不倫
セックスって、上手くなるんだろうか?
初めての彼氏は、においが好きだった。
内面より本能的に好きになった人だからか、セックスも気持ちよかった。
”セックスってこんなに気持ちいいんだ!”と、知って、世の男女が色恋に血眼になる理由がわかった。
そこから、二人目、三人目……と彼氏歴があるわけだが、良かった順に☆をつけるなら、
初カレ☆☆☆
二人目☆
三人目☆☆
だった。
二人目の彼氏は知的で優しかった。
結婚相手には良かっただろう。
だが、セックスの相性はよろしくなかった。
”ああ、自分は歳をとって、もうそういうことは感じなくなってきたんだな”と、思っていた。
別に、セックスばかりが男女の絆じゃないだろう。
二人とも本気で結婚を考えていたが、結局うまくいかなかった。
そして三人目。
二人目よりは良かったが、普通だ。
コトをなして、あっちはなんだか良かったみたいだが、こっちは”まあ、今日のデートの義務は果たしたか"といったところだ。
匠はn番目の彼氏になるわけだが、初カレに近い快感があって驚いた。
なんだ、私が悪かったわけじゃないんだ。
それにはちょっとホッとした。
体の相性なら、初カレが一番だ。
匠は近いが、こちらが猿になるほどではない。
アレのサイズや形は大体みんな同じだったから、何をもって違いがあるのかはわからない。
初カレは本当に本能的に合う感じだ。
匠は技能的な感じがする。
そんな話、わざわざすることでもないが。
どちらにせよ、ランキング上位の二人は入れたときから違うのだ。
大して前戯がなくても、入れただけで気持ちいいならセフレとしてキープしましょう、ってなりませんか?
体の相性が良いパートナーを見つけるのは難しい、と図らずも知っていた私は、匠と都合のいい関係を結ぶことにした。
なんてことはない。
適当に都合を合わせて、セックスしましょう、ってだけだ。
束縛もイベントへのこだわりもない。
多少、匠がメッセージでじゃれついてくるのが面倒なくらいだ。
独寝が寂しいなら、一発ヤッてあげましょうか?って感じだ。
イチャイチャとメッセージをするくらいなら、そっちの方が楽だと思う。
♢♢♢
匠は「自分が男だったら、こんな体に生まれたかったな」という体をしている。
顔もイケメンだが、目立つような美形でないのがちょうどいい。
ちなみに、顔は好みではない。
今日は夜に会って、ごはんを食べ、ホテルに行く。
夫は飲み会で遅くなるし、私も一応女子会と言っておく。
セックスの前というのは、いつも、誰が相手でも緊張する。
他の人はどうなんだろうか。
聞くに聞けない。
男たちがヤる前から猿になっている様子を冷めた見てしまう気まずさ。
あのギャップの埋め方がわからない。
幸い、元カレたちはいい人ばかりだった。
だからなおさら辛い。
彼らは興奮してただ触りたいように触り、前戯はダラダラかワンパターンだ。
まあ、セックスなんて人生の中の一瞬だ。
今だけ、彼らが気持ちいいようでいいじゃないか。
そんな感じだった。
匠は普段から紳士的だったが、初めてのとき、こちらの服を脱がせながら畳んで置いてくれたのには驚いた。
これから、ってときに畳む暇があったら一回でも多くキスをした方がいい気もするんだが。
なんか、あるんだろう。
今日はバスルームからだ。
キスをして挿入して、ああ、今日も気持ちいいね、ってなったら匠のも舐めてあげる。
じゃあベッドに行きましょう、となる。
匠は毎回必ずあそこを舐めてくれる。
正直、それが気持ちいいかと言われれば、そうでもない。
が、なんとなく、大事にされているような気がする。
匠の触れ方は、強さも触る長さもちょうどいい。
こんなにセックスしてるのに、毎回自分が感じるところが違っていて驚く。
匠はちゃんとそれに合わせて……あるいは引き出してくれているんだろう。
こちらが夢心地になって、自然と彼にも奉仕したくなるが、それはやんわりと断られる。
そんな流れからの挿入なのだから、まずもって気持ちいいに決まっている。
