第十一話 雅のぬいぐるみ🟰眷属
「どうしよう……」
雅は困っていた。
「いやあ困った顔もお美しい‼︎流石は我が主神‼︎」
「怖いよおおお!さっきからずっとこんな感じなんです、助けてミリア姉さん〜セリネ兄さん〜」
「ああやはり我が主神は何時如何なる時でも素晴らしい‼︎」
「ヒクッ…」
家事の合間に作った狼のぬいぐるみが、喋り出したからだ。
しかも何故か自分の眷属達並みに自分のことを慕ってくる。
元々、雅の眷属達は普通の神の眷属よりも無駄に忠誠心が高い。
現在も、神の仕事を休んでいる雅の助けになりたいと言って、寮の掃除を手伝う眷属と、雅の代わりに地上の見守りをする眷属に分かれて活動している。
彼らは能力が高く、とても有能だ。雅の激務に問題なく付き合えるくらいには。
雅からしてしても、慕ってくれている事はありがたいと思うし、自分の激務に文句ひとつこぼさず付き合ってくれていた眷属達には感謝している。
だがそれとこれとは話が別だ。
あまり強すぎる忠誠心は狂気を感じて怖いです。
「大丈夫だよ‼︎雅ちゃん‼︎私が守るからね‼︎」
「これは……立派に眷属化していますね。何か特別な材料か何か使いましたか?」
「全部地上で買ったものですけど…あ、地上には無かったから綿だけ自分で作ったけど、それだけです」
「それだと思いますよ……」
「あとあれだねー。雅ちゃん、この子作る時、滅茶苦茶楽しみにしてなかった?名前つけたり」
「そら、まあ。名前はランです」
「だからだよー」
「つまり、僕がこれからぬいぐるみを作ろうとすると、何時もこんな感じになるってことですか…?」
「そうなりますね」
「ああ、我が主神‼︎そんな事おっしゃらないで下さい‼︎貴方の最後の眷属は私で宜しいではないですか‼︎それとも、私のこの丸いフォルムではご納得いただけないのですか‼︎」
丸くて可愛い狼の姿で叫ぶぬいぐるみに、セリネとミリアも少し引く。
が、雅の眷属がおかしいのは今に始まった事じゃないと思い直す。
仕方がない。『雅の眷属なので』。
雅関連のことが普通とは少し?いや、大分おかしいのは今に始まった事じゃないし、もはやおかしい事が当たり前にすらなっている。
「いや、君のことは可愛くて好きだけど…?」
「主神大好き‼︎さいっこう‼︎まじ好き‼︎愛してる‼︎」
「あ゛?…雅ちゃん‼︎ちょっとこの子連れて行っていい?」
「え、あ、はい」
「大丈夫ですよー、僕も行きますから」
「行ってらっしゃいです…」
ミリアがキレた。
雅の無自覚人タラシで限界まで堕ちた眷属––ランの首根っこ(まん丸なので正確には首根っこだと思われる場所)を掴んで雅の目が届かないところまで引きずっていく。
「はいこれ。雅ちゃんを可愛がりたかったら『雅同盟』に署名しなさい‼︎」
そう言いながら収納魔法から取り出した書類を突きつけるミリア。
ほとんど女番長である。怖い。
「ミリア、それではただのカツアゲに見えます。ぬいぐるみ君、雅の他の眷属や神々に睨まれたくなければ、それに署名して内容を守った方がいいと思いますよ。」
「は、はいいいいいい」
こうして、『雅同盟』に所属する雅の眷属が一人増えたのだった。
「初めまして、先輩方‼︎我が主神によって作られたぬいぐるみのランといいます。以後よろしくお願いします‼︎」
「おう、センという。よろしく」
「ギンでーす。よろしくー」
「(ペコリ)」
「この子はカラ、私はミナよ。これからよろしくねえ」
雅が寝ついた頃、ランは以前から雅の補佐をしていた四人の眷属に挨拶をしていた。主神である雅に似て、穏やかな眷属達に安心したようにランは息をついた。
「それにしても、ついにやったんですねえ」
「ついにやったって?」
「主神って、優しいし賢いし強いっていう優秀な神だけど、どっか抜けてるじゃん?」
「そこがいいとこなんだけどな。あと料理が美味しいとこ。まあ、近いうちなんかやらかすだろって話してたんだ」
「なるほど」
「主神大好き素敵ほんともう好き愛してる」
「うおっ」
今までずっと黙っていたカラが、雅のことになると急に話し出した事に驚きを隠せなかった。
「ハハッ、俺らはみんなそんな感じだからな!」
「主神のことと、主神の料理の事となると皆が冷静さを失いますからねえ」
「ミナさんもでしょー。特に料理は、この前の梅干しスープ、滅茶苦茶食べてたじゃないですかー」
「黙りなさい」
「すみませんでした」
仕方ないですねえという副音声が聞こえてきそうな声で言ったミナにギンが突っ込んだ結果、秒で返り討ちにあっていた。
ちなみに今は、今日の晩御飯を食べながら話していた。
眷属達も雅の料理を一度食べた後には、もう夢中になってしまっていたので。
雅も一度食べさせた時の反応でそれがわかったのか、その後はキチンと眷属達の分まで作って残しておいている。
雅は、そういう細かな所に気が付いて、気遣っている所が異様な忠誠心を向けられる原因であるとわかっていない。それに分かっていたとしても、そこは直せないだろう。これは前世から変わらない所だ。
ランは、晩御飯を一緒に食べながら、雅の眷属としての心構えや注意点を教えてもらったり、カラの言いたい事を知るコツを聞いたり、雑談をしたりしている内に、四人と仲良くなった。
「ラン、これからよろしくな!一緒に主神を支えていこう‼︎」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして雅信者が一人増えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます