憧れの花

あまガエル

 

 市営の公園を丸っと使って大々的に催す「桜祭り」は例年通り沢山の人で溢れかえっている。そこへ母親と訪れた拓真たくまは一人ぼっちだった。人混みに気圧けおされて繋いでいた母親の手をつい離してしまったのだ。頭の多くを占める不安で拓真はぽつんと突っ立っていた。人の行き交いと話し声で気が滅入りそうになっていると「君、顔色悪いよ」とぶっきらぼうに言った女の子がいた。

「えっと、」拓真は困惑した。肩に掛からないくらいの黒髪に淡い黄色い着物を着た高校生のような女の子が無愛想な表情で拓真の顔を覗いている。一重の細い目から放たれる針のような視線は不安で溺れそうな心に恐怖心を植えつけた。

「僕、えっと、僕は」だんだんと拓真に声が小さく震え出した。

すると、「あー、ごめんね。ごめんね。別に泣かせた訳じゃないの。あ、これいる?」と女の子は持っていた苺飴を拓真に渡した。

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