第49話 我らが役目
ジークヴァルト・アストルフォン。
ライティシア学園の生徒会会長にして、第三学年の代の首席。
世界でも有力なこの国の第一王子であり、あらゆる方面にて偉才を発揮していることから、多くの者から将来に期待の眼差しを向けられている。
容姿については、目玉が飛び出るくらいには良い。
切り揃えられた銀髪と、翡翠のように透き通った瞳を携え、まさに白馬の似合う王子様という感じだ。
男でも見惚れてしまうくらいだろう。
そんな完璧超人としてデザインされた彼だが、『セレスティア・キングダム』においては攻略対象の“ラスボス”とされている。
求められるパラメータ値が他キャラと段違いであり、相当な計画を練ってプレイしないと攻略は夢のまた夢。
パラメータを上げようにも、その過程で他の攻略対象と仲を深めてしまうことも多い。
うっかりゴールインしないよう好感度調整…という名の嫌われ行為をしなければならなくなるため、そういった邪悪さ(本人は無罪)からも“ラスボス”と呼ばれている。
さて現在、そんなキャラクターとしてもこの世界の身分としても大層なお方に、俺はお目見えしている。
正直言って、ちょっと……否、かなり感動している。
攻略する上での強烈な印象とダントツイケメンな容姿とが合わさって、人気投票ではトップスリー常連みたいなキャラクターなのだ。
それが生命活動をして今目の前に立っていると考えると、失くなりかけていたオタク心も復活するというモノだ。
「初めまして、アストルフォン様。第一学年生徒会役員のエレオノール・アンシャイネスと申します」
感動に浸っている俺を差し置いて、エレオノールは例によって挨拶をした。
こんなにもなイケメンと対峙しているというのに、顔色ひとつ変わっていない。
もし俺が乙女だったら、顔を真っ赤にして卒倒していたところだろう。
なんなら今でもそれくらいできると思う。
「は…初めまして。同じく、アルクス=フォートと申します」
まぁ流石にそんなことになるわけにはいかないので、俺も続いて挨拶した。
「うんうん。僕のことはジークとか、ジーク先輩とか気軽に呼んでね。これからよろしく」
空中に薔薇が咲き誇っているのではないかと見紛えるほどに、美しい微笑みをジークは浮かべた。
こんなのズキュゥゥン!不可避だろうに。
「ふふ、アストルフォン様ほどの方を気軽に呼ぶなんて恐縮でございますよ」
と思ってたら、エレオノールは依然とにこやかな笑みで返事をしていた。
ここまでくると彼女の鉄仮面には恐れ入るな。
「今日から新メンバーが加わって賑やかになるね!」
「これ以上賑やかになったらどうなっちゃうんですかねぇ…」
「おいおい、言われてるぞ。カルロス」
「はぁ?いつも問題起こすのはシャロンとクロムだろーがよ」
「ちょっと、私を巻き込まないでよ!」
ジークがにこにこしてそう言うと、同学年のエミリーが皮肉る様に呟き、後輩たちがやいのやいのと騒ぐ。
「はいはいっ!静かにして!もう、後輩の前なのにぃ…」
「ははは。まぁ、取り繕ってもいつか化けの皮が剥がれちゃうわけだし、いつも通りで行こうよ」
「会長が諦めないでよねっ!」
エミリーがそれを諫めて、ジークはやれやれと笑う。
ゲームでも見たテンプレートのような展開に俺はちょっと感激してしまう。
騎士科の方ではこういう絡みを見られないので、ファンとしては嬉しいなぁと思う。
しかしエレオノールの方はというと、笑みは崩れていないものの若干置いてけぼりという感じになっていた。
まぁ…身内ノリに近いからね、さもありなん。
「えっと、僕たちはどの役職に就くことになるのでしょうか」
なので、頃合いを見計らって俺は話を切り出した。
後輩たち(…俺たちからすれば先輩だけども)はお構いなしに騒いでいるけれど、ジークは思い至ったようにして。
「あ、そうだね。今年度の役割を決めておこうか」
パン、と手を叩く。
途端に、口さがない三人が閉口し、ピシッと姿勢を正して向かい合うソファに着いた。
…統制が取れているのか、取れていないのか。
わからなくなるけど、これらはひとえに…ジークの【カリスマ】によって成り立ってるのであろうことはなんとなくわかった。
***
「さて、今年度の役職についてだけど…三人は去年と引き続きでお願いするよ」
「了解いたしました」
「うーっす」
「わかりました」
ジークがチョーク…のようなもので、黒板…のようなものに役職を書き記していく。
