第55話 圧倒的で感動的で理想的超えて完璧
ドギー・カミカムは、燃えていた。
彼はいったい誰なのだろうかという者は少なくないが、しかしそれはまぁ当然のことで、とくにそれで問題もないような立ち位置の人物である。
そんな日の目を浴びず、誰にも覚えられていなかった彼を、果たして何がそうさせるのだろうか。
…それはほかでもない、あの入学初日、貴族科首席のエレオノール・アンシャイネスに喰らわされた屈辱感である。
秀才なエレオノールのご機嫌取りをしてコネクションを広げようと画策した結果、彼にもたらされたのは邪神のごとき威圧感と、屈服させられ泥を喰らわされたような屈辱感のみだった。
ご機嫌取りに徹しようとした小物ではあるが、彼とて国に仕える宰相の息子。
貴族としてあるまじき恥と失態に、黙っていられるわけもなく。
クラスでの立場は無に等しくなった彼であったが、それでも内に反骨心を秘めていたのだろうか、この…定期試験に向けて闘争心を燃やしているのだった。
ここで彼女を蹴散らし、学年でトップという座を奪うため。
かつて自分を屈服させたあの者を上回っているのだと皆に知らしめるため。
ドギーだかいった男は人一倍にテストに向けて全力で臨んでいた。
…そして、定期試験が終わって数日後。
(ふっ…勝ったな)
男は自信満々に笑みを浮かべて、意気揚々と結果が張り出されている廊下へ向かった。
事前に講じた対策がすべて上手くいき、会心の出来だと実感しているのだろう。
…しかし、結果は彼の理想通りにはいかない。
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7位 ドギー・カミカム 498点
………
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(なんだとっ!?)
ドギーは目を剥いた。
自信満々だっただけあって、失点はたった2点のみ。
だがしかし、順位は7位という微妙な結果に終わった。
体感では満点で1位というものだったのに……やはり彼は首席には敵わなかったのだろうか?
ドギーは半ばあきらめながらも、上の順位に名を連ねる者たちを見てみる。
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1位タイ キャシー・ベッカー 500点
… トロドス・ヌートバー …
… レオン・ロードフィン
………
6位 テレーゼ・アドレート 499点
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満点が5人もいるという驚異的な結果。
…しかしその中に、エレオノールの名前はない。
(か……勝ったッ!!)
男は歓喜に打ち震える様にガッツポーズを取った。
残念ながら満点ではなく、しかもかの首席が少なくとも7名よりは下の成績であったということには驚きではあるが、しかし結果として自分は勝ったのだ。
それだけで彼は喜び勇めるものだった。
「おいおい、あれ見ろよ」
「うわ、なんだあれ」
感動の余韻のなか、ふと、周囲がざわついていることに気が付いた。
そして自分の周り…というかテスト結果が張り出されていた掲示板からは人が掃けて、少し先のところで人集りが形成されていた。
ドギーもまた興味本位でそちらを覗いてみる。
そこには、同じく結果発表の紙と同じくらいのサイズのものがデカデカと張り出されていて────
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0位 エレオノール・アンシャイネス
500+Awesome!!Amazing!!Perfect!!点
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「……は?」
その内容を見て、彼は思わず気の抜けたような声を出してしまう。
勝ったと思われた宿敵の名前がそこには載っており、かつ訳のわからない点数表示をされているものだから、無理もないと言えるだろう。
「わぁ、なにこれ?」
「0位って…1位よりも上ってこと?」
「ってか、なんだこの点数」
「どうやら、芸術と舞踊の先生が感動してこんな点数つけたらしいよ」
「その先生方って、たしか厳格な人じゃありませんでした?」
「あの人たちを感動させるって相当だぞ、俺一回も表情変えるとこみたことねーもん」
「それって認められるのかよ?」
「まぁオッケーなんじゃね?張り出されてるし」
困惑した状態のまま、周りの声が耳に入ってくる。
(そんな、バカな)
開いた口が塞がらないまま、ドギーは膝を折った。
勝ったと思いきや、圧倒的なまでに敗北していたのだ。
打ちひしがれるなと言う方が酷というものである。
「あ、エレオノール様ですわ!!」
「エレオノール様ぁ!!」
「へぐっ」
女子生徒の甲高い声が聞こえてくると同時に、ドギーは彼女たちに蹴飛ばされる。
人の多いところでこんな低い態勢と取っていたら仕方のないことであった。
目をチカチカとさせながら顔を上げると、そこには宿敵である黒髪の美少女の姿が。
「あんな結果を出してしまうなんてすごいですねっ!」
「さすがエレオノール様ですっ!」
「圧倒的で感動的な成績ですわっ!」
周りに集まった取り巻きたちが口々に彼女を褒め称える。
その数は……指折りでは到底収まらない。
おそらく数十人にも昇る者がエレオノールを取り囲んでいた。
対してドギーは蹴っ飛ばされて集団からつまはじき…。
「みなさんありがとうございます。でも、偶然注視していたところが出題されて、運がよかっただけですよ」
あくまでにこやかに、そして謙虚にエレオノールは受け答えをする。
貴族特有の、謙遜風自慢などではない。
本当に悪意も混じりけのない笑み。
それを見てドギー・カミカムは、二度目の敗北を味わうことになるのだった。
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