「それで君は迷子になったのね」拓真は母親とはぐれた経緯を貰った苺飴を食べながら話した。女の子は春の陽だまりに咲く花のような繊細な優しさで拓真のことを宥めた。その優しさのお陰で拓真も少しは気分が楽になった。

 「君、名前は?」女の子が素朴な顔で尋ねた。「た、拓真です」と自分の名前をつっかえながら言った。

「拓真ね、私マコよ。」と言ったと同時に綿毛のように真っ白い手を差し伸べた。拓真がそれを手に取ると、マコはそのまま歩き始めた。

「歩くの好き?」「うん」と差し障りない回答をすると「私も好きよ。なんてったって動けるんだから」と笑った。

 「なりたいものとかはある?」「特にない」素直に答えると「なんだ」と少し笑いながらマコは返した。何かおかしなことを言ったかなとマコの顔を見るとどこ吹く風と言わんばかりの明るい表情をしている。

 さっきまでの人混みへの恐怖心がかなり解けていることに気がついたのはもう何分も歩いた頃だった。マコの話声や歩く速さが心に絡まっていた無数の糸を一気に緩めるように拓真は思えた。

 「ねぇね、あそこのベンチ行かない?お日様がたっぷりだよ」マコのその春の鳥のさえずりのような高い声は燦々と日が当たるベンチへの気持の高揚さが知れる程だった。マコはそのまま拓真の手を引いてベンチに駆け寄り、座った。

 「うっ、眩しい」太陽の日差しで拓真は軽く目眩を起こしてしまった。

 「あんまり外出ないの?勿体無い」とマコは物悲しそうに言った。

 「外は好きじゃない。眩しいし、暑いし、いいことないよ。」と拓真は少々マコに対して強く言った。

 「まぁなんでもいいじゃん。両手広げてみなよ。」とマコは拓真に促した。

 気乗りしない拓真は不貞腐れたままマコの方を見た。日焼けも気にせず日差しを浴びるマコは顔色も良かった。おまけに着ている着物の黄色も少し前より鮮やかに見える。

拓真もマコの姿に釣られて両手を広げることにした。

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憧れの花 あまガエル @amama95sk

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