ひねくれ眼鏡、クロムは会計。
やんちゃ男子、カルロスは広報。
活発系な女子、シャロンは書記。
ジークが会長でエミリーが副会長…、ファンからすれば馴染みある布陣だ。
「アルクスくんとエレオノールさんは…どんな役職が良いかな。できるだけ長所にあったところに入ってもらいたいけど」
黒板に書くのを書記のシャロンに引き継ぎながら、ジークは尋ねる。
う~ん、役職かぁ。
生徒会役員になる!ということばかり考えていて、そのあとのことをあまり想定していなかったから、やりたいことなんかはイマイチ思い浮かばない。
正直言ってなんでもいいけれど。
「アルクスって言ったら、あれだよな。テストをぶっ壊したかなんだかっていう」
「初日に決闘騒ぎを起こしていましたよね」
「そうそう、あっという間に時の人って感じだよねぇ」
…あ、認知されちゃってるのか。
そりゃあまぁ、あれほどいろいろやって生徒会の耳に入ってないほうがおかしいよな。
「エレオノールさんも、首席合格者で名が広まっていますよね」
「私の後輩からもエレオノールさんは凄い!って話聞いたよ」
「他の候補者が自信なくなるくらいにはやべぇって話だもんなァ」
エレオノールもやはり話題に上るようだ。
彼女も彼女で、首席というエリート。
学校生活でも活躍しているらしい。
首席ワンツーで生徒会役員、この文言だけでも結構のパンチがあるから、そりゃあ話題には事欠かないよなぁ。
話題だけ独り歩きして誤解されたりなんだりしなければ良いけど。
「こらこら、本人たちの前で失礼でしょ!」
「悩んでるようなので提案してあげようとしてるんスよ。役割を決めるには、人の成りってのが大事でしょ?」
エミリーがそう言うが、カルロスが飄々と言い返す。
…とはいえ、俺に向いている役職というのはイマイチピンとこない。
一応は全部の役職はできるだろうけども、彼らほどにピッタリと言われるとどうか。
エレオノールは、何か決まっているのだろうか。
「……私は、」
と思ったらタイムリーに、彼女は口を開いた。
そして
「私はアルクスと一緒ならどの役職でも構いませんよ」
「えっ」
当たり前のようにそう言うもんだから、俺は間抜けにも声を漏らしてしまった。
急いで見た彼女の横顔は、まったく変わらずニコニコ顔。
当たり前のように、というか、当たり前なのだろう。
…そういえば、俺と一緒にいる時間を延ばすために生徒会に入ったわけだもんな。
そう考えると合理的な感じはするが…それにしても俺に一存するのは話が違うと思うっ!!
「…なるほどね」
ジークがほほえみながら頷いた。
エミリーはびっくりしたような表情をしている。
クロムは「ほう…そう来ましたか」なんて言ってるし、カルロスはキョトンとしているし、シャロンは顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。
「それを受けて…アルクス君がやりたい役職はあるかい?」
「えぇっと…」
まさか二人分の選択を迫られていて、言葉に迷う。
今までひとり、ふたりで回してきた役職に、いきなり二人増えるのはなんというかアンバランスになるよな…。
う~んと頭を悩ませて、遂に俺はようやく口を開いた。
「では…庶務の方を任せていただけると…」
おずおずと俺はそういう。
いわゆる雑用となるその役職だが、しかし縁の下の力持ちな存在でもある。
俺の性格上でも、そういった役目の方があっているだろうからな。
「…うん、いいね。それじゃあ、アルクスくんとエレオノールさんには、庶務を任せようかな」
優美にジークは微笑むと、顔を真っ赤にしていたシャロンはハッとしたように我に返って、急いで黒板に記していく。
『庶務:アルクス、エレオノール』
俺と彼女の名前が生徒会の末席に刻まれる。
かくて、生徒会庶務アルクス、エレオノールが爆誕したのだった。
「一緒に頑張りましょうね、アルクスっ」
「…そうですね」
ギュッと距離を詰め、彼女はぐっと拳を握りながら満面の笑みでそう言った。
…なんだか最近、人前でも見せつけるくらいに距離が近い気がするんだよな…。
流石にもう少し控えていいんじゃないかと思うが、先輩たちがいる手前注意はできず、あははと苦笑するしかできなかった。
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