ピロートークにイチャイチャ話すこともあまりないが、やっぱり良かったのだからくっつきたくはなる。
ちなみにこちらは二回戦も良しなのだが「そればっかりは歳なんだよなぁ」と言われる。
「セックスのとき、何考えてるの?」
「え? どうやったら美春が気持ち良くなるか考えてるよ」
「そうなんだ。あんまり、私にはさせてくれないよね」
「セックスは、男が女を気持ち良くさせる場面だと思ってるからね」
カッコいいこと言うな、こいつ。
♢♢♢
セフレというだけでも優秀な匠は、それだけじゃなく、仕事の相談にも乗ってくれた。
「忙しいのにごめんね」
「全然忙しくないよ」
と言う。
相談すれば、すぐ電話が来るか、その日のうちに会う。
ちなみに、彼が仕事で紹介してくれた良き男性たちはみんなそうだった。
フットワークが軽く、親切で、ユーモアがあって紳士だった。
頭痛のタネである、自分の会社のクソ上司どもは正反対。
俺の時間を取りやがって、それくらい自分で考えろ、俺の話で笑え、お前は可愛げがない。
そんな奴らだ。
「会社、変えたら?」
匠が言う。
「まあ、それが一番早いんだけど……」
「聞く限り、会社そのものも、業界的にも、どうにもならないと思うよ」
「……そっか……」
「楽に稼ぐことはできるよ。不死鳥のように蘇る会社もあるかもしれないけど、美春がそんなに無理をしなくていいんじゃないかなって、俺は思う」
「匠の会社は、最初からうまくやれたの?」
「まさか。出だしはたまたま上手くいったけど、苦しい時期も長かったよ。5人で創業したけど、結局俺一人になったし、最近まで借金返すためだけに働いてたからね。家庭もうまく行かなかったし、世の中のまともな会社社長は本当すげぇと思う」
匠は笑った。
「……なんで別れちゃったの?」
聞いたら女々しいかと思って、今まで聞かずにいたことだ。
「仕事が最優先だからだよ。社員はさ、まだ自分の意思でうちを選んだんだから、責任は半々じゃん。でもそいつが結婚したらさ、奥さんはうちの会社のお金で半分人生決まるじゃない。さらに子どもが生まれたらさ、子どもの人生の半分はうちの会社が決めるようなものだろ?そう考えたら、俺が仕事最優先なの当たり前だよね。でも、なかなか元奥さんにはわかってもらえなかったんだよ」
セックスが上手くて、責任感があって、社員想いの社長でも、ダメなのか。
結婚って難しいな。
「それがあって今の俺があると思うと、そのヤバい時期もいい経験なんだけどさ、他の人が変に苦労してるのみると、そんなにしなくていいんじゃない?って思うんだ。案外あっさり別方向に舵をきった方がね。”苦労したから報われる”……んじゃなくて、”苦労の先に何もない”と学んだ感じ」
「なるほどね……」
「大体にして、苦労したから報われる、って、公務員の先生が言う言葉だよね。苦労してる間に死んでしまう民間企業には合わないっていうか」
思わず笑った。
「気楽になるとさ、人生楽しいよ。案外、いい人はいっぱいいるし、お金も入ってくるし。美春は……何かを得ようとする気持ちが強いからさ。もっと適当でもいいんじゃないかな。普通の人より頑張ってるよ」
「そっか……。いつもありがとう。すぐに時間とってくれて」
「もう暇だから、大丈夫」
匠は笑って言った。
「今更なんだけどさ、なんで親身になってくれるの?」
セフレだとしても、だ。
「似てるから、かな。困ったり、ムカついてる気持ちがわかる気がするんだ。でも、それを突き詰めても何もないってことも知ってるから、それを教えてあげられたらいいのかな、って思ってる」
匠はいつも、押し付けがましくない言い方をしてくれる。
いっぱいいっぱいな私の様子がわかってるからだろう。
♢♢♢
職場は常に不機嫌と不満が蔓延していた。
その中でまともでいられるのはもう難しい。
匠に言われて、転職へ気持ちは傾いていた。
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