチをバスケットに詰めて行ったらサンドイッチ弁当が完成する。



「フォルティ姉さん、これ今日持って行ってください」


「え……?いいの?」


「はい。今日はアルミス姉さん、ジリアン兄さん、セリネ兄さんの三人と、この前の魔物の氾濫の調査に行くんですよね?大変だと思うので、これ持ってって下さい」


「わ、お!ありがとおお‼︎お土産何がいい?」


「え?いりませんよ」


「そういう訳には行かないって‼︎」


「うーーん……。じゃあ、お肉お願いします」


「任せて。アルミスとジリアンに頼んどくから」


「おーい、フォルティ、もう行くぞー」


「はーい‼︎じゃあ、行って来るね」


「いってらっしゃい」




「フォルティ‼︎何してたんだ?」


「ん?雅からお弁当を授かった。楽しみにしてるが良いぞ」


「なにその喋り方。てか、それは凄いな。お手柄だ。」


「天才ですね」


「崇めていいよ」


「それは嫌です」


「ええええー、あ、そこから二匹魔物。」


「了解」


「行くぞ‼︎」


とても魔物の蔓延るダンジョン内とは思えない、気の抜けるような会話である。


雅が地上に行った時に起きた魔物の氾濫の調査の為に、普段から冒険者として活躍するアルミスとジリアン、情報を司るセリネ、そして真実を司るフォルティの四人が創造神に言われてダンジョンに来ていた。


普段から任されている仕事に加えて出た追加の仕事に、仕方のない事だとしても多少憂鬱になっていた面々。特に普段は天界から出ないセリネとフォルティは、朝起きたく無いとゴネている人々の気持ちがわかると思った。


そんな時飛び込んできたお弁当の知らせ。ただでさえ可愛い末っ子が、必要な睡眠時間を削り、早起きして作ってくれたお昼ご飯。


これはもう頑張るしかない。奮起した四人は、雅へのお土産にする肉用の魔物と、進行方向に出てきて、進むのを邪魔する最低限の魔物だけ狩って、最速でダンジョンの最深部まで進んで行き、調査を終えた。


ダンジョン内では転移ができないので、ダンジョンを出るまでは自分たちで戻らなければならない。四人は、ダンジョン内で最深部以外で唯一魔物が出ない安全地帯まで戻ったら、ご飯を食べると決めて、そこまで全力で頑張る事にした。



「さて、調査は終了、安全地帯まで戻った事だし、雅のお弁当を食べるとするか‼︎」


「そうですね。フォルティ、早く出して下さい。」


「はいはい。全くみんな雅が好きだねえ」


「そらそうだ。」



「そんじゃ、せーの‼︎」


「「「「いただきまーす」」」」


「これ、マヨネーズが入ってて美味しいですね。」


卵サンドを食べた、すっかりマヨネーズファンのセリネが幸せそうに言う。


「チーズおいしい(語彙消滅)」


チーズ好きのジリアンが語彙を消滅させていた。具材がシンプルな分、チーズサンドではチーズの美味しさが際立っていてチーズ好きからしたらとても楽しい料理になっている。


「ほう、バターを塗ってある事でパンがベチャッとなってないのか。」


「バターの塩味とジャムの甘味がちょうどいい」


アルミスとフォルティはおかずサンドを一通り食べ終え、デザートのジャムサンドを食べて感嘆の声をあげていた。

全て半分に切られているので、少しずつ食べれて、かつ食べやすい大きさになっているサンドイッチは、ダンジョン内で食べるご飯としてとても有能だった。


セリネとフォルティが全て少しずつ食べていき、アルミスは全ての味を見てから、卵サンドとジャムサンドばかりを食べ、ジリアンは最初から最後までチーズサンドばかりを食べていた。


全て食べ終わったアルミスは、帰ってから雅に、サンドイッチのレシピを他の冒険者に教えてもいいか聞いてみようと思った。

そもそもお弁当というものが無いので、普通冒険者はダンジョン内では、干し肉と硬いパンだけのご飯であることが多い。そんな中、このサンドイッチがあれば、ダンジョンに潜る冒険者も増えるだろうと思ったからだ。


そこで悩みになるのが、

雅に聞けばほぼ確実にいいと言ってもらえるだろうとは思うが、自分には広める方法が分からないという点だ。

まあ、その辺は得意なやつに相談しようと頭を切り替え、


「さあ、そろそろ出発しよう。創造神に報告しないといけないし、雅も待ってる」


とみんなに声をかけて、安全地帯から出て、帰路に着くのであった。